神様自学

天ノ谷 霙

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7月21日 昼食をとろう

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「お昼にしない?」
深沙ちゃんが言った。そういえばまだ食べていなかったな、と思いながら時計を確認すると、短針が12を指していた。
「そうだね。どこで食べる?」
「深沙、美味しいところ知ってるよ」
そう言ってふらふらと歩き始めた。デパートを出たところで、深沙ちゃんが振り返る。
「もう買い物大丈夫?結構遠くに行くかもしれないんだけど…」
「う、うん。私はクリームだけ欲しかったから」
「そっか」
深沙ちゃんはホッとしたような表情を浮かべ、そのまま駅に向かった。電車に乗る。
「深沙ちゃんは良いの?まだ買う物あったんじゃ…」
「良いの。それより夕音ちゃんに紹介したいの。すごく美味しいお店」
「わ、わかった」
どこに行くのかも分からないまま、深沙ちゃんの案内について行く。そして、深沙ちゃんが足を止めた目の前には、たくさんの緑に囲まれたドールハウスのような可愛らしい店があった。
「ここ、fruitふるーつ  tarteたるとって言うんだ。可愛いよね」
「うん!可愛い!早く中に入ってみたい」
「良かった、気に入ってくれたみたいで。中に入ろうか」
深沙ちゃんの後に続いて中に入ると、いらっしゃいませ、と綺麗な声が聞こえた。
「おや、喜岡さん。それに新しいお客様。いらっしゃいませ。fruit  tarteにようこそ」
短い黒髪を後ろで小さく結んだ格好良い女の人が話した。声を聞かなかったら、中性的な顔立ちのために性別がわからなかっただろう。深沙ちゃんがカウンター席に座ったので、私も隣に座る。
「私はマスター。別に名前もあるけど、ほとんどの人が呼ばないから、そう名乗っておきます」
マスターの翡翠色の瞳が、澄んでいてとても綺麗だった。
「マスター、ホットケーキありますか?」
深沙ちゃんがそう言うと、マスターはふふっと笑った。
「あるよ。お客様、名前を聞いてもよろしいですか?大丈夫、怪しいことには使いません」
「あ、は、はいっ。稲森  夕音です」
「稲森さんか。覚えた。稲森さんもホットケーキで良いのかな?」
「あ、はいっ」
さっきから何故か慌ててしまう。マスターが格好良いからだろうか。
「飲み物はどうしますか?」
いつの間にか隣に女性が立っていた。胸より下に伸びた長い髪をハーフアップのようにしてリボンで結んでいた。
「深沙はオレンジジュースで」
「え、えっと…」
私が困っていると、マスターがメニュー表を差し出してくれた。小さくお礼を言い、メニューを開いた。
メニューには、可愛らしいイラストや優しい文字が並べてあった。手書きのように見えた。
「え、えっと、じゃあ…アップルジュースで」
「かしこまりました」
女性がお辞儀をして、カウンター内に入る。するとマスターが奥の部屋に入って、男性を呼んできた。
「アイス、ホットケーキ2つ。甘いのにしてくれ」
「…了解」
マスターは、指示を出すと奥に入ってしまった。
「あの男性、アイスさんって言うんだけど、アイスさんのホットケーキ、すごく美味しいんだよ!」
「そうなんだ」
嬉しそうな深沙と会話をしながら、出来上がるのを待っていた。
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