792 / 812
稲森夕音
しおりを挟む
稲森夕音が恋使となったのには、理由がある。
一つは、生まれつき備わっていた神力。
何の因果か天女神と呼ばれる世界を統べる神、否守と同じ音、同じ容姿を持って生まれて来た。それに比例するように、彼女は力を秘めていた。
一つは、その力を感じ取り宿った伏見 恋音の存在。
かつて稲荷の恋使として支えていた存在は、人の身を忘れて使となった。人との衝突により仲を違え、力を失い、蓄えるための依代として夕音を選んだ。神からすれば瞬きの間だが、人からすれば長い時間をその中で過ごした。呪いすらも毒として解ける彼女が、長く宿っていた。
元々持っていた力。それを受け止めるための器が恋音の存在で急激に広げられ、しかし視界を塞がれたことで無意識的に命の危機を脱した。神力の貯蔵庫はヒトならざるモノの興味をそそるが、本人に目も耳もなければ奪うのに障りが出る。一方的な奪取は簡単そうに見えて、その実無意識的な抵抗を介するため難度が上がるのだ。視覚と聴覚による屈服がある方が、奪うには易い。そして奪おうとする存在には恋音の抵抗があったのだから、夕音の貯蔵庫は溜まる一方だった。恋音はその貯蔵庫から力を吸い上げるが、彼女は一介の使である。ヒトの身であった記憶と同時に、否守と同じ色であった事由も失った。
力はあれど、神力自体が生命力となる存在では貯まる量が違う。
血を生命力の源とする人にとっては、使う必要のない夕音にとっては、神力の貯蔵庫はただただ埋まるだけだった。
偶然か必然が組み上げた夕音という存在は、否守が"強すぎる"と称するほどに力を蓄えていた。
まるで、此方のモノと同じように。
力を失えば眠る───澪愛の女達を宿した時のように。
言葉を発することなく力を用いる───夢の中で羅樹への想いとの決別を拒んだように。
少しずつ増えていた。少しずつ強めていた。夕音の力は、稲荷が見た時よりも大きく成長していた。神の力を借りなくとも、神の力を1人で抑えられるくらいに。ヒトならざるモノを説得するための道筋を、全て自身の力で賄ってしまうほどに。夕音という存在は、大きな力を蓄えていた。
神に与えられた力を、自分の色に塗り替えるくらいに。
赤と金と桃と空。混ざり合うそれらは独特で、それでいながら美しい。描いたそれは、稲荷の側で爆発的に開花した。豊穣を司る神の下で、花を咲かせる力が咲き誇った。
恋心に触れる度に咲いていた花、心に寄り添うように咲く花の存在。
それは恋音にはない力。
最初から夕音が持っていた、彼女だけの神力が開花した証だったのだ。
一つは、生まれつき備わっていた神力。
何の因果か天女神と呼ばれる世界を統べる神、否守と同じ音、同じ容姿を持って生まれて来た。それに比例するように、彼女は力を秘めていた。
一つは、その力を感じ取り宿った伏見 恋音の存在。
かつて稲荷の恋使として支えていた存在は、人の身を忘れて使となった。人との衝突により仲を違え、力を失い、蓄えるための依代として夕音を選んだ。神からすれば瞬きの間だが、人からすれば長い時間をその中で過ごした。呪いすらも毒として解ける彼女が、長く宿っていた。
元々持っていた力。それを受け止めるための器が恋音の存在で急激に広げられ、しかし視界を塞がれたことで無意識的に命の危機を脱した。神力の貯蔵庫はヒトならざるモノの興味をそそるが、本人に目も耳もなければ奪うのに障りが出る。一方的な奪取は簡単そうに見えて、その実無意識的な抵抗を介するため難度が上がるのだ。視覚と聴覚による屈服がある方が、奪うには易い。そして奪おうとする存在には恋音の抵抗があったのだから、夕音の貯蔵庫は溜まる一方だった。恋音はその貯蔵庫から力を吸い上げるが、彼女は一介の使である。ヒトの身であった記憶と同時に、否守と同じ色であった事由も失った。
力はあれど、神力自体が生命力となる存在では貯まる量が違う。
血を生命力の源とする人にとっては、使う必要のない夕音にとっては、神力の貯蔵庫はただただ埋まるだけだった。
偶然か必然が組み上げた夕音という存在は、否守が"強すぎる"と称するほどに力を蓄えていた。
まるで、此方のモノと同じように。
力を失えば眠る───澪愛の女達を宿した時のように。
言葉を発することなく力を用いる───夢の中で羅樹への想いとの決別を拒んだように。
少しずつ増えていた。少しずつ強めていた。夕音の力は、稲荷が見た時よりも大きく成長していた。神の力を借りなくとも、神の力を1人で抑えられるくらいに。ヒトならざるモノを説得するための道筋を、全て自身の力で賄ってしまうほどに。夕音という存在は、大きな力を蓄えていた。
神に与えられた力を、自分の色に塗り替えるくらいに。
赤と金と桃と空。混ざり合うそれらは独特で、それでいながら美しい。描いたそれは、稲荷の側で爆発的に開花した。豊穣を司る神の下で、花を咲かせる力が咲き誇った。
恋心に触れる度に咲いていた花、心に寄り添うように咲く花の存在。
それは恋音にはない力。
最初から夕音が持っていた、彼女だけの神力が開花した証だったのだ。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる