上 下
190 / 310
第八章『最後の晩餐と安土饗応』

14 『聖体拝領』

しおりを挟む
「光秀、信忠、蘭丸、お主たちの命を頂くにおよぴ――」

信長は、蝋燭に煌々と照らされながら立っている。

「余は、お主たちと今より別れの杯を交わす」


「――イエスは、『最後の晩餐』の時、弟子たちと別れの儀式を執り行った。

これを『聖体拝領の儀式』というのであるが――」

安土には、信長の尽力で教会や神学校セミナリオを建設してあり、『イエスズス会日本年報』によると信長が神学校での《儀式ミサ》を見学したこともあるとの記述がある。


「この『聖体拝領の儀式』をもって、みなとの別れの契りとする」

そういうと――

信長は机の上に置かれた聖書を持ち――

『マルコによる福音書』を朗読した。


『一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、

祝福してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、

「取れ、これはわたしのからだである」

また杯を取り、感謝して彼らに与えられると、

一同はその杯から飲んだ。

イエスはまた言われた、

「これは、多くの人のために流すわたしの契約の血である。

あなたがたによく言っておく。神の国で新しく飲むその日までは、わたしは決して二度と、ぶどうの実から造ったものを飲むことをしない」』


信長は、そこで聖書を閉じて朗読を終えると再び――

皆の顔を見回して、

おもむろに銀製のトレーの上にかかっている布を勢いくよく取り払いながら、告げた――



「――信長による『福音書』を今より始める!」



しおりを挟む

処理中です...