ファンアート附属小説

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ファンアート附属小説 茶葉メルク様

ファンアート附属小説 茶葉メルク様 ①

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ファンアート附属小説
『茶葉メルクの健気な幸せ』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

もうそろそろ…かな

よし!

「みんなこんメル~!今日は晩酌配信です!とりあえずいっぱいお話したいことがあって……」

いつもの時間になると、自分のイヤホンを通してあの大好きな声が聞こえる。

(…やっぱりこの声落ち着くんだよなぁ)

彼女の名前は茶葉メルク
今をときめく新人VTuberだ。

彼女はまだ活動を始めてまだ間もないが、柔く包み込むような優しい声とトーク力に惹かれるリスナーが後を絶たない。
その結果、多くのファンと仲間に出会うことが出来ている。

…実際、俺もそのファンの1人っていうわけだ。

「メルちゃんの配信はほんと落ち着くよなぁ、SNSの交流場所とかでも…実家とかコタツとか言えるレベルで居心地いいし…なにより…」

作業効率がバカみたいに上がる。
いや、これほんとに。

落ち着くのもそうだが、彼女の声を聞きながらの作業はスムーズに進んでいってくれる。
作家としての活動をしているが、なかなか筆が進まない日が何日もあった。
多くの人の作業用BGMを流していたが、あまり効果はない…
その時出会ったのが、茶葉メルクことメルちゃんの配信である。

癒しの声を聞きながらのんびり小説を書いたり絵を描いたり…
それが、本当に自分に合ったやり方だった。

いやぁ…ほんと…毎度お世話になっております…
今回もお供としてお邪魔しますよろしくお願いします…

そんな事を考えた俺は、自然と感謝の念を伝えるように、パソコンの前で両手を合わせ拝んでいた。

「好きな食べ物?うーん…美味しいものならだいたい好きなんだけど…笑。あ、そうそう!私のブラウニーが好きなんだよね!」

するとその時
パソコンの奥から聞こえるいつもの明るい声がいつもより大きくなった。
どうやら、好きな食べ物の話をしているだ。
同じく食べるのが好きな自分は、その楽しそうに語る声が流れるように耳に入って来る。

はえー、ブラウニーか!ブラウニー美味しいからなぁー、うんうん。

そっか…ブラウニーかー…

そっ…か…ブラウニー…



…うーーん、作ってあげてぇぇぇぇ!!!
作れるけど!!あげる!!手段が!!ない!!

悲しいこの現実に、拝むのに合わせていた手で頭を抱えてしまう。

通販サイトに出せばとか考えれるけど…推しからお金は取りたくないしな…
てか、逆にお金積むほうだろ。何言ってんだコノヤロウ。

…まぁ、とりあえず…今は渡せないよな。

相手はVTuber
そして俺はそのファンなのである。
どれだけ今仲良くても、お話をしていても
昔から仲良かった学校の友達という訳ではない。

…いやまぁ、それでも推してるし大好きだけどね!?メルちゃん可愛いもん!優しいもん!!

でも、今は自分ができる応援をするべきなんだろうなぁ…。

メルちゃんがファンからのプレゼント専用の住所が出来てから…うん。手作り送ってみよう。

うん、そうしよう。

というか…俺以外のメルちゃんの近くにいる人が、この願いを叶えてくれるかもしれないしね。

「バランタインに作ったよ!食べて貰えるなら食べて貰いたい……」

俺は作業を止め
パソコンを通し、彼女への願いを込めたメッセージを送った。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「…さん!本日は来て下さり本当にありがとうございました!それじゃ…今日はこれまでにします!みんなー、バイバーイ!また来てね!」

