ファンアート附属小説

えと

文字の大きさ
上 下
3 / 10
ファンアート附属小説 不動狗屑様

ファンアート附属小説 不動狗屑様 ①

しおりを挟む
ファンアート附属小説
『少し寂しい夜と大切な時間』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…みんな、何してるんだろ」
深夜になり
煙が欲しくなった俺は
ベランダに出てタバコの火をつける。

VTuberとして活動を始め、少しの時間だが、確実に時間が流れた。
不安が充満していたネット生活だが
「方言可愛い!」
「せつくんは癒し枠だよねぇ」
「活動頑張ってください」
「これからも仲良くしようねー!」
と、嬉しいことに色んな人から優しい言葉をかけてもらえている。

色んなお友達もできた
沢山愛してくれるリスナーもできた
今のVTuber生活はとても満たされたものになってると自分でも思う。

Vになって…本当に良かった。

そんな僕は
今日はお散歩があったので配信自体はおやすみである。

しかし、みんな今日は各々定期的な配信の予定があるため
そんな配信がない今日は1人で過ごさなければならない。

友達の配信に顔を出すのは当たり前だが、さすがにパソコンの前ではタバコは吸えない。

そのため
少しの時間だが、肌寒いこの冬の夜
煙に包まれる一服の時間をしみじみと心に感じる時間を過ごすため、ベランダに出たのである。

使い慣れた灰皿
吸い慣れたタバコの味
外に見える眩い光とザワつく雑踏の声には耳をかさず、いつものベストポジションで欲していた煙を補充する。

「…なんかちょっと、こういう時間は寂しいかもな」

片手間に開いたスマホからは
お祭りのテンションで流れるいつものタイムラインがあった。
しかし、それでもちょっと寂しい。

いつものみんなの言葉が流れてこないのである。

『みんな、何してるん?』

ふと、いつもの感覚で
気軽につぶやけるこのSNSに
寂しさを添えてそっと愚痴をこぼした。

このSNSにはこんな時間になっても多くの人が絡んでくれる。

「深夜ラーメンたべてるぜ」
「今から寝るところですー」
「ゲーム周回中」

エトセトラエトセトラ…

自分の呟きに返ってくる、一つ一つの小さな言葉たちがとても嬉しい。
しかし、やっぱりなにか物足りない。

「…さすがに、配信しながらTwitterで絡んではくれないよね」

ゲームもコラボも雑談も
色んな人から話しかけられるが
実家のような安心感を感じる相手は今配信中。
忙しいのはわかってるけど、寂しさを感じるのは………

「…ふぅ」

口から出る細い煙と、流れてくる肌寒い風に体が包まれながら
時間がゆっくりと流れ始める。
しかし、このゆっくりと流れる時間が少し憎い。

…実家のような安心感のあるあの話場は、今日は解放されるのかなぁ。

…いやぁ、俺が出してもいいんだけど
来てくれるかわからんし…
…はやく、みんなとお話したいなぁ。

虚空に消えていく白く染まっていく景色。
それは、タバコの煙なのか冷えた白い息なのか。
どちらにしろ、寂しさが混ざっているのにはかわらない。

そっと願い子をめるように
俺は一言

「みんなとお話したい」

そんな想いを呟いた。

そして、そんな寂しさのまじる夜は
何故かいつもよりも長く感じていた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「一息ついたし、とりあえず配信見ながら飲むかな」

