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5.焦るアラン
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今年も花祭りの季節が近づいてきた。
街では準備が始まって華やかな雰囲気がただよっている。
アランのクラスでも誰と行くかとか花飾りはどうするかなど、花祭りの話題ばかりでみんな浮足立っていた。
「おい、アラン。お前はイルゼが婚約しちゃったから今年は花祭りに行けないな。」
「かわいそうに。お前も早く婚約者探せよ。」
仲の良いクラスメイト達からアランはからかわれた。
「は?何を言っている。
俺にだって婚約者はいるぞ。」
「またまた~
見栄張るなよ。」
「見栄なんか張ってないぞ。
10歳の時に婚約した婚約者がいる。」
「えぇ!本当なのか?
お前婚約者いるのか?」
クラスメイト達は騒然となった。
「お前から婚約者の話なんて聞いたことないぞ。」
「言ってないからな。」
「どういう子なんだ?」
「どういう子って・・・しいて言えば元気な子だな。」
「歳は?」
「ひとつ下だ。」
「この学校にいるのか?」
「いる。」
クラスメイト達は唖然となった。
「お前・・・なんで婚約者と一緒に登校しないの?」
「昼飯もずっと俺たちと一緒に食べていたよな?」
「別にいいだろう?なんか問題あるか?」
「いいわけないだろう!」
この学校では婚約者が学校にいる場合は一緒に登校し、昼食も一緒に食べるのが普通だ。
でもアランはいつもイルゼと登校していて、昼食も仲間たちと一緒に食べていた。
「お前大丈夫なのかよ。そんなに婚約者をほったらかしにして。」
「別に大丈夫だろ。むこうから何も言ってこないんだから。
文句があるなら何か言ってくるだろ。」
アランはこの6年間ジュディスからまったく不満も苦情も言って来なかったからジュディスも納得しているのだと思っていた。
あれだけ自分のことを大好きだと言っていたのだからちょっとくらいないがしろにしても大丈夫だろうと甘く見ていた。
もちろん結婚したらジュディスのことは大切にするつもりだ。
結婚後いい夫になれば婚約中にちょっとほったらかしにしたくらいのことは大目に見てもらえるだろうと勝手に都合よく考えていた。
「不満があっても我慢しているのかもしれないぞ。」
「そうだよ。もしくはものすごく怒っているとか。」
「お前に愛想つかしてすでに他に男がいるかもな。」
クラスメイト達は口々に不穏なことを言いだした。
「ちょっと待てよ。そんな大げさな事か?
別に婚約者だからっていつも一緒に行動しなくてもいいだろう?」
アランがそう言うと女子生徒たちが口を挟んできた。
「そうかしら?せっかくの婚約期間を楽しみたい女子は多いと思うわよ。」
「そうよ。デートしたりラブレターもらったり一緒に登校したり、甘々な婚約時代を夢見てる子は多いわよ。」
「私だったら婚約時代に何もしてくれなかった男なんて一生許さないわ。」
そう言われてアランもちょっとヤバイかもと思ってきた。
「俺はヤバイのか?」
「「「めちゃくちゃヤバイ!」」」
クラスメイト達の声がそろった。
「とにかくすぐに謝りに行け!」
「明日の朝からはその子の家に迎えに行くんだ!」
「昼メシも俺たちと食べてないでその子を誘え!」
皆に散々言われてアランは翌朝初めてジュディスの家に迎えに行った。
ノックをすると執事が出てきて驚いた顔をされた。
「アラン様!こんなに朝早くどうされたのですか?」
「ジュディスを迎えに来た。」
執事はちょっと困った顔をして、
「少々お待ちください。」
と言うと奥へ引っ込んだ。
しばらく待っているとジュディスの母親であるベネット夫人が現れた。
「アラン様、お久しぶりでございます。
今朝は何の御用でいらっしゃいましたの?」
「ご無沙汰しております。
ジュディスを迎えに参りました。」
「あら?今頃?