…………

「…ふぅ……」

配信終了のボタンを押し、今日のリスナーたちとの会話を終わりにする。

2時間近くの長時間の配信を終え
グググッと身体を伸ばした私の口からは
自然と大きな息が漏れていた。

「楽しかったなぁ…。あ…終わったこと呟かなきゃ…」

私はSNSを開き、反応とお礼のメッセージを呟いく

『今日の配信に来てくださった方々本当にありがとうございました!楽しかったです!』

メッセージを呟くと同時に、今すぐやるべき事が終わったせいか体に溜まった疲労がどっと襲ってくるのを感じる。

「…さすがに、仕事と配信すると疲れはたまるなぁ…最近はみんなでお話しすぎて、夜寝れてないし…。でもお話はしたいしなぁ…うーん…」

よいしょっと…

私は椅子から立ち上がり、私は飼っているチンチラに話しかける。

「カップちゃんー、今日も配信頑張ったよー?偉いでしょ…?…えへへ。こっちおいでー??」

「きゅっきゅっ」

話しかけると、ちょこちょこと歩み寄ってくれるカップ。
そして、いつもカップは私の言葉に可愛い鳴き声で返してくれる。
はぁぁ…ほんと可愛い。

私はカップを抱き上げ、ヨシヨシと頭を撫でる。
カップは撫でる度に目を細め、嬉しそうな表情を浮かべていた。

「プゥプゥ」

すると、撫でられることに満足したのか、カップはふんふんと鼻を動かしながら違う鳴き声を零し始めた。

「…よしよし…ん?どうしたの??…プゥプゥ?プゥプゥは…えっと…あ、お腹すいたのね?ちょっとまっててね!」

カップの言いたいことを察した私は、カップのご飯の準備をし始めた。

その時

キュルルルルル………

自分のお腹から、空腹を知らせる音が聞こえ始める。

…そういえば私、何も食べてなかった

自分のためにご飯を作るとなると…少し気が引けてしまう。
そう考えてしまうこともあり、自分の分のご飯は少し手を抜いてしまうことがあるのだが…配信に集中していた私は、ご飯そのものを忘れていた。

時計を見ると、針はもうすぐ晩御飯の時間を指そうとしている。

「…カップちゃんのご飯済ませて…自分のご飯も…でもなぁ…」

作るのが…
その…
ちょっとめんどくさい。

コンビニに行こうにも、外は寒いし…今夜は…抜きでいいかなぁ…
というか…

疲れて体が動かない……

ご飯を抜くのは体に悪いのはよく分かっている。
しかし、何度考えても自分の思考に体がついてこないのである。

私はカップちゃんのご飯を出しおえ、吸い込まれるように床に体を任せる。
ひんやりとした床が、とても心地よい。

そのまま私は…瞼が重くなるのを感じ
そっと目を閉じた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
倒れるように寝た数十分後…

コンコン…ガチャ

遠くの方でドアが開く音が聞こえる。
誰か入ってきたのかなぁ…

「…ちゃん??いるー?」

お腹すいたけど…寝るのはやっぱり気持ちいいなぁ…
誰か来たみたいだけど、どうでもいいやー…

ひんやりとした床を頬に感じつつ
私は寝ることを続行する。

「…あ…いるじゃん。おーい…姉ちゃん??」

足音が近くなるのと同時に声の主から話しかけられる。
しかし、やはり睡魔には勝てないのだ。

私はもうちょっと…寝て……

「おーい!起きてー!」

「…」

「…」

「…zZZ」

「起きろぉぉぉぉ!!!!!!」
ガバッ!!
「ウッ…!?ちょっと…お、重い…」

突然背中に感じる重みに
誘ってきていた眠気が一瞬で吹き飛んでいく。

「ねぇ、起きてよ」

背後からは聞き馴染みのあるとある声。

体を無理やり起こし、声の主の方を見る。
寝起きで視界が少しまだぼやけているが、
そこにはエプロンをつけている弟がいるのがわかった。

なんだ…弟か…
せっかく気持ちよく寝てたのに……

「…起こすならもうちょっと優しく起こしてー?お姉ちゃん疲れてるから…」

目を擦りながら、眠そうな声でそう伝える。

すると
「だってだって…起きてくれないんだもん…」

弟はそう言いながら俯いてしまい、そのままムスッとした顔つきになってしまう。

…ちょっと可愛いと思ったけど、無理やり起こされてちょっとムカついたから褒めてあげない!

私は寝癖で軽くボサボサになっていた髪を手ぐしで整え、顔をふるふると振るわせいつもの自分へと戻る。

多少目が覚め、意識もはっきりしてきたその時、ふと弟から普段とは違う何かが目に入った。

…なぜ故エプロンつけてるん??

弟の姿をよく見ると
エプロンには茶色いチョコレートのようなシミが少しできている。

というか…その状態で上に乗ってきてたんかい…洋服に着いたらどうするんや…
こちとら白い縦セタ着てるんやぞ?
汚れ目立つからな??

…まぁ、エプロンのしみを見る感じ…洋服にはつきそうにない。まぁいいか。
少し怒りそうになってしまったが、冷静に感情を抑え込む。

それより…ほんと、なんでエプロンなんか…そこが気になって仕方がない。

「そういえば、なんでエプロンしとるん??」

私がその疑問を弟に問いかけると
弟は俯いたままそっと

「…お菓子…作った…」

そう呟いた。

オカシ??
可笑し??
岡地??

何を作ったって??

「…オカシ??作った??」

「うん…ブラックサンダー買ってくれたり…色々お世話してくれてたから…その…たまにはお礼したいなって思って…」

不機嫌そうに俯いていたさっきまでの顔とは違い、よく見ると少し頬が赤く染まってきている。
多分、普段のテンションとの差に自分でと恥ずかしくなってしまっているのだろう。
そんなところがちょっと可愛らしい。

ふーん、ブラックサンダー…

お礼…ねぇ



……ん?ちょっとまって??と言うか、今私のためにお菓子作ってくれたん??