ベランダから戻り、喉の乾きを感じた俺は冷蔵庫から新作の缶チューハイとおつまみを手に取る。

お酒自体はとても大好きだし
ハイボールなんかはよく飲む
しかし、新作のお酒っていうのは…
どんなお酒でも飲んで見たいって思っちゃうわけであって…

今日買ったチューハイは元々はハイボールが有名な会社の商品である。
そんな会社が出してるレモン系のお酒なら…

美味しいに決まっているよねぇ。

ふふふんと軽く鼻歌を口ずさみながら席に戻り、パソコンの画面に目を移す。

しかし、その画面には
「配信終了」という文字が残っていた。

コメント欄にも流れるのもお疲れ様という文字ばかり

俺はいつの間にか、タバコ休憩を想像以上にしてしまっていたようだった。

…外で感じていたいつもより長いというあの感覚は
実際に時間が長かったのか…

「…まじか」

ボロっと零れる小さな声。
正直、もう数時間配信をしそうな勢いだったこともあり、晩酌でもしようかな…なんて考えていた。

でも…今夜はそれすらかなわないのか…

時計を見ると現在の時刻は1時半を過ぎている。

…まぁ、そりゃみんな…こんな時間なら配信終わりにするか。
というか寝始める頃の時間帯やし…
俺もそろそろ寝ろってことなんだろうなぁ…

開けそうになっていた缶チューハイを机に置き
大きく長い溜息をすぅー…と吐く。

「…寂しいな。なんか」

椅子の上でそっと目を閉じ、寂しさを噛み締めるように体の力を抜いていく。
今日はこのまま…これ以上みんなと話したくなる前に寝ようかな。

そう…このまま…すっと…
寝よ…う……か……

ピコンッ♪

するとその時、スマホから聞き馴染みのある通知音が耳に響く。

「…こんな時間に誰やろうな」

力の抜けた手に無理やり力を入れ、ポケットの中にあるスマホを確認する。
そんな
明るく顔を照らす画面の光の中には

「せつくんとお話する会」

と書いてあった。

さっき自分の投稿した返信のひとつである。
普段みんなで話している場所への招待状

「せつくんとお話しする会」には他にも文章が付けられており
「お酒持ってきて集合!!」
と書かれている。

……あー…お酒…?ん?

…あ、え、みんなと話せる!?

ぼーっとしていた頭をはっきりさせ、俺は急いでその通知を開き、SNSのみんなの居場所に飛び込む。
すると…

「せつくんこんばんはー!のものも~!」
「待ってたよー!とりあえず飲も飲もー!」
「何持ってきたのー?いっぱい飲むでしょー??今夜は寝かせないからな」

自分に向けて飛び交う友達からの明るい声たち。
その声たちは、心の中の寂しさを一瞬で消し去ってくれる。

「…突然の誘いだったけんが…ほんと丁度お酒飲もうとしとったんよね」

「そうだと思ったわ笑」

「ドンピシャだったねー」

ゲラゲラと聞こえる笑い声たち
その笑いに自然とつられて行く自分の表情筋と声、そして気分はどんどん良くなっていく。

「ちょうど配信とお散歩被っちゃってたから、お話したかったんよー。せつくんがまだ起きててよかった」

「みんなの配信見とったけん。そりゃおきとるよ笑」

「せつくん一瞬で寝るからわからんなって思って笑」

「否定できんのがなぁ笑」

実家のような安心感
コタツのような暖かい温もり。

こんなふうに思えている人達と仲良くなれたのって
運命なのかね。

「ほぼ毎日こうやって集まってるけど、やっぱり安定感あるよね」

「逆にないなら寂しいと言っても過言ではない」

VTuberになって出来たこの新しい友達と居場所。
会話からも、自分以外もこういう風に思ってくれていることがよく分かる。
そんな些細ながらも嬉しいこの現実は、より自分の心の居場所になる根拠になり始めていた。

「まぁ…とりあえずお酒飲むためにも呼んでもらったわけやし…」

友達のひとりがそう話し始めたと同時に
お約束のようにみんなかお酒に手をつける。
俺の手も、その声に合わせて自然と動いていた。

そして…

カンパイ!!

勢いよく開けた缶チューハイをみんなの過ごせる幸せと消え去った寂しさと一緒に喉に流し込んだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

…ワシ、まだ未成年だから飲めないんだよねぇ。

皆が話している中、リスナーとしてのほほんと炭酸水を喉に流し込む自分に虚しさを感じる。

2022年3月
まだ誕生日までは4ヶ月
…俺も飲みてぇよ。

まぁ、別にお酒じゃなくてもみんなで話せるだけでも幸せだからいいけどさ。

ワイワイと騒ぐいつもの実家のようなこの場所は、永遠に続いてくれるようにも感じる。

少なからず、俺がお酒を飲めるまではこうしてみんなで仲良くしていたいな。

…そうだ。

とあることを思った俺は、スピーカーにリクエストを送る。
すると、仲のいいホストはすぐにOKの返事をくれた。

「エトくんどないしたんー?」

「あーっえっと…ちょっとこれだけ言いたくてさ」

こほん…

俺、みんなのこと大好きだし、この空間大好きだから、これからも仲良くしてください!!よろしくお願いします!!

言いたいことを言いきった俺は、ちょっと小はずかしい感情を覚えるものの、嘘ではない。

みんながいるからこそ、この大好きな空間と時間がある。

みんながいるから、せつくんがいるから
大切な時間が生まれている。

このまま…幸せな時間が、永遠に続きますように。

恥ずかしくなった俺は、その返事は聞かずにそっとスマホの音量を下げた。
しおりを挟む

処理中です...