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"化かし日和のともしび" 10
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セイ(由芽)は頭を掻きむしりながら叫び散らす。
「違う、違う、違う!僕は人間が嫌いで、幾つも世界を壊す人間が憎くて、その度に管理者である僕は苦痛を見なければいけないから苦痛で仕方なくて!何も知らずにのうのうと生きて悪意を垂れ流している人間が、大嫌いで!」
「何も知らずに生きている人間が、ね」
「…っ」
アマネ(霙)の言葉に眉を顰め、顔を上げるセイ。そんなセイに近付いて頬に張り付いた髪を払ってやると、アマネはくすりと笑った。
「ねぇ、セイ。この世界に溶けて来た人間は、悪意に影響を受けて絶望の中に堕ちたんでしょう?じゃあそれに関わらない部分は?」
「…どういう、意味?」
「私は性善説なんてこれっぽっちも信じてないけど、中立があるだろうことは理解してる。そうでなきゃとっくに人類なんて互いを殺し合って絶滅してるでしょ。だから悪意を削ぎ落としたら何も残らないなんてあり得ないと思ってる。それは、何処に行くの?」
「知らない」
アマネの問いに間髪入れず答えるセイ。しかしその目は泳いでおり、わかりやすく動揺している。それを見て確信を深めたらしいアマネは、ふっと息を吐いて笑った。
「やっぱり。この世界に溶けた後、何処か行く先があるのね?」
「っ」
「何も行き先がなければ、疑問符を浮かべる場面だもの」
アマネはぱさりと髪を後ろに流すと、切なそうな微笑みでセイを見つめた。
「私を絶望に突き落として悪意に溶かそうとしたのは、そうすれば私がその行く先に進めると思ったから?出来れば好奇心すら浮かばないように、貴方への嫌悪と憎悪でも抱けば完璧だった?でも、ごめんなさいね。私、貴方への嫌悪なんてこれっぽっちも抱かなかった」
端的に言えば、セイはアマネを助けようとしたのだ。この世界に来ることを選ぶ程の魂が、深い深い絶望に染まっていることは分かりきっていたから、最初にその事例が現れた時にどうするか、セイやその上のモノとの間で取り決めが成された。悪意を浄化し、新たな輪廻転生へ。だから悪意の少ない、それこそ好奇心に負けるほどにしかないアマネはイレギュラーであり、だからこそどんな影響が及ぶか分からなかった。現世で散々味わった苦しみをもう一度味合わせるのは可哀想だと思った。だから早く輪廻転生に乗れるように、セイはアマネを溶かそうとしたのだ。心が絶望に染まれば、あとは意識せずとも勝手に溶ける。その間に人間が絶叫することも口を開くこともないことは知っている。穏やかに、眠るように、魂が巡るのをただ待つだけだと、管理人であるセイは知っていたから。だからアマネの心を黒く塗り潰すことを選んで、そのまま絶望へと突き落とした。恨まれるのなら、嫌われるのなら。それで構わない。その感情もアマネが溶ける手伝いをしてくれる筈だから。
そう、思っていたのに。
あろうことか目の前にいるアマネという者は、"優しいふりをして殺そうとした"筈のセイを全くもって恨んでいないと宣うのだ。セイは愕然と目を見開く。
「だって私、最初に見た貴方の顔が凄く悲しそうだったことを、知っているもの」
アマネは悪戯を打ち明けるように、小さく微笑んだ。
「違う、違う、違う!僕は人間が嫌いで、幾つも世界を壊す人間が憎くて、その度に管理者である僕は苦痛を見なければいけないから苦痛で仕方なくて!何も知らずにのうのうと生きて悪意を垂れ流している人間が、大嫌いで!」
「何も知らずに生きている人間が、ね」
「…っ」
アマネ(霙)の言葉に眉を顰め、顔を上げるセイ。そんなセイに近付いて頬に張り付いた髪を払ってやると、アマネはくすりと笑った。
「ねぇ、セイ。この世界に溶けて来た人間は、悪意に影響を受けて絶望の中に堕ちたんでしょう?じゃあそれに関わらない部分は?」
「…どういう、意味?」
「私は性善説なんてこれっぽっちも信じてないけど、中立があるだろうことは理解してる。そうでなきゃとっくに人類なんて互いを殺し合って絶滅してるでしょ。だから悪意を削ぎ落としたら何も残らないなんてあり得ないと思ってる。それは、何処に行くの?」
「知らない」
アマネの問いに間髪入れず答えるセイ。しかしその目は泳いでおり、わかりやすく動揺している。それを見て確信を深めたらしいアマネは、ふっと息を吐いて笑った。
「やっぱり。この世界に溶けた後、何処か行く先があるのね?」
「っ」
「何も行き先がなければ、疑問符を浮かべる場面だもの」
アマネはぱさりと髪を後ろに流すと、切なそうな微笑みでセイを見つめた。
「私を絶望に突き落として悪意に溶かそうとしたのは、そうすれば私がその行く先に進めると思ったから?出来れば好奇心すら浮かばないように、貴方への嫌悪と憎悪でも抱けば完璧だった?でも、ごめんなさいね。私、貴方への嫌悪なんてこれっぽっちも抱かなかった」
端的に言えば、セイはアマネを助けようとしたのだ。この世界に来ることを選ぶ程の魂が、深い深い絶望に染まっていることは分かりきっていたから、最初にその事例が現れた時にどうするか、セイやその上のモノとの間で取り決めが成された。悪意を浄化し、新たな輪廻転生へ。だから悪意の少ない、それこそ好奇心に負けるほどにしかないアマネはイレギュラーであり、だからこそどんな影響が及ぶか分からなかった。現世で散々味わった苦しみをもう一度味合わせるのは可哀想だと思った。だから早く輪廻転生に乗れるように、セイはアマネを溶かそうとしたのだ。心が絶望に染まれば、あとは意識せずとも勝手に溶ける。その間に人間が絶叫することも口を開くこともないことは知っている。穏やかに、眠るように、魂が巡るのをただ待つだけだと、管理人であるセイは知っていたから。だからアマネの心を黒く塗り潰すことを選んで、そのまま絶望へと突き落とした。恨まれるのなら、嫌われるのなら。それで構わない。その感情もアマネが溶ける手伝いをしてくれる筈だから。
そう、思っていたのに。
あろうことか目の前にいるアマネという者は、"優しいふりをして殺そうとした"筈のセイを全くもって恨んでいないと宣うのだ。セイは愕然と目を見開く。
「だって私、最初に見た貴方の顔が凄く悲しそうだったことを、知っているもの」
アマネは悪戯を打ち明けるように、小さく微笑んだ。
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