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影
しおりを挟む「ハァッ、危ねえ......マジで、ギリギリだった」
グレムリンの大群から逃げ、3階に駆け上がったわたしたちは適当な部屋に入ってやり過ごしていた。
ザッと見えただけで40以上おり、なるほど一筋縄じゃいかないようだ。
「推奨レベル55以上っていうのも納得ね、魔導機関砲でもあれば一瞬で蹴散らせるのに」
アラル村で見せられた魔導戦車の火力を知っているだけに、改めて正規軍による支援はかけがえのないものだと実感する。
「それより、この部屋は何かしら? 結構広そうだけど」
フィオーレに続いて中へ少し進むと、そこには部屋を囲むように大量の本棚がところ狭しと並べられている。
「まるで書物庫みたいね、すごい数の本......」
「古びてるけど面白そうじゃん、ちょっと読んでみようぜ」
連なる本に手を伸ばすイチガヤ。
一応魔物の気配はないし、この部屋は安全そうだ。
「おっ、これとかどうだ? ――――って、なんだこの文字? 初めて見た」
「文字?」
覗き込んでみると、確かに見たことのない文字がビッシリ書かれていた。
紙自体の風化のせいもあるが、そもそも言語が違う。
「これ......古代王国語よ、もう消えちゃった文明の文字だけど、翻訳してみるわ」
「フィオーレって古代語読めるの?」
「わたし、伝説の勇者とか古代王国に興味があって、ギルドの依頼をこなしながら調べてるの」
なるほど、それで勇者のアイテムがここに眠ってると聞いて食い付いたんだ。
「どれどれ......『大樹は実った。異世界への――開き、十二契約の悪魔。――魔装と戦略――器を――――隠す。東方の日の国は......』ダメね、掠れちゃってて全然読めないわ」
パタンと本を閉じるフィオーレ。
「異世界......、東方の日の国......」
「イチガヤ?」
「―――――いやすまん、なんでもない。こっちの本とかどうだ?」
次にイチガヤが取り出したのは、日記のような1冊の本。
「これは――――勇者パーティーの1人だったドラゴン使いが残した記録とあるわ!」
「マジか!! おい読んでみろよ!」
パラパラと本に目を走らせたフィオーレは、しかし表情を歪ませる。
「どうした?」と聞くイチガヤに、フィオーレは良くないものを見たと言わんばかりに嘆息した。
「ここに書いてあるのは、読んでいてあまり気持ちよくない文章よ」
「っというと?」
「これはね、勇者一行に仕えた"クリスタル・ハート"という魔導士の無念と怒りが書き殴られてたわ」
勇者一行といえば、魔王を倒した英雄も同然。
そんな誉れあるパーティーの人間がどうしてそんな?
「このクリスタル・ハートという女性は、魔王討伐直前に負傷でやむを得ず離脱したらしいの。結果、凱旋には加われず恩赦も僅かだったとか」
本の内容はその時に女性が感じた世の理不尽、歴史の裏に落ちた者の末路、国に対する不信がたっぷりと綴られていた。......フィオーレも口に出したがらないわけだ。
「それは悲惨な話ね、でもわたしたちだってずっとここにいるのはマズくない? 目的の物を早く見つけないと」
もう探索の手が入っている低階層では、勇者のアイテムどころか依頼目的のマナクリスタルさえ見つからないだろう。
もっと上、それこそ城の上部なら――――
「城なら玉座の間とかあるはずじゃない? どのみち通路じゃ戦いにくいし、まずはそこを目指してみましょ?」
玉座の間は城の上部、一番たどり着きにくい場所に置かれていると思われる。
もしかすると、そこならまだ手付かずかもしれない......。
◇◇
――――とある洞窟。
「おや、こんなところにいましたか」
不気味なほど静かな空間に、男の声がこだます。
ローブに身を包んだ男は、地底湖の辺《ほと》りに立つ銀髪の少女の前で足を止めた。
「始祖の竜は目覚めました、後は対抗策を潰すだけです」
蒼い瞳を持った少女は、湖を背に銀色のショートヘアを揺らした。
「相変わらず無愛想ですねえ"ドラゴン使い"。既に手は打っていますよ」
「"勇者の剣"はどうするのです?」
「『ファントム』を回収に向かわせました、直に手に入るでしょう」
スキンヘッドの魔導士は、少女の前で不敵に笑みを浮かべた。
「あなたがネロスフィアに加わってくださり大助かりですよ、これなら十二契約の悪魔も納得する結果を出せるでしょう」
男の言葉を聞くと、銀髪の少女は出口へと歩を進めた。
洞窟の外には、何体ものワイバーンが控えていた。
「わたしは存在を知らしめるだけです、伝説と歴史に埋もれた祖母の無念を――――――"クリスタル・ハート"家の怒りを、ストラトスフィア王国へ思い知らせます......!」
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