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第六章『運命の天正十年!本能寺カウントダウン』

21 『三位一体』(小説版)

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四月二五日 安土 深夜

天主第六階『黄金の間』


――数日前から現れた長く尾を引く彗星が、まだ空を照らしていた。


織田信長は、今日は中々寝付けなかったのか、裃ではなく、白い寝巻きを着ている。

黄金の間を出て、回りの廊下を囲む朱色の手すりに片足をかけ、夜風に吹かれている。


「信長様、こんな夜分遅くなんでございますか?」

――いきなり深夜にまた呼ばれたフロイスも、今日信長が三職推任を断ったことは情報筋から聞いていたので、その日の夜であるので、信長の感情が高ぶっているのかも知れないと思いながら、刺激しないように丁寧に声をかけた。

「……フロイスよ、少しお主の神について質問がある」

「はい、どうぞ」

「お主は、以前キリスト教の神は、唯一無二の存在であると申したであるな」

「はい、唯一で絶対の神でございます」

「――では聞くが、イエスは神か?」

「はい、神です」

「しかし、イエスはよく父なる神よ、と言うであるな」

「はい、そうです」

「おかしいではなか、イエスは神の子、そして父なる神がいる」

「おかしくありません」

「何故である?……確かに父子ではあるが、神が、二人存在することになるではないか?」

「いえ、違います。そう見えるだけにございます」

「……そう見える?」

「はい、これは《三位一体さんみいったい》ともうしまして、神の子や、父なる神、またそれ以外の現象として現れる聖霊、この三位は別々の姿にみえます」

「であるなら……神が三人ということであるな」

「いえ、その三位は一体でありますが、そう別々の仮面ペルソナを被って我々の前に現れると定義しております」

「……それで三位一体」

「はい、三つの仮面を被っていても、本体は一つであります」

「つまり、三位一体だから唯一絶対の神ということであるか」

「そうであります」

「であるなら、余も唯一絶対神ということである!」

「……」

あまりにひどい信長の結論に、一瞬口があんぐりするフロイスであった……。



次回予告

……突然、織田信長は、自らを唯一絶対の神と宣言した。

果たしてその真意とは、いったい?



次回『神に最も近い男、信長』



乞う、ご期待!



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