神様自学

天ノ谷 霙

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9月7日 気付いて×気付かないで

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「…君が見て見ぬふりをしても、他の人は些細なことで気付く。それが信じたくないことだったら…」
私は蒼くんの目をまっすぐ見てしゃがむ。蒼くんの瞳に、私の赤がかった目が映る。
「どうなると思う?」
皮肉を込めて言った。蒼くんの心の奥底を覗くように首を傾げて、まっすぐ見つめて、口角を少しだけ上げて。蒼くんの目が泳いで、蒼白になる。
「1番側にいる女の子が…俺の側から離れるように仕向ける…?」
「ご名答。さて、君の1番側にいる…目立つ女の子は誰?」
蒼くんが勢いよく立ち上がる。顔を押さえて、目を見開く。蒼くんの唇が、わずかに動いた。その動きは「りうちゃん」と言っているように見えた。
「…そんなの…っ俺のせいで…!」
険しい表情をしたまま走り出そうと足を動かす蒼くん。けれど、もつれてふらつく。私は見ていられなくて、蒼くんの腕を掴んだ。
「…やめて…離して…」
「離して、どこに行くつもり?」
「りうちゃんが…」
利羽ちゃん、と蒼くんははっきりとそう言った。いつも蝶野さんって呼んでるくせに。
「…なんだ、君も覚えてるんじゃない」
「…え」
「利羽、君に名前を呼ばれたのは1回だけだったって話してた。"りうちゃん"って呼ばれたって言ってた」
「…あ…っ俺、今…」
蒼くんは口を押さえて、ようやく顔を上げた。私は精一杯の笑顔を向けて、言葉をかけた。背中を押すための、言葉を。
「君が行動したからって、全員が不幸になるわけじゃないでしょ。むしろ早く諦めたい人だっているんだから。ほら、早く楽にしてあげてよ。…利羽だって、苦しんでるのを隠してるんだから」
夕暮れが、夜に混じっていく。蒼くんは私の目をまっすぐ見つめて、頷いた。そしてそのまま走り去って行った。
「…って言っても、多分利羽はもう帰ってるんだよなぁ…」
そんな風に呟いた時、後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り返るとそこにいたのは、クラスメイト。確か、利羽のことを言っていた女の子達。真ん中にいる女の子が、隣の子に支えられながら、震えながら話しだす。
「…っねぇ、稲森さん。今、蒼くんと話してたよね。何話してたの?」
「…別に、花を植えてるって聞いたから、詳しいのかなって気になっただけだよ。私も花、好きだから」
「…嘘、"気付いてないの"とか言ってたじゃない。なんで余計なこと言ったの?」
盗み聞きしてたのか、と内心ため息をつく。
「…何が余計なことなの?」
「…っそれは…」
目が泳ぐ。自分の計画が狂ったからって、人に当たらないで欲しい。まぁ、狂わせたのは私のせいなんだろうけど。
「夕音」
私の名を呼ぶ声。クラスメイトの後ろから現れたのは、学校一の情報屋。
「空原さ…っ」
「夕音、こんなところにいたの?一緒に帰る約束したのに、先に行っちゃうなんて酷いじゃない。私この後用事あるから、早くしてよね。まだかかる?」
「いや、もう…」
「あっそう?なら、もう帰ろう夕音!ばいばい、また明日ね!」
由芽が半ば強引に私の腕を掴んで、連行するような形で校門まで歩いた。
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