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第七章『愛宕百韻』と光秀謀反の句の謎
48 『信長の運命を変えた、一局』
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○『本因坊戦』
何故、囲碁名人日海(後の初代本因坊算砂)と名人級の鹿塩利玄の対局が、深夜まで及んだのか?
もちろんどちらも名人級の腕前だからというのもあるのですが……
実は囲碁の対局でめったに起きないといわれる、
『三刧さんこう』が起きたのです。
「刧こう」は囲碁のルールの1つで、お互いが交互に相手の石を取り、無限に続きうる形。いわゆる将棋でいう『千日手』のようなもので、この状態を禁止にしないと永遠に終わりがこない状態のことである。
もちろん現代囲碁では、ルールによって、無限反復は禁止されている。
また「劫」という語の語源は、仏教における非常に長い時間を指す。例『未来永劫』等。
刧の状態が、3つも同時に碁盤上に現れたことを『三刧』と言い、めったに起きない珍事とされている。
ーーということで熱戦となった対局は、三刧によって勝負がつかなくなってしまい長時間戦った上に引き分けとなってしまった。
日海らはめったに出ない珍事、三劫に不思議がりながら、深夜過ぎに本能寺を後にしたという。
『拝見の衆、奇異の事に思いける』と、江戸後期に家元であった林元美が著したとされる『爛柯堂棋話』にはそう記されている。
そして囲碁戦が六月二日午前0時過ぎとして、その日の明け方に、本能寺の変が起き、信長は明智光秀に討ち取られた。
……このことがあって以来、三刧は“不吉の前兆”とされるようになった。
ただし逸話とともに残された棋譜には……
三刧になりそうな場所はなく、後世の作り話である可能性もある。が、これは『愛宕百韻の懐紙』の偽造の可能性のように、誰かが書きかえたかもしれない。
何故なら、兵法において古来から――
『夜討ち朝駆けは兵法の常道』といわれ、相手が油断している就寝や寝起き時間を狙って奇襲をかけるのは常套手段だからです。
というのは流石に信長も現代でいう深夜0時過ぎまで、囲碁観戦することを予期してはなかったと思うからです。
そう囲碁対局が、熱戦となり三刧になった結果深夜まで及んだことにより――
信長の睡眠時間がいつもより短くなった、また予定していた起床時間がいつもより、例えば15分でも遅くなったとしたら……。
そう襲撃する側からすれば、相手がまだ寝ているか、寝惚けているかした時が一番都合良い状態なんです。
そして、実際信長が起きたばかりで、まず顔を洗っている時に襲撃されたのです。
つまりは、この本因坊戦が、《偶然》長引いて深夜0時を越えたことにより、襲撃された時の信長の反撃体勢が整わなかったのなら……
信長の運が悪かったことになります。
逆に日海が《わざと》対局が長期戦になるよう仕向けたなら――
二つの相反する意図があったと言えます。
一つは、三刧というめったに起きない珍事を名人級の腕前で起こして、信長に明智光秀の襲撃を暗に悟らせるため。
……そう全貌は解らなくても、「洛中に不穏な空気があります」みたいな。
もう一つは、少しでも早朝の光秀の襲撃が上手くいくための援護として、信長の就寝時間を遅らせるため。
そう前者なら、日海は親信長側の立場であり、
そう後者なら、日海は反信長側の立場であることになります。
ということで、当然真相は藪の中ですが……
最後に一つ言えることは、囲碁対局が、長引いて深夜0時を過ぎたことは、結局三刧は本当に不吉な前兆であり……
信長にとっては不幸であったということです。
次回
そして光秀辞世の句の暗号《五十五》には、まだ謎が隠されていた!
何故、囲碁名人日海(後の初代本因坊算砂)と名人級の鹿塩利玄の対局が、深夜まで及んだのか?
もちろんどちらも名人級の腕前だからというのもあるのですが……
実は囲碁の対局でめったに起きないといわれる、
『三刧さんこう』が起きたのです。
「刧こう」は囲碁のルールの1つで、お互いが交互に相手の石を取り、無限に続きうる形。いわゆる将棋でいう『千日手』のようなもので、この状態を禁止にしないと永遠に終わりがこない状態のことである。
もちろん現代囲碁では、ルールによって、無限反復は禁止されている。
また「劫」という語の語源は、仏教における非常に長い時間を指す。例『未来永劫』等。
刧の状態が、3つも同時に碁盤上に現れたことを『三刧』と言い、めったに起きない珍事とされている。
ーーということで熱戦となった対局は、三刧によって勝負がつかなくなってしまい長時間戦った上に引き分けとなってしまった。
日海らはめったに出ない珍事、三劫に不思議がりながら、深夜過ぎに本能寺を後にしたという。
『拝見の衆、奇異の事に思いける』と、江戸後期に家元であった林元美が著したとされる『爛柯堂棋話』にはそう記されている。
そして囲碁戦が六月二日午前0時過ぎとして、その日の明け方に、本能寺の変が起き、信長は明智光秀に討ち取られた。
……このことがあって以来、三刧は“不吉の前兆”とされるようになった。
ただし逸話とともに残された棋譜には……
三刧になりそうな場所はなく、後世の作り話である可能性もある。が、これは『愛宕百韻の懐紙』の偽造の可能性のように、誰かが書きかえたかもしれない。
何故なら、兵法において古来から――
『夜討ち朝駆けは兵法の常道』といわれ、相手が油断している就寝や寝起き時間を狙って奇襲をかけるのは常套手段だからです。
というのは流石に信長も現代でいう深夜0時過ぎまで、囲碁観戦することを予期してはなかったと思うからです。
そう囲碁対局が、熱戦となり三刧になった結果深夜まで及んだことにより――
信長の睡眠時間がいつもより短くなった、また予定していた起床時間がいつもより、例えば15分でも遅くなったとしたら……。
そう襲撃する側からすれば、相手がまだ寝ているか、寝惚けているかした時が一番都合良い状態なんです。
そして、実際信長が起きたばかりで、まず顔を洗っている時に襲撃されたのです。
つまりは、この本因坊戦が、《偶然》長引いて深夜0時を越えたことにより、襲撃された時の信長の反撃体勢が整わなかったのなら……
信長の運が悪かったことになります。
逆に日海が《わざと》対局が長期戦になるよう仕向けたなら――
二つの相反する意図があったと言えます。
一つは、三刧というめったに起きない珍事を名人級の腕前で起こして、信長に明智光秀の襲撃を暗に悟らせるため。
……そう全貌は解らなくても、「洛中に不穏な空気があります」みたいな。
もう一つは、少しでも早朝の光秀の襲撃が上手くいくための援護として、信長の就寝時間を遅らせるため。
そう前者なら、日海は親信長側の立場であり、
そう後者なら、日海は反信長側の立場であることになります。
ということで、当然真相は藪の中ですが……
最後に一つ言えることは、囲碁対局が、長引いて深夜0時を過ぎたことは、結局三刧は本当に不吉な前兆であり……
信長にとっては不幸であったということです。
次回
そして光秀辞世の句の暗号《五十五》には、まだ謎が隠されていた!
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