ふぁ!?!?

あの弟が!?

あの!?レースゲームの勘違いを生意気に指摘してきた弟が!?!?

え!?!?

「え、お菓子作ったの!?私のために!?え!?嘘でしょ!?」

グダっとしていた体が、お菓子という言葉から自然とスムーズに動くようになる。
私の体はその不可思議な力を持った弟の発言に釘付けになってしまった。

自然と体も前のめり、弟に向かってしまう。

「嘘じゃないよ!結構美味しくできたし…デコレーションもした!…だから…良かったら食べて欲しい…んだけど…食べ」
「食べる!!!!!!!」

何を言おうとしていたのかわかった私は、
弟の発言に少し食い気味に答えてしまう。そして、弟がお菓子を作ってくれるという夢のような現実に私は胸が熱くなるのを感じる。

その食い気味の答えに、弟は顔を上げ

「…ありがとう!!お姉ちゃん!!」

笑顔でそう答えてくれた。

「こっち!!」

そして、弟は私の手を掴み
優しく引っ張っていってくれた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

連れてこられたのは隣にある弟の部屋。
いつもと変わらない弟の部屋部屋だったが、明らかに一つだけ違う。

…めっっっちゃ美味しそうなお菓子あるやん。

デスクの上には、綺麗に飾り付けされた宝石のように煌めくお菓子たちが広なっている。
チョコペンで可愛くデコレーションされた出来たてのブラウニー
そして、白く美しいお化粧を施されたフォンダンショコラ
更には、あとは注ぐだけと言わんばかりの紅茶の準備までされている。

…ここは…天国か???

「えっと、それじゃそこに座って…」
「これホントに作ったの!?!?!?」
「え………うん。つくったよ??」

驚く私に対し、なぜ疑うんだ???
みたいな顔で見つめてくる弟。

いや、そりゃ疑うやん
突然作ってくれたお菓子がこのクオリティぞ??
驚きぞ??
お姉ちゃん顔負けよ???ほんと

「はい、文句なら後で聞くから!とりあえず食べよ?紅茶入れるからそこに座って??」

そう言うと弟はデスクの傍に座り、隣のクッションの上をポンポンと叩く。

「…う、うん」

普段より優しい弟に少し困惑してしまうけれど、その優しさが心に染み渡っていくのを感じる。
私は、指示通りクッションに座ると、弟は丁寧に紅茶をカップに注いでくれた。

部屋中に拡がっていた甘いチョコレートの香りに、心地の良い落ち着く紅茶の香りが混ざり始める。

「…この香りって……ディンブラ??」

「お、せいかーい!さすが紅茶大好きなだけあるよねー!色んな紅茶あるけど、ストレートで飲むならディンブラかなって思って。」

ティーカップに程よく注がれた紅茶は、程よく茶葉の赤みが染みている。

「ディンブラ」

紅茶らしい紅茶といえばなんだろうか。

そう聞かれた時に一番最初に出てくる名前がこのディンブラという紅茶だろう。

なぜこのディンブラが人気なのか
それは、バランスのとれたマイルドな味がとても心地いいからである。

ストレートで飲むもよし…
ミルクティにして飲むもよし…

様々な層から人気が出ている紅茶といえば
そう
このディンブラという紅茶だろう。

実際私も大好きだし…何回もお世話になっている。
大好きなこの香り
大好きなこの色味
そして、大好きなあの味を
わざわざお菓子と共に出してくれた弟。

……え、幸せ。

「…え、本当は買ったんじゃないの?これ作ったの?嘘だよね?」
「嘘じゃないってば!!もー!何回疑うんよ…ほら、早く食べて食べてー」

さすがに疑われるのがしつこかったのか、弟に怒られてしまう。

申し訳気持ちになるが、それ以上に作ってくれたことの喜びがふつふつと湧き上がってくる。

…本当に作ってくれたんだ…。

私はその事実を受け止めて
手を合してそっと一言

「…それじゃ…いただきます」

感謝の気持ちを伝え
お菓子に手をつけた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

自分の幸せを願ってくれている人は必ずいる。
それはメルクちゃんを推している人達も、仲良くしているお友達も
たぶん、多くの人が色んな人の幸せを願っている。

メルちゃんが美味しそうにお菓子を食べてくれるなら…今すぐにでも作ってあげたい。
元気が出るなら応援の言葉を送りたい。
ファンアートを送りたい。
お話したい。
…このまま活動を…頑張ってほしい。

この思いが…ちゃんと伝わっているといいな。

メルちゃんの歌枠のアーカイブを見ていた俺は、そんなことを考えていた。

弟くんが
俺の代わりに願いを叶えてくれたことを知らずに…。
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