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ゴールデンウィーク 遊園地編

6日目 3等分+1 ㉔

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「てことで…」
医務室を出てすぐのところで、ノアが僕と冬華さんの背中を押す
「2人とも、楽しんできてください。」
僕達ふたりは、改めて遊園地に送り出された。
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数分前…
「一秋が起きるまで私動けないから、3人とも、遊園地楽しんできて」
意識を取り戻さない一秋くん
悪ノリだったとはいえ…さすがに酷いことしちゃったかな。
いや…でも、まぁ…たまにはこういうノリも悪くないとは思うし
それ以上に、こうしてるとなぜだか楽しく感じる。
一秋くゆの反応がいいからだろうか
いや、それもあるのかもしれないけど
それ以上に、このやり取りに懐かしさを感じる。
実家のような安心感
その上で起きてしまったこの問題
やっぱり…責任もって僕達もいるべきなのではないだろうか…
「え…でも、僕達も悪かったわけで…やっぱり悪いよ」
しかし
「こういうのは彼女の仕事なのー!はいはい!ここは任せて先に行きなさーい」
そう言われてしまったのである。

確かに彼女の役目と言われてしまっては、反論は出来ないけど…でも、やっぱり罪悪感が残るわけであって…
「うーん…やっぱり悪いよ…僕も残…フゴッ!」
「鳴海さんわかりましたー!3人で先に行ってまーす!場所に関してはしっかり連絡するんで意識取り戻したら合流してくださいねー」
そんな時、ノアに口を塞がれてしまう。
ちょ…息出来んて!!!
「冬華さんも行きましょ!?」
「…まぁ…そうね、心配だけどいきましょう。てか…それ以上に何自然に春樹くんの可愛くて綺麗で大切な口抑えてるの!?」
「それじゃ、鳴海さんまた後でー!」
ノアは冬華さんの言葉を無視し、そのまま僕を連れて外に向かった。
その間、口から手は話してくれなかったため、軽く酸欠になりかけた。耐えた僕偉い。
「ちょっと!?待ちなさいよ!」
もちろん、冬華さんは僕たちを追って外に向かうわけで…
結局のところ、医務室には鳴海さんが1人残ることになった…。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
…で今に至るのだが…
「ノアは来ないの?」
そう、何故かノアが僕達を2人を送り出しているのである。
「はい、私は少しのんびりしたいので、お2 人で楽しんでくださいよ!」
「え…」
天変地異
今日、空からは槍や矢が降り注ぐのではないだろうか…
あれだけ最初にべったりだったノアが、僕とわざわざ離れようとしているのである。
「え…」
冬華さんも、その対応に驚きを隠せずキョトンとしている。
そりゃそうだ…
あれだけ争ってたんだから…
仲良くはなったものの、関係値が完璧に治ったわけでもなく、合わないところも多い。

「私は少しやることを思い出しました。ですので、お2人で楽しんでください」
…やることって…なんだ?
「え…遊園地から帰るの?」
「いえ、帰りませんよー!ちょっとだけ野暮用が」
「ノアちゃんが1人になりたいって言うなら止めないし、私からしたら本望だけど…逆になんだか不安なんだけど」
「いえいえ!冬華さん達には迷惑かけないので安心してください笑」
「なら私と春樹くんとの関係値に割り込まないでくれるのが1番助かるんだけど…」
「あ、それは無理です。先輩大好きなので!」
「…けっ」
「そんな怒んないでくださいよー、可愛いが台無しですよ?ね、先輩?」
「え」
当然話を振られ困惑する。
そのノアの言葉に、ムッとした顔を浮かべた冬華さんが僕の方を見る。
これ…絶対可愛いって言わないと…めんどくさくなるよね?
…なんか、外で可愛いとかいうの恥ずかしいんだよなぁ…
そもそも異性に可愛いとか言うのがこそばゆいのあるし…
あーまって
そんな目で見ないで
わかったから
わかりましたから
ちゃんと言います。

「…か、可愛いと思います。」
僕からのその言葉を聞くと、冬華さんはニコッと笑って
「久しぶりに春樹くんから可愛いって聞けてよかった…」
そう呟いた。

この時、胸の奥がザワザワと騒ぎ始め、僕の顔が赤くなるように感じた。
そして、冬華さんのその言葉と表情が脳裏に焼き付くのを実感した。

「はい、イチャイチャは私のいない所でお願いします。今日先輩とのイチャイチャは一旦我慢するので、帰ってきたら存分に甘えさせてもらいますからね!」
そういい、ノアは手を軽く振って走り去っていった。

「…行っちゃった…ね」
「…何企んでるのか分からないわね」
「野暮用って…なんだろ」
「分からないけど…とりあえず、ノアちゃんがあーやって言ってくれたわけだし。2人で楽しみましょ?」
「あ、うん…そうだね。」

こうして、やっとこさ今日の2人の時間がてきたのであった。
冬華さんと2人でいる時間はとても嬉しい。実際、僕はこの前買った物を渡す機会を考えていたし、そのチャンスが来るとするならとてもラッキーである。
しかし…それ以上に…なぜだか虚し差を感じてしまっている自分がいることに気づいた。
心に小さな穴がポツポツと空いたようで…なんだか…

「…ん?どうしたの?」
「…ううん!?なんでもない!行こっか!」
僕は今どんな顔をしていたんだろう。虚しかった感情を押さえ込み、僕はそれを誤魔化して、前に進み始めた。

…この、心に空いた小さな穴たちは、どうやったら埋まるんだろう。
僕は、少しの間歩いてる時間
何を話したのか、何を感じたのかがほぼ分からないまま冬華さんと過ごしてしまった。
今日が記念日ということを忘れて。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて…どこ行ったかな。
私はとある人を探している。
この遊園地に来ているとは思わなかったけど、これも何かの縁だと思うし、じっくり話を聞きたいと思っていた。
「さっきまで近くにいたんだから…そう遠くに…あっ」

いた。

周りを見渡すと、私の見つけるべきだった目的の存在が目に入った。
彼は子どもと女の人と手を繋ぎ、歩いている。
相手は奥さん…?結婚したのだろうか…子どももいるし、間違いない。
私は彼のいる方向に走り、背中に声をかける。

「日向智明(ひなたともあき)さん…ですよね」
すると
彼はふりかえらず
「…やっぱり、お前さんか。ノアちゃん」
そう、応えた。
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