神様自学

天ノ谷 霙

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3月24日 視界の共有

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人が同じ容姿をしていれば、誰もが女性として扱うであろう姿でにこりと告げるリーロ。最近は女性の格好をする男の人や、性転換をした人などが増えて来ているが、神様にも似たような性質のモノがいるとは思わなかった。悪感情などを抱くようなタイプではないが、中性的な声質と容姿の儚さから、つい女性と同じ接し方をしてしまっていた。先程リーロも述べた通り神に性別があるか否かという問題もあるが、無意識に虹様や稲荷様にも女性として接していた。
私は思わず虹様を見る。
『私は恐らく、ヒトでいう女に属すると思います。まぁ我々は気にすることもそれで区別することもないので、ヒトが気になるなら好きな方に分類すれば良い、という認識です。ですから羅樹様が気になるならば、リーロを男として扱ってくださって構わないということです。また、リーロの自認もそれに近いということを述べたまでのこと。ただそれだけです』
虹様の説明に納得する。ヒトのように性による区別がないため、普段は気にしない。けれど気になるというのならどちらにでもなるといったところだろう。つまり同じ理屈で、私が虹様や稲荷様を女性と扱っても構わないということだ。懐が広いというべきか、元々人もそうあるべきだったと考えるべきか。個で判断するのは、脳の情報処理過程に多大な資源を割くため相当な負荷を掛けるが、あまりにも楽をしすぎると別の問題を生むのだ。
「そ…う、ですか…?なら、リーロ、くん…?宜しくお願いします」
『はい。こちらこそ宜しくお願いします。そして、少し失礼します』
リーロは羅樹と額を合わせると、ぶつぶつと小さく何かを唱える。ぐにゃりと空間ごと歪んだかと思えば、リーロの姿は消えていた。
「リーロ、くん?」
羅樹が驚いて名を呼べば、返事があったようでびくりと羅樹が肩を跳ねさせる。残念ながらその声は私には聞こえないので、中で会話をしているのだろう。
「…そう、なんですか?じゃあ、お願いします」
そんな羅樹の言葉の後で、一瞬だけ羅樹の瞳の空色が桃掛かったオレンジに変化する。その変化の後で、羅樹が悲鳴を上げた。
「ど、どうしたの!?」
「うわっ、わっ、あっ、えっ!?」
「羅樹!?」
『…どうやら、リーロの瞳を借りたようですね』
「瞳を…?あっ」
いつか恋音こいねさんが私の視界を塞いでくれたように、羅樹の視界に干渉したのだろう。つまり今羅樹は、私がかつて見ていたのと同じ景色を見ている。
「だ、大丈夫!?」
思わずそう声を掛ければ、羅樹の瞳がまた一瞬だけ桃掛かったオレンジに瞬いて、しばらくしてからやっと落ち着いた。
「ゆ、夕音はいつも、あんな世界を見てるんだね…」
「いや私も最近取り戻してまた失ったから、そんなには見てないけど…」
「そっか…でも昔は見てたんだよね?」
「多分…うん、そう」
頷けば、「そっか」と呟いた羅樹は目を閉じて、しばらくしてから微笑んだ。
「ちょっとびっくりしたけど、夕音と同じものが見られたのはちょっと面白かったかも」
そんな感想に、化け物と言われなくて良かったと後から安堵して。
「それは、貴重な体験を出来て良かったね」
私も微笑みを返した。
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