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第七章『愛宕百韻』と光秀謀反の句の謎

12 『2ページで崩れさる、光秀決意表明説』(1)

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○光秀発句『謀反決意表明説』への反論


先の場面――

羽柴秀吉が、愛宕神社から奉納された『愛宕百韻』の記された懐紙の本物を持ち出したシーンは、記録が無い為に当然……フィクションとなります。


――しかし、


そもそも、連歌を神社等に奉納する行為というのは、当然その連歌が記されたる懐紙を――

燃やして無くすとか、棄てるという意味ではありませんよね?


「そういうことか!」

「確かにこれが、決意表明なんておかしい」

とここまでで気付かれた読者様……ありがとうございます。

――正解です!


……確かに奉納と公開とは違います。

しかし、まさに奉納されたものは、神社にあるのです。


そうです、

もし明智光秀がこの『愛宕百韻』で謀反を決意したとしてもです、しっかりと懐紙に記録される、そして神社に奉納されると解っている連歌興行で――

『謀反の決意表明』を連歌で詠う発句の形ではあるとしても、

そんな“犯行の証拠”みたいなものを……

後世にわざわざ残すでしょうか?――ということです!


しかも今、後世と書きましたが、

もし光秀の発句が仮に『犯行決意文』として、それが奉納されたのは本能寺の変の前日ではなくて、なんと三日も前です!

つまり、本能寺事件前に光秀が謀反を決意したことが――

この『発句』から事件前に露見する可能性がかなりあり、つまり計画が失敗する可能性が高くなってしまいます。


何故なら……

そもそも、愛宕神社も織田信長の勢力下であり、そもそも光秀が参加した連歌興行――

『愛宕百韻』を信長側が全く知らなかったということが……



……あり得るでしょうか?


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