ジュディスが入学して半年近くたちますが、今まで一度もいらっしゃらなかったのになぜ突然いらっしゃいましたの?」
なんだかベネット夫人の言葉にトゲを感じた。
「今までお迎えに来なくて申し訳なかったと思っております。
今日から婚約者としてお迎えにあがろうと思っております。
ジュディスはどこですか?」
「申し訳ございませんがもう登校してしまいました。」
「ずいぶん早くないですか?」
「あの子は同じクラスの馬車がないおうちの令嬢達を迎えに行ってから登校しておりますので朝は早く家を出るのです。」
「そんな事をしているんですか?」
「えぇ。毎日歩いて登校するのは大変ですし、雨の日なんかは休まなくてはいけなくなるのだそうです。
大変な思いをしていると聞いて迎えに行くことを提案したそうです。」
「そうなんですね。でもその令嬢達には申し訳ありませんが明日からは私がジュディスを迎えに参ります。」
「お断りいたしますわ。」
「断る?なぜですか?普通は婚約者が迎えに来るものでしょ?」
「今までほったらかしにしてきたくせにいきなり来て『普通は婚約者が迎えに来るものでしょ?』なんて言うのですか?」
ベネット夫人はあきれたように言った。
「急に『明日からはもう迎えに行きません。自分で来てください。』なんて言ったら令嬢たちが困るでしょう?
急に来てお友達との約束を反故にしろなんてそれはあまりに横暴ではないですか?」
そう言われると何も言い返せなかった。
「なぜ急にお迎えにいらっしゃったか分かりませんが、我が家ではそちら様は婚約破棄したいのだと思っていましたわ。」
「婚約破棄!?なぜですか?そんなことはしません!」
「あらそうですか?あまりに音信不通の期間が長かったからてっきりジュディスのことが気に入らないのかと思っていましたわ。」
「そんな訳ありません!」
「同じ伯爵家でもそちら様の方が格上ですからこちらから婚約破棄は言い出しませんが、うちはいつ婚約破棄されても構わないんですよ。
あの子を気に入ってお見合いを申し込んでくださる方もいらっしゃるので。」
これはベネット夫人のハッタリではなかった。
学校に通うようになって交友関係が広がるとジュディスのことを気に入ってお見合いを申し込んでくる令息達が現れた。
もちろんアランと婚約中であるからベネット家では断るしかないのだが。
「はぁ!?婚約者がいる令嬢にお見合いを申し込むなんて失礼じゃないですか!」
「そうですわね。でも『バーンズ家のアラン殿とはほとんど会ってもいないと聞いております。もしもバーンズ家と婚約破棄になった際はご連絡ください。』なんておっしゃる方がいらっしゃいますのよ。」
そう言われるとアランは何も言い返せなかった。
ジュディスをほったらかしにしていたのは真実なのだから。
「せっかく来ていただいたのに無駄足になってしまって申し訳ありませんでした。
明日からも来ていただかなくて結構ですので。」
ベネット夫人はとりつくしまもなかった。
アランはフラフラになって登校した。
アランがクラスに入って来るとクラスメイト達が集まって来た。
「どうだった?ちゃんと婚約者を迎えに行ったんだろうな?」
アランは今朝ベネット家での出来事を全部話した。
皆顔が青ざめた。
「うわぁ~、ベネット夫人は相当怒っているな。」
「そりゃあそうよ。今までずっと娘が無視されてきたんだから。」
「これは本当に婚約破棄になるかもな。」
「あきらめたほうがいいんじゃない?」
すっかりあきらめムードがただよった。
「いや!俺はあきらめない!次はどうしたらいい?」
皆考え込んだ。
「とりあえずダメ元で花祭りに誘うべきじゃないか?」
「そうだな。どこまで挽回できるかわからないが誠意を見せるべきだな。」
「善は急げだ。今すぐ婚約者を誘いに行け!」
クラスメイトたちの剣幕に押されてアランはジュディスのクラスに走った。
ちょうどジュディスが教室から出てきたところだった。
「ジュディス!ちょっといいか?」
振り向いたジュディスはアランを見てびっくりした顔をした。
「アラン様じゃないですか!?どうしたんですか!?」
6年ぶりにマジマジと見たジュディスは当たり前だが背が伸びて大人っぽくなっていた。
でもふわふわしたミルクティー色の髪の毛とまん丸な瞳は変わっていなかった。
「花祭りについて話しに来た。」
「花祭りですか?どういったお話でしょうか?」
「君を誘いに来た。」
「私を?なぜですか?」
「婚約者だからに決まっているだろう。」
「でも今まで一度も誘っていただいたことありませんよね?」
アランは痛いところを突かれたと思った。
「今まではイルゼがいたから君を誘わなかったけど、今年は君と一緒に行きたいと思ってる。」
