神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
684 / 812

内緒話 羅樹

しおりを挟む
小さな頃教えてもらった、夕音と僕の秘密の話。
何度も体調を崩して寝込む夕音が、僕はいつも心配で側にいた。熱を出して苦しむ様子は胸が痛くなって、どうしたら早く治るのだろうといつも考えていた。夕音のいない学校はつまらなくて、この間に夕音が消えたらどうしよう、といつも不安になっていた。だから帰ったら一目散に家を飛び出して、夕音の家を訪れていた。夕音がいることを目の前で確認して、安心したかった。
そんなある日、夕音が落ち着いて眠っている間に、夕音のお母さんが僕の隣に座ったことがあった。夕音の頭を撫でて、未だ苦しそうだが落ち着いた表情を慈愛を込めて見つめる。それと同じ視線を僕にも向けて、夕音のお母さんは「ごめんね」と小さく苦笑した。
「何が、ですか?」
「夕音は、きっと愛されてしまったのね」
「何に?」
「…何かしらね」
その意味がよく理解出来なくて首を傾げていると、夕音のお母さんは泣きそうな顔をして、僕を抱き締めてくれた。その時呟かれた声は掠れていたけれど、僕の耳には届いていた。
「夕音を、忘れないでね」
離された後に、夕音のお母さんはぽつぽつと話し始めた。また夕音の頭を撫でて、目を細めて記憶を辿る。
「昔もね、同じことがあったの。夕音が居なくなって、随分長いこと探し回ったわ。けど何処にも居なくて、最後に行ったのが神社だった。もう神頼みしかないと思ってお願いしたら、急に目の前に現れたの。思わず抱きとめたのだけど、夕音は相変わらずきょとんとしていて。その温度が酷く冷えていたものだから、私は驚いて。夕音を抱き締めて熱を移そうと必死になったのだけど、きっと夕音はどうして私がそうしているのかは分からなかったんでしょうね」
その話は、何だか少し前にあった僕のことのようで。目の前で夕音が消えたと泣き叫んだ僕と同じ状況だったのではないかと、その心中が理解出来てしまって眉尻を下げた。そんな僕の様子に気付いたらしい夕音のお母さんは、僕の頭を撫でて笑ってくれた。それは病気を隠していた僕のお母さんの姿と重なって、苦しいのを必死に誤魔化そうとしているのだと本能的に気付いてしまった。
「お母、さん」
小さく呟いて、今度は僕が夕音の頭を撫でる。いつの間にか呼吸が落ち着いて、穏やかな寝顔に変わっていた。
「僕、絶対忘れないよ。夕音のことが好きなひとが何人いても、僕は絶対負けないから」
夕音のことを愛しているからと連れて行くのは、自分勝手というものだろう。それに夕音が納得しているのなら、構わないけれど。夕音が幸せなら、それでいいのだけど。


 も、

それで
夕音が居なくなってしまうのはやっぱり嫌だから。
夕音に納得なんて、させるわけがないのだけど。

忘れた願いの先の言葉が、脳裏に浮かんで消えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...