1 / 1
見える人
しおりを挟む俺の好きな人は幽霊だ。
俺は昔から見える体質で、
最初は彼女に付き纏われていた。
付き纏われたのは2年前、
仕事の通勤時に視線を感じ、
「まぁ…いつもの事だ…」
と、思っていたが、日に日に
その視線は強くなり、1ヶ月後には
とうとう仕事にまでついてくるようになった…。
でも、その幽霊は、
もちろん足はないが、髪は黒くて長く、
目はパッチリ二重で、いつも口角か上がっていて、
そこそこ胸もあって…胸もあって!
美しい女性の幽霊だった…。
だから、美女なら付き纏われてもいっか、
って思えたし、
さすがにトイレや家までついてこないし、
いいや、と放っておいた。
ただ、今までの幽霊だったら、
怖い顔で付き纏われてきたが、
彼女はいつも微笑んでいた。
それが可愛かった…。
付き纏われて2ヶ月、
俺は幽霊の彼女に恋をしていた。
どうしようもない儚い恋だけど、
馬鹿げてる恋だけど、
いつも優しく見守ってくれる彼女が、
好きになってしまった…。
だから、通勤時に話しかけてみた。
「おはよ、今日も良い天気だね」
我ながら恥ずかしい…。
何、今の言葉…。
知り合いかよ…これはさすがにないわ…。
ほら、彼女も戸惑ってるじゃん!
「あの…私が見えるんですか?」
「まぁ…そういう体質なので…」
彼女の声は、少し高めの透き通った声で
心地が良かった…。
「えっと…じゃあ、今までもずっと
見えてたんですか?」
ずっと聞いていたい声だ…。
そんな変態な自分を隠し、
「そうだね」
と、言うと彼女は顔を真っ赤にさせて、
その顔を手で必死に隠していた。
つくづく可愛い。
「大丈夫、いつも見守ってくれて
ありがとう」
「怒らないんですか?
こんな私に付き纏われて…迷惑だったでしょ?」
彼女は半分涙目だった。
好きな人を安心させたい、
その思いから、
「迷惑じゃなかったよ。
あまりにも綺麗な幽霊だから、
俺の守護霊かと思ってた」
やめろ、俺!
恋からくる、変な紳士態度やめろ!
紳士というかナルシスト…。
ほら、もー、彼女も戸惑ってるし!
どうしよう…。
今まで、 付き纏われた幽霊は、
「1人が寂しかったから付き纏った」
という理由が多かった。
怖いから、全員、別の人に付き纏うように言ったけど、
彼女も多分それだろう、だから
「えっと…友達になろっか…」
とりあえず、これでいい…はず。
そう言うと、彼女は満面の笑みを見せてくれた。
良かった…そして可愛い…。
「ありがとうございます」
「いいよタメ口で、友達なんだしさ」
「あ…ありがとう…」
「名前は?」
「すみれ。あなたは?」
「俺は修也だよ、よろしく」
「よ…よろしく…お願いします…」
そこから半年間、俺とすみれは
通勤時間、仕事の休憩時間の
俺が1人の時にすみれと話すようになった。
お互い好きな物の話だったり、
会社の愚痴をすみれにこぼしたり、
他愛もない話を
ただただ2年間、
恋心を隠しながら話していた。
ただ、すみれが死んだ理由、
なぜ幽霊になったかは、2年経っても
いまだに教えてくれない…。
それでも、すみれと一緒に居られる時間が、
好きな人と友達としてでも
居る時間が幸せだった…。
けど、そんな幸せは終わろうとしていた…。
「修也…私ね、今度お祓いされるの…。
成仏させられちゃうの…」
そう言うと彼女は泣きだした…。
「えっと…それってさ…」
「うん…成仏したらもう会えない…。
あの世にいかないといけない…」
「その…お祓いっていつ?」
「今週の日曜日」
「なんで急に?」
「ねぇ…修也、土曜日仕事?」
「休みだよ」
「一緒に…居たい…」
俺達は休みの日、一緒に居たことはなかった。
俺もすみれと一緒に居たかった。
「すみれ、もちろん、
お祓いの前日も当日も一緒に居る」
「ありがとう…嬉しい…」
きっと成仏は良い事なのだろうが、
どこか俺は諦めきれなかった。
当日、彼女がお祓いされないよう
お祓いする霊媒師の人への
説得の言葉を考えた…。
けど、それが彼女のためになるのかも
分からない…。
けど、彼女と一緒に居たかった。
だから考えた…。
考えすぎて、疲れてしまい、
それを彼女も感じ取ったのか、
「修也、大丈夫?
