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過ちの選択
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「とうとう爆ぜたのですね」
鈴を転がすような涼しい声が響く。ハッと振り向けばすぐそこに、ゆらりと空間が蠢いて否守様の姿が露わになった。
「天女神様!?どうしてここに…!?」
「虹に命じたのは私ですもの。そして世界の管理は私の仕事です」
虹様の驚きにぴしゃりと冷静に返す否守様。ぜぇはぁと髪を振り乱し息を切らした私を見下ろして、苦笑いを浮かべている。
「こうなる前に、と思ったんですけれど。やはり運命は変えられないものですね」
私は戸惑いながら、何処か他人事のように否守様を見ていた。稲荷様も同じように否守様を見上げており、その視線に気付いた否守様は「さて」と言葉を切って、稲荷様の方を向いた。私は慌てて稲荷様の上から退き、平伏に近い形で言葉を待つ。
「お前はやはりそちらを選んだのですね」
「…っ!」
呆れたような冷たい声色が、稲荷様の耳を打つ。私と同じ赤い瞳が鋭く細められて、直接向けられているわけではない私ですら凍えてしまいそうだ。虹様やリーロも体を固めた気配がする。
その言葉を浴びせられた稲荷様は口をはくはくと動かして、視線を彷徨わせた後で震える声を零した。
「そ、れは。あ、天女神様も仰った通り、わたしは、わたしの過ちを、繰り返さぬ、ように」
「お前は本当に、何一つ分かってなかったのですね」
ひゅ、と息を呑む音が隣から聞こえた。顔色は青白く、ガタガタと震えている。
「わ、わた、しは」
「お前はそこの使との関係で何を学んだの」
ぐさりと心臓を一突きにするような一言だ。ちらりと視線を動かせば、稲荷様に支えている狐達が壁際で頭を垂れて震えている。その中には恋音さんもいた。否守様に指されたと同時に、震えが酷くなる。
「答えなさい、稲荷。お前は何を過ちと定め、何を改めたの」
威厳あるお声が、じわじわと足元から崩すように迫って来る。先程私が稲荷様に向けていた怒りなど子供の癇癪だとでもいうかのように、次元の違う叱責が場を支配する。
「…っ」
黙りこくってしまった稲荷様に、否守様はふぅと息を吐いて。くるりと体をこちらに向けた。
「夕音、少し借りても?」
「え、」
頷く前に、否守様が私の前に跪く。目線が合わせられたことに驚けば、そのまま手を握られた。指先がじわじわと温もりを持って、心臓の奥から何かが引っ張り出されるように満ちて行った。その感覚は記憶が引き出されるほど古いものではないけれど、何処か懐かしい気がした。
体に、力が満ちていく。
「さぁ、思い出しましたね。貴方の力を見せてください」
水の中に落ちるように、心臓の音だけが周囲を支配する。揺らめく力の在処が、酷く懐かしい。その力の使い方を、私はずっと知っている。
「 " 繋げ 紡げ お前の 最奥の 記憶 " 」
温かな光が、身体中を駆け巡った。
鈴を転がすような涼しい声が響く。ハッと振り向けばすぐそこに、ゆらりと空間が蠢いて否守様の姿が露わになった。
「天女神様!?どうしてここに…!?」
「虹に命じたのは私ですもの。そして世界の管理は私の仕事です」
虹様の驚きにぴしゃりと冷静に返す否守様。ぜぇはぁと髪を振り乱し息を切らした私を見下ろして、苦笑いを浮かべている。
「こうなる前に、と思ったんですけれど。やはり運命は変えられないものですね」
私は戸惑いながら、何処か他人事のように否守様を見ていた。稲荷様も同じように否守様を見上げており、その視線に気付いた否守様は「さて」と言葉を切って、稲荷様の方を向いた。私は慌てて稲荷様の上から退き、平伏に近い形で言葉を待つ。
「お前はやはりそちらを選んだのですね」
「…っ!」
呆れたような冷たい声色が、稲荷様の耳を打つ。私と同じ赤い瞳が鋭く細められて、直接向けられているわけではない私ですら凍えてしまいそうだ。虹様やリーロも体を固めた気配がする。
その言葉を浴びせられた稲荷様は口をはくはくと動かして、視線を彷徨わせた後で震える声を零した。
「そ、れは。あ、天女神様も仰った通り、わたしは、わたしの過ちを、繰り返さぬ、ように」
「お前は本当に、何一つ分かってなかったのですね」
ひゅ、と息を呑む音が隣から聞こえた。顔色は青白く、ガタガタと震えている。
「わ、わた、しは」
「お前はそこの使との関係で何を学んだの」
ぐさりと心臓を一突きにするような一言だ。ちらりと視線を動かせば、稲荷様に支えている狐達が壁際で頭を垂れて震えている。その中には恋音さんもいた。否守様に指されたと同時に、震えが酷くなる。
「答えなさい、稲荷。お前は何を過ちと定め、何を改めたの」
威厳あるお声が、じわじわと足元から崩すように迫って来る。先程私が稲荷様に向けていた怒りなど子供の癇癪だとでもいうかのように、次元の違う叱責が場を支配する。
「…っ」
黙りこくってしまった稲荷様に、否守様はふぅと息を吐いて。くるりと体をこちらに向けた。
「夕音、少し借りても?」
「え、」
頷く前に、否守様が私の前に跪く。目線が合わせられたことに驚けば、そのまま手を握られた。指先がじわじわと温もりを持って、心臓の奥から何かが引っ張り出されるように満ちて行った。その感覚は記憶が引き出されるほど古いものではないけれど、何処か懐かしい気がした。
体に、力が満ちていく。
「さぁ、思い出しましたね。貴方の力を見せてください」
水の中に落ちるように、心臓の音だけが周囲を支配する。揺らめく力の在処が、酷く懐かしい。その力の使い方を、私はずっと知っている。
「 " 繋げ 紡げ お前の 最奥の 記憶 " 」
温かな光が、身体中を駆け巡った。
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