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ヒトというのは、不可思議な挙動をする。
どう考えたとして、種の存続に必要のない"恋"と呼ばれる作業を行なってから繁殖を目指す。勿論そうではないヒトもいたが、わたしが居を構えた文化では恋を深く讃える文学がたくさん生まれていた。
わたしはそれを知りたかった。そして、それと同じ時期に拾ったヒトをその使にしようと決めた。
しかしそのヒトは、わたしが迎えに行く前に呆気なく生を終えていた。
ヒトの命は儚いのだと、ようやく思い出した。
わたしの中に迎え入れる準備をもう既に終えてしまっていたので、内に入れたあのヒトに深く情を移してしまっていた。もしかしたら手に入れる筈のモノがなくなって気分が悪かったのかもしれない。ヒトはそういったこともあるそうだから、我々にもそういった感情があるのかもしれない。何にせよ欲しくて、わたしは死者の国の管理者に会いに行った。転生の手続きを取るアレに、訴えるために。そして持ち掛けられた試練に、わたしはにべもなく挑戦を決めた。そんな面倒なことすぐに放り出せば良かったのに、わたしは見つけ出してしまった。
何度も何度も繰り返し、見つけ出した。
どんどん見つけやすくなっていった。
きっとそれは、誰かの言う通りわたしとあのヒトの間に縁が出来ていたから。
そしてその縁がヒトの世にとって厭うべきものだと知った時、わたし達はそのヒトをこちらの世に引き入れることを決めた。
同時期に姉神様がヒトと恋に落ちたと聞いた。わたしが最初、あのヒトを使にする時に調べさせようと思っていた"恋"の話を聞いて、大切なあの方の気持ちを理解しようと思って、あのヒトに恋使を命じた。あわよくば、あのヒトが人の世界と分かり合えれば、と思ったのだ。
けれどわたし達は所詮一介の神であり、世界の全てには太刀打ち出来なかった。皆で作り出した世界に逆らうのは、わたし以外の神全てを敵に回すようなものだった。
あまりにも強く結ばれたわたしとあのヒトの縁は、ヒトの世との不協和ばかりを強め、あのヒトからヒトとしての全てを奪っていった。
悔しかった。
申し訳なかった。
そして"恋"という不可解な事象は、わたしの大切な姉をも奪っていった。
姉は恋に陶酔し、ヒトの寿命の儚さを知って壊れてしまった。それ以外ではいつも通り優しかった姉神様は、想い人のことになるとわたしの言すら受け入れず、暴れてでも欲しようとした。そういった時には話すことが難しくなり、わたしは姉から距離を置いた。姉はわたしが苦しい時に側に居てくれたのに、わたしは姉の側で無力感を感じてしまった。好きだったけれど、わたしの好きでは救えないと諦めてしまった。
使としたヒトも、姉も、誰も救えなかった。
どうすればいいのだろうか。
ヒトと恋を理解するには、どうすれば。
そう思考を巡らせていた時に、わたしの耳に声が落ちて来た。
"羅樹に好きだと言えますように"
これが初めて聞いた、あの子の声だった。
どう考えたとして、種の存続に必要のない"恋"と呼ばれる作業を行なってから繁殖を目指す。勿論そうではないヒトもいたが、わたしが居を構えた文化では恋を深く讃える文学がたくさん生まれていた。
わたしはそれを知りたかった。そして、それと同じ時期に拾ったヒトをその使にしようと決めた。
しかしそのヒトは、わたしが迎えに行く前に呆気なく生を終えていた。
ヒトの命は儚いのだと、ようやく思い出した。
わたしの中に迎え入れる準備をもう既に終えてしまっていたので、内に入れたあのヒトに深く情を移してしまっていた。もしかしたら手に入れる筈のモノがなくなって気分が悪かったのかもしれない。ヒトはそういったこともあるそうだから、我々にもそういった感情があるのかもしれない。何にせよ欲しくて、わたしは死者の国の管理者に会いに行った。転生の手続きを取るアレに、訴えるために。そして持ち掛けられた試練に、わたしはにべもなく挑戦を決めた。そんな面倒なことすぐに放り出せば良かったのに、わたしは見つけ出してしまった。
何度も何度も繰り返し、見つけ出した。
どんどん見つけやすくなっていった。
きっとそれは、誰かの言う通りわたしとあのヒトの間に縁が出来ていたから。
そしてその縁がヒトの世にとって厭うべきものだと知った時、わたし達はそのヒトをこちらの世に引き入れることを決めた。
同時期に姉神様がヒトと恋に落ちたと聞いた。わたしが最初、あのヒトを使にする時に調べさせようと思っていた"恋"の話を聞いて、大切なあの方の気持ちを理解しようと思って、あのヒトに恋使を命じた。あわよくば、あのヒトが人の世界と分かり合えれば、と思ったのだ。
けれどわたし達は所詮一介の神であり、世界の全てには太刀打ち出来なかった。皆で作り出した世界に逆らうのは、わたし以外の神全てを敵に回すようなものだった。
あまりにも強く結ばれたわたしとあのヒトの縁は、ヒトの世との不協和ばかりを強め、あのヒトからヒトとしての全てを奪っていった。
悔しかった。
申し訳なかった。
そして"恋"という不可解な事象は、わたしの大切な姉をも奪っていった。
姉は恋に陶酔し、ヒトの寿命の儚さを知って壊れてしまった。それ以外ではいつも通り優しかった姉神様は、想い人のことになるとわたしの言すら受け入れず、暴れてでも欲しようとした。そういった時には話すことが難しくなり、わたしは姉から距離を置いた。姉はわたしが苦しい時に側に居てくれたのに、わたしは姉の側で無力感を感じてしまった。好きだったけれど、わたしの好きでは救えないと諦めてしまった。
使としたヒトも、姉も、誰も救えなかった。
どうすればいいのだろうか。
ヒトと恋を理解するには、どうすれば。
そう思考を巡らせていた時に、わたしの耳に声が落ちて来た。
"羅樹に好きだと言えますように"
これが初めて聞いた、あの子の声だった。
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