「申し訳ございませんが、私は今年は孤児院の子どもたちを引率することが決まっています。」
「は?婚約者が誘っているのに一緒に行かないのか?」
「孤児院の子供たちと約束しましたから。」
「婚約者よりも孤児院の子どもたちの方が大事なのか?」
「先約ですから孤児院の子供達との約束を優先させていただきます。」
「普通は婚約者と行くものだろう?」
「でも今までアラン様はイルゼ様と行ってましたよね。」
そう言われてアランは返す言葉がなかった。
6年も無視しておいていきなり誘いに来たのは自分なのだ。
文句を言う資格はない。
「わざわざ誘いに来てくださったのに申し訳ありませんが他の方を誘ってください。」
そう丁寧に言うとジュディスは会釈をして友達と行ってしまった。
アランはすごすごと引き下がるしかなかった。
「どうだった?」
アランが帰ってくるとクラスメイト達が群がった。
「先約があるそうだ。」
その返答を聞いてクラスメイト達はため息をついた。
「もう本当にお前に愛想をつかしてるんだろうな。」
「お前のことなんかどうでもいいんだろうな。」
「婚約破棄を言い渡される日も近いんじゃない?」
「あきらめて次の婚約者探せよ。」
口々に言われてアランの顔は青ざめた。
「そんな!何とかならないのか!?」
「うーん。難しいなぁ。」
「とりあえず謝りたおして信頼を取り戻すしかないんじゃない?」
「そうだな。もう謝ることしかできないよな。」
「分かった。とりあえず謝る。謝りたおしてくる。」
「それから街に誘って花飾りを買いに行くんだ。
かわいい花飾りを買ってやればお前と花祭りに行く気になってくれるかもしれないぞ。」
「そうだな。とりあえず女の子の怒りを鎮めるにはプレゼントだ。」
「よし!今日の帰りに街に誘って花飾りを買いに行く!」
授業が終わるとアランはジュディスのクラスに走った。
困惑するジュディスをバーンズ家の馬車に乗せ、ジュディスがいつも家まで送っている令嬢達はベネット家の馬車に乗せて御者に家に送るように言った。
「アラン様、どこへ行くのですか?」
「花飾りを買いに行く。」
「花飾りですか?」
ジュディスはどういうことなんだろうと思った。
(私はさっき花祭りには行けないとハッキリ断ったわよね。
だから私の花飾りではないはずよね。
きっと他の方と行くから私に花飾りを選ぶのを手伝って欲しいってことなのね。)
「分かりました。任せてください。一番ステキな花飾りを探します!」
街に着くとジュディスはアランを1番人気のアクセサリー店に案内した。
店の中はところ狭しと色々な花をあしらったアクセサリーが並んでいた。
バラで作ったネックレス。
スズランで作った髪飾り。
デージーで作ったイヤリング。
どれも花祭り用に同じ花で作ったブートニアがセットになっていた。
ジュディスは熱心に店中の花飾りを見て回った。
アランのために最高の一品を選ぼうと気合いを入れた。
その間アランは所在なさげに突っ立っていた。
しばらく悩んでジュディスはジャスミンの髪飾りとブートニアのセットを選んだ。
アランが誘った令嬢がどんな方かわからないけど白い花ならどんな髪色にも目の色にも似合うと思ったのだ。
「アラン様、これがいいと思います。」
ジュディスが差し出すとアランは
「よし、それにしよう。」
と言って会計をした。
キレイにラッピングされた花飾りを見てジュディスはアランの役に立てて本当によかったと思った。
それからバーンズ家の馬車に乗ってアランはジュディスをベネット家まで送ってくれた。
「今日は急に誘って悪かったな。」
別れ際にアランは言った。
「とんでもないです。ステキな花飾りが見つかってよかったですね。」
アランが他の令嬢のために花飾りを買ったと思っているジュディスはニコニコ顔でそう答えた。
一方アランも、
(ジュディスは喜んでいるな。花飾りを選んだということは花祭りに一緒に行ってくれるんだろうな。
やっぱりみんなの言う通り女子はプレゼントに弱いんだな。)
と勝手に安心していた。
お互い思っていることはチグハグだったが2人とも満足した良い1日だった。
街では準備が始まって華やかな雰囲気がただよっている。
アランのクラスでも誰と行くかとか花飾りはどうするかなど、花祭りの話題ばかりでみんな浮足立っていた。
「おい、アラン。お前はイルゼが婚約しちゃったから今年は花祭りに行けないな。」
「かわいそうに。お前も早く婚約者探せよ。」
仲の良いクラスメイト達からアランはからかわれた。
「は?何を言っている。
俺にだって婚約者はいるぞ。」
「またまた~
見栄張るなよ。」
「見栄なんか張ってないぞ。
10歳の時に婚約した婚約者がいる。」
「えぇ!本当なのか?
お前婚約者いるのか?」
クラスメイト達は騒然となった。
「お前から婚約者の話なんて聞いたことないぞ。」
「言ってないからな。」
「どういう子なんだ?」
「どういう子って・・・しいて言えば元気な子だな。」
「歳は?」
「ひとつ下だ。」
「この学校にいるのか?」
「いる。」
クラスメイト達は唖然となった。
「お前・・・なんで婚約者と一緒に登校しないの?」
「昼飯もずっと俺たちと一緒に食べていたよな?」
「別にいいだろう?なんか問題あるか?」
「いいわけないだろう!」
この学校では婚約者が学校にいる場合は一緒に登校し、昼食も一緒に食べるのが普通だ。
でもアランはいつもイルゼと登校していて、昼食も仲間たちと一緒に食べていた。
「お前大丈夫なのかよ。そんなに婚約者をほったらかしにして。」
「別に大丈夫だろ。むこうから何も言ってこないんだから。
文句があるなら何か言ってくるだろ。」
アランはこの6年間ジュディスからまったく不満も苦情も言って来なかったからジュディスも納得しているのだと思っていた。
あれだけ自分のことを大好きだと言っていたのだからちょっとくらいないがしろにしても大丈夫だろうと甘く見ていた。
もちろん結婚したらジュディスのことは大切にするつもりだ。
結婚後いい夫になれば婚約中にちょっとほったらかしにしたくらいのことは大目に見てもらえるだろうと勝手に都合よく考えていた。
「不満があっても我慢しているのかもしれないぞ。」
「そうだよ。もしくはものすごく怒っているとか。」
「お前に愛想つかしてすでに他に男がいるかもな。」
クラスメイト達は口々に不穏なことを言いだした。
「ちょっと待てよ。そんな大げさな事か?
別に婚約者だからっていつも一緒に行動しなくてもいいだろう?」
アランがそう言うと女子生徒たちが口を挟んできた。
「そうかしら?せっかくの婚約期間を楽しみたい女子は多いと思うわよ。」
「そうよ。デートしたりラブレターもらったり一緒に登校したり、甘々な婚約時代を夢見てる子は多いわよ。」
「私だったら婚約時代に何もしてくれなかった男なんて一生許さないわ。」
そう言われてアランもちょっとヤバイかもと思ってきた。
「俺はヤバイのか?」
「「「めちゃくちゃヤバイ!」」」
クラスメイト達の声がそろった。
「とにかくすぐに謝りに行け!」
「明日の朝からはその子の家に迎えに行くんだ!」
「昼メシも俺たちと食べてないでその子を誘え!」
皆に散々言われてアランは翌朝初めてジュディスの家に迎えに行った。
ノックをすると執事が出てきて驚いた顔をされた。
「アラン様!こんなに朝早くどうされたのですか?」
「ジュディスを迎えに来た。」
執事はちょっと困った顔をして、
「少々お待ちください。」
と言うと奥へ引っ込んだ。
しばらく待っているとジュディスの母親であるベネット夫人が現れた。
「アラン様、お久しぶりでございます。
今朝は何の御用でいらっしゃいましたの?」
「ご無沙汰しております。
ジュディスを迎えに参りました。」
「あら?今頃?
ジュディスが入学して半年近くたちますが、今まで一度もいらっしゃらなかったのになぜ突然いらっしゃいましたの?」
なんだかベネット夫人の言葉にトゲを感じた。
「今までお迎えに来なくて申し訳なかったと思っております。
今日から婚約者としてお迎えにあがろうと思っております。
ジュディスはどこですか?」
「申し訳ございませんがもう登校してしまいました。」
「ずいぶん早くないですか?」
「あの子は同じクラスの馬車がないおうちの令嬢達を迎えに行ってから登校しておりますので朝は早く家を出るのです。」
「そんな事をしているんですか?」
「えぇ。毎日歩いて登校するのは大変ですし、雨の日なんかは休まなくてはいけなくなるのだそうです。
大変な思いをしていると聞いて迎えに行くことを提案したそうです。」
「そうなんですね。でもその令嬢達には申し訳ありませんが明日からは私がジュディスを迎えに参ります。」
「お断りいたしますわ。」
「断る?なぜですか?普通は婚約者が迎えに来るものでしょ?」
「今までほったらかしにしてきたくせにいきなり来て『普通は婚約者が迎えに来るものでしょ?』なんて言うのですか?」
ベネット夫人はあきれたように言った。
「急に『明日からはもう迎えに行きません。自分で来てください。』なんて言ったら令嬢たちが困るでしょう?
急に来てお友達との約束を反故にしろなんてそれはあまりに横暴ではないですか?」
そう言われると何も言い返せなかった。
「なぜ急にお迎えにいらっしゃったか分かりませんが、我が家ではそちら様は婚約破棄したいのだと思っていましたわ。」
「婚約破棄!?なぜですか?そんなことはしません!」
「あらそうですか?あまりに音信不通の期間が長かったからてっきりジュディスのことが気に入らないのかと思っていましたわ。」
「そんな訳ありません!」
「同じ伯爵家でもそちら様の方が格上ですからこちらから婚約破棄は言い出しませんが、うちはいつ婚約破棄されても構わないんですよ。
あの子を気に入ってお見合いを申し込んでくださる方もいらっしゃるので。」
これはベネット夫人のハッタリではなかった。
学校に通うようになって交友関係が広がるとジュディスのことを気に入ってお見合いを申し込んでくる令息達が現れた。
もちろんアランと婚約中であるからベネット家では断るしかないのだが。
「はぁ!?婚約者がいる令嬢にお見合いを申し込むなんて失礼じゃないですか!」
「そうですわね。でも『バーンズ家のアラン殿とはほとんど会ってもいないと聞いております。もしもバーンズ家と婚約破棄になった際はご連絡ください。』なんておっしゃる方がいらっしゃいますのよ。」
そう言われるとアランは何も言い返せなかった。
ジュディスをほったらかしにしていたのは真実なのだから。
「せっかく来ていただいたのに無駄足になってしまって申し訳ありませんでした。
明日からも来ていただかなくて結構ですので。」
ベネット夫人はとりつくしまもなかった。
アランはフラフラになって登校した。
アランがクラスに入って来るとクラスメイト達が集まって来た。
「どうだった?ちゃんと婚約者を迎えに行ったんだろうな?」
アランは今朝ベネット家での出来事を全部話した。
皆顔が青ざめた。
「うわぁ~、ベネット夫人は相当怒っているな。」
「そりゃあそうよ。今までずっと娘が無視されてきたんだから。」
「これは本当に婚約破棄になるかもな。」
「あきらめたほうがいいんじゃない?」
すっかりあきらめムードがただよった。
「いや!俺はあきらめない!次はどうしたらいい?」
皆考え込んだ。
「とりあえずダメ元で花祭りに誘うべきじゃないか?」
「そうだな。どこまで挽回できるかわからないが誠意を見せるべきだな。」
「善は急げだ。今すぐ婚約者を誘いに行け!」
クラスメイトたちの剣幕に押されてアランはジュディスのクラスに走った。
ちょうどジュディスが教室から出てきたところだった。
「ジュディス!ちょっといいか?」
振り向いたジュディスはアランを見てびっくりした顔をした。
「アラン様じゃないですか!?どうしたんですか!?」
6年ぶりにマジマジと見たジュディスは当たり前だが背が伸びて大人っぽくなっていた。
でもふわふわしたミルクティー色の髪の毛とまん丸な瞳は変わっていなかった。
「花祭りについて話しに来た。」
「花祭りですか?どういったお話でしょうか?」
「君を誘いに来た。」
「私を?なぜですか?」
「婚約者だからに決まっているだろう。」
「でも今まで一度も誘っていただいたことありませんよね?」
アランは痛いところを突かれたと思った。
「今まではイルゼがいたから君を誘わなかったけど、今年は君と一緒に行きたいと思ってる。」
「申し訳ございませんが、私は今年は孤児院の子どもたちを引率することが決まっています。」
「は?婚約者が誘っているのに一緒に行かないのか?」
「孤児院の子供たちと約束しましたから。」
「婚約者よりも孤児院の子どもたちの方が大事なのか?」
「先約ですから孤児院の子供達との約束を優先させていただきます。」
「普通は婚約者と行くものだろう?」
「でも今までアラン様はイルゼ様と行ってましたよね。」
そう言われてアランは返す言葉がなかった。
6年も無視しておいていきなり誘いに来たのは自分なのだ。
文句を言う資格はない。
「わざわざ誘いに来てくださったのに申し訳ありませんが他の方を誘ってください。」
そう丁寧に言うとジュディスは会釈をして友達と行ってしまった。
アランはすごすごと引き下がるしかなかった。
「どうだった?」
アランが帰ってくるとクラスメイト達が群がった。
「先約があるそうだ。」
その返答を聞いてクラスメイト達はため息をついた。
「もう本当にお前に愛想をつかしてるんだろうな。」
「お前のことなんかどうでもいいんだろうな。」
「婚約破棄を言い渡される日も近いんじゃない?」
「あきらめて次の婚約者探せよ。」
口々に言われてアランの顔は青ざめた。
「そんな!何とかならないのか!?」
「うーん。難しいなぁ。」
「とりあえず謝りたおして信頼を取り戻すしかないんじゃない?」
「そうだな。もう謝ることしかできないよな。」
「分かった。とりあえず謝る。謝りたおしてくる。」
「それから街に誘って花飾りを買いに行くんだ。
かわいい花飾りを買ってやればお前と花祭りに行く気になってくれるかもしれないぞ。」
「そうだな。とりあえず女の子の怒りを鎮めるにはプレゼントだ。」
「よし!今日の帰りに街に誘って花飾りを買いに行く!」
授業が終わるとアランはジュディスのクラスに走った。
困惑するジュディスをバーンズ家の馬車に乗せ、ジュディスがいつも家まで送っている令嬢達はベネット家の馬車に乗せて御者に家に送るように言った。
「アラン様、どこへ行くのですか?」
「花飾りを買いに行く。」
「花飾りですか?」
ジュディスはどういうことなんだろうと思った。
(私はさっき花祭りには行けないとハッキリ断ったわよね。
だから私の花飾りではないはずよね。
きっと他の方と行くから私に花飾りを選ぶのを手伝って欲しいってことなのね。)
「分かりました。任せてください。一番ステキな花飾りを探します!」
街に着くとジュディスはアランを1番人気のアクセサリー店に案内した。
店の中はところ狭しと色々な花をあしらったアクセサリーが並んでいた。
バラで作ったネックレス。
スズランで作った髪飾り。
デージーで作ったイヤリング。
どれも花祭り用に同じ花で作ったブートニアがセットになっていた。
ジュディスは熱心に店中の花飾りを見て回った。
アランのために最高の一品を選ぼうと気合いを入れた。
その間アランは所在なさげに突っ立っていた。
しばらく悩んでジュディスはジャスミンの髪飾りとブートニアのセットを選んだ。
アランが誘った令嬢がどんな方かわからないけど白い花ならどんな髪色にも目の色にも似合うと思ったのだ。
「アラン様、これがいいと思います。」
ジュディスが差し出すとアランは
「よし、それにしよう。」
と言って会計をした。
キレイにラッピングされた花飾りを見てジュディスはアランの役に立てて本当によかったと思った。
それからバーンズ家の馬車に乗ってアランはジュディスをベネット家まで送ってくれた。
「今日は急に誘って悪かったな。」
別れ際にアランは言った。
「とんでもないです。ステキな花飾りが見つかってよかったですね。」
アランが他の令嬢のために花飾りを買ったと思っているジュディスはニコニコ顔でそう答えた。
一方アランも、
(ジュディスは喜んでいるな。花飾りを選んだということは花祭りに一緒に行ってくれるんだろうな。
やっぱりみんなの言う通り女子はプレゼントに弱いんだな。)
と勝手に安心していた。
お互い思っていることはチグハグだったが2人とも満足した良い1日だった。
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