最近、疲れてない?」
と、心配をかけてしまった…。
情けない…好きな人を守るどころか、
心配をかけるなんて…。
そして、お祓いの前日。
俺達は通勤時と同じように、
会社の行き帰りの道を散歩した。
どこかに出かけようとも思ったが、
すみれから、
「出会ったきっかけから、
変わらず過ごした日々をただ過ごしたい」
と、提案されたので、
そうする事にした。
周りに人が居ないのを確認しながら、
2人だけの会話を楽しむ時間、
それが、俺達の時間。
「私ね、自分のアパートの部屋で
首吊り自殺したの…だから幽霊なの…」
彼女は苦しい顔をしていた。
「人が信じれなくて、怖くなって…
1人で居るのも寂しくて…
どうにもならない感情が…苦しくて…自殺したの…」
なんと声をかければいいのか
分からず、ただ俺は聞く事に集中した。
「でも、初めて1人暮らしをした部屋だから、
思い出にね、
修也と居ない時間は、その部屋にいたの。
でも、新しく入った住人の人が、
気配だけを感じる人で、私の気配を感じ取ったみたいで
霊媒師の人を呼んだから、
私は成仏しないといけなくなったの…」
半泣きの彼女の頭を撫でようとしたが、
その手はすり抜けた…。
「でもね、私は修也とこの2年間、一緒にいたから
寂しいって感じずに成仏出来るよ…。
修也と出会えて良かった…」
「俺も…すみれと出会えて良かったって思ってるよ」
「そんな事言われたら…
この世から離れたくなくなっちゃう…」
「すみれ…」
「私…いつの間にか修也と一緒に居たい
って思っちゃってた…。
修也が好きだから…」
彼女は大粒の涙を流した。
彼女も、この世から離れる事に
葛藤していたんだ…。
なのに俺は、
ここ1週間、すみれに心配かけたり、
そんな自分が情けないって思ったり、
結局、自分の事しか考えてなかった…。
すみれを幸せにしたい。
その思いから、
「すみれ…俺もすみれが好きだ。
お祓い止めさせて、
俺と…ずっと一緒に暮らそう!」
きっと彼女を救う道はこれしかない。
そう思ってたが、すみれは
「そう言ってくれてありがとう…嬉しい…」
「じゃあ明日、全力で止めような!」
「修也…修也の気持ちは嬉しい…。
でも、ダメだよ…私は幽霊、修也は人間。
修也には私に縛られず、自由に
これから修也の幸せな人生を歩んでほしい…」
「でも…」
「私じゃ修也を幸せにしてあげられない…。
一緒に居たいけど…これが運命…」
すみれは俺の幸せをただ願ってくれた。
そんな儚い存在の彼女が
眩しく、強く思えた。
そうだ…彼女の幸せな道は
俺と一緒にずっと居る事じゃない…。
彼女の幸せな道は…
成仏だ…。
安らかな成仏をしてもらいたい。
そのために俺がすべき事、
「すみれ、明日のお祓い
俺も絶対に参列する。
ちゃんと見守ってるから」
彼女は涙を流しながら、
大きく首を縦に振った。
お祓い当日、
すみれが命を絶ったというアパートを
訪れると、アパートの近くで
すみれはお出迎えしてくれた。
彼女の顔は覚悟を決めていて
とても安らかな表情だった…。
「来てくれてありがとう…」
「そろそろだな…」
「修也…私…修也のこと…」
そう言いかけた彼女は
もじもじし出す。
「すみれ…俺…ずっと
すみれに話しかける前から
すみれのことが、気になってて…好きだった」
「私もだよ…」
「でも今は好きだからこそ、
すみれには…
安らかに成仏してほしいと思ってる」
「うん」
「けど、俺はすみれの事、忘れないから。
だから、俺が生きてる限り、
すみれも生きてるって思いながら、
俺は生きるから」
「うん!」
彼女は嬉しそうに頷いた。
「すみれ、言わせてくれ」
「何?」
「愛してるよ…」
「ありがとう…私も…
修也の事、愛してます…」
そう言って、お互いに
笑い合った。
「人間の恋人だったら、
ここで抱きしめてあげられるんだろうな。
けど、これが俺達の恋愛だもんな」
「通り抜けちゃうもんね!」
そうこうしている内に、
彼女が暮らして、自殺した部屋に
霊媒師の人が入っていった。
「行くか」
「うん!」
俺達は霊媒師の人を追って、
部屋のインターホンを押して、
今の住人の人と霊媒師の人に
すみれの恋人だから、お祓いに
俺も参列したいことを伝えた。
住人の人は怪訝そうな顔をしたが、
霊媒師の人は俺と同じ
霊が見える体質で、
俺とすみれがぴったりと一緒に居たから
霊媒師の人が俺も参列していいと、
言って俺も参列することになった。
昨日買ったすみれの好物をご供物に、
お祓いが始まった…。
すみれの姿が少しずつ消えていく…。
でも、すみれの顔は安らかだった…。
「修也…」
「ん?」
「私、修也の事…忘れない…」
「俺も…忘れない」
「ありがとう…修也…
しっかり生きて…幸せになってね…」
「お互い、幸せになろうな…。
ありがとう…すみれ…安らかに…」
……安らかな顔をしてすみれは成仏していった…。
もう…会えない…。
霊媒師の人はすみれの声も
聞こえていて、
「素敵な恋人ですね…」
「今はまだ、受け入れられないですけどね…」
「すみれさんはきっと、天国から
あなたの人生の幸せを願い、
ずっと見守ってくれますよ」
そう励ましてくれた。
きっと、すみれは天国だな。
あんなに、優しく強いから…。
そう思うと心が安心した。
けど、俺はすみれのように
そう強くない…。
すみれが居ないのが寂しいし、
後追いしたい気持ちもある…。
けど、すみれはそんな事を
俺に望んでいない。
俺がすみれに縛られず、
強く生きることが、
すみれが俺に望む事…。
しっかり生きて、幸せになること…。
自宅に戻り、
自分の部屋に菫の花を飾る…。
いつか、すみれのように
強く生きたい…そんな希望を込めて…。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる