魔法王国軍の日常 〜上級冒険者に追放された少女は、レベル0から本気で生き抜いてやると決意したようです〜

たにどおり

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即応部隊発足です

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 闇ギルドの残党はそのほとんどが捕らえられ、牢に留置された。
 シルカの放った上位魔法によって建物にも被害が出たけど、幸い軽傷者が数名出るに留まっている。

 そして、今回の件で即応部隊の創設が早まり、わたしとクロエはフォルティシア中佐の執務室へ来ていたんだけど......。

「さて、今日からおぬしらには正式に遊撃部隊として働いてもらうわけじゃが、目的は魔導士によるテロ対応、魔王軍残党の処理など様々じゃ」

 ブラウンの髪を揺らしながら勢いよく席を立ち、こちらに手を向ける中佐。
 ここで指を差さない辺り、やっぱり人間としても見習える人格の持ち主なんだろうな。

「ですが中佐、精鋭主義なのは理解できましたが、わたしとクロエの2人で1個小隊というのは無茶では......?」

 1個小隊とは普通、少尉クラスが指揮する30人で構成されてる。
 ようするに人数も階級もまるで足りないのだ。

「名目上はわしが指揮官じゃ、なーにおぬしらなら実戦も問題あるまい。それに、魔導士相手ならクロエ・フィアレス1等騎士の『マジックブレイカー』があるでの」

 あの魔法陣を投石で破壊できたのって、やっぱりスキルだったんだ。
 でも、それならなお気になることがあった。

「わたしはスキルなんて持ってません......、レベルだってまだ『0』ですし」

 クラスレベルは、主に実戦によって上がっていく職ごとの習熟度を言う。
 レベルが上がればヴィザード職なら高位魔法が使えるようになるし、王国軍騎士なら武器の扱いや格闘が上達する。

 だけどわたしは【剣士】から【騎士】へと転職してレベルはリセット、今までこの1年はほぼ訓練だけで実戦なんてほとんどしていない。

「確かにおぬしはスキルを持たず、魔法も使えん。通常の人事なら速攻はねられる下級騎士じゃて」

 そっ、そんな笑顔で言われると結構くるものが......。
 たぶん顔に出てたのだろう、フォルティシア中佐はそれまでの言葉を「しかし」と区切った。

「おぬしの強さは他でもないわしが知っておる。女性騎士、しかもその年で死者すら出るレンジャー訓練を耐え抜いた者は他におらん。それにじゃ!」

 中佐はマホガニー製の机から、2組の"ドッグタグ"を取り出し見せた。
 これは騎士の身元を確認する物で、氏名や生年月日、所属やクラスレベルが示されているらしい。

 わたしは実戦配属前でまだ持ってないから、これが初めてになる。

「中佐? わたしもうドッグタグ持ってるよ」
「おぬしらは今日から遊撃部隊じゃ、新デザインが決まったのも合わさったから、新しいやつを渡しておくでの。受け取れーい!」

 ポーンと宙を舞うドッグタグを2人で慌ててキャッチ、長円形の魔法金属で作られたそれは、自身に関しての情報が羅列されていた。

「あれ!?」

 氏名や生年月日の下、クラスレベルの欄に記された数字は、自分の認識を大きく超えていた。

「クラスレベル『20』......? これって」

 ありえない速度で上がっていた。
 普通、いくら上位冒険者と戦ったってせいぜい伸びて4くらいと聞いてたけど、これを見る限り一気に20も上がっている。

「1年以上の軍隊訓練を経た結果じゃ、実戦はしてなくとも訓練で積み上げた"潜在値"であろうな」
「じゃあ中佐がわたしを遊撃隊に入れたのって......」
「言ったじゃろう、おぬしの強さ、潜在能力はわしが一番知っておると」

 日差しの差し込む窓を背に、フォルティシア中佐は優しく微笑んだ。

 去年の今頃もそういえばレベル20だっけ、あの時にわたしは軍を目指し、精鋭《レンジャー》と呼ばれる騎士に憧れた。
 胸に輝くレンジャー徽章は、この1年の結晶だった――――

◇◇

「このドッグタグってさあ、なんでわたしにもティナのやつが渡されたんだろ?」

 寝室での着替え中、チェーンでぶら下がったドッグタグを手にクロエがふと呟いた。

「聞いてなかったの? わたしとクロエは今日からペア。どちらかが戦死した時に身元がわかるようにするためよ」
「せっ、戦死!?」

 プリーツスカートを脱いだクロエが青ざめ、硬直した。

「冗談よ、クラスレベルの確認とか、迷子になった時使えだって」
「む~っ、ティナのいじわる......」

 クロエが頬を膨らまして無言の抗議をしてくるけど、わたしはさっさと寝る支度を進めた。

 自分の棚から出した寝巻きのショートパンツを穿いて、上からカーディガンを着る。
 脱いだ制服を畳んでいると、下着姿のクロエがこっちをジーッと見つめていた。

「なっ、なに......?」
「いや、ティナってそういうカジュアルな格好もするんだなーって」
「部屋着くらいゆったりしたやつが着たいのよ、それとも似合ってない?」
「超可愛いから大丈夫! ティナの脚ってこうして見るとやっぱ細いねー」

 なんかおじさんみたいなことを言うクロエに、「いいから早く服着なさい!」と諭す。

 あんまり叫ぶと当直の軍曹に怒られるからボリュームは控えめ、そして、クロエもわたしと似たような格好に着替え終わった。

「いやー! ようやく過ごしやすい服に着替えられたよ。実はわたしスカートっていまだに慣れなくて苦手なんだよね~」

 何かから開放されたようにウンと伸びをするクロエ。

「へぇー、運動とかよくするの?」
「まあ確かに動きやすいってのはあるけどさ、オシャレなスカートとか諸々を買うお金がそもそも無かったんだよね」

 えっ? 笑いながら言ってるけどそれって結構な問題じゃ......?

「なら私服はどうしてたの?」
「去年軍に入るまでは、ブラウスに安いから買った短パンばっかかな。冬はそれに上着を羽織るだけで、タイツはすぐ破けて使わないからさすがに寒かったよ」

 なんとなく聞いた話が重い......!
 じゃあつまり、この子は王国軍に入るまでずっと極貧生活をしてたってこと......?
 パーティーメンバーを見返す一心で入ったわたしとは違う、クロエは純粋に生きるため入隊したんだ。

「そうだティナ、ちょっとこっち来て」
「なに? わたしそろそろ寝たいんだけど」

 いいからと招き猫みたいに誘うクロエ、言われるがまま近づくと、彼女はわたしの髪に何かを付けた。

「おお、やっぱティナ似合ってるよ! ほら」

 渡された手鏡を覗くと、花の形をした髪飾りがきらめいていた。

「このあいだ路上で髪飾り売ってたでしょ? あの騒ぎで言い出しそびれちゃってたけど、ティナにいつ渡そうかずっと考えてたんだ」
「えっ!?」

 今さっき経済事情を聞いただけに、こんなこと考えてもいなかった。
 初めてのことに嬉しさと申し訳なさが混じって、つい動揺してしまう。

「わたし、同い年の人とまだ仲良くしたこと無くってさ、どうしたら距離を縮めれるかいまいちわかんなくって。あのさ......これからもそれ付けてくれる?」

 選択肢なんて考えるまでもない、わたしはクロエに本心からの返事を返す。

「――――もちろんッ!!」
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