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5.念願のレガーロ
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レガーロの港は水深が深く大型のガレオン船も停泊できるレミリアス王国の貿易拠点。
港町では商業ギルドが商業活動を独占していたが、近年のギルドは雑貨商や毛織物商などに細分化されはじめている。
レガーロで特に力をつけているのは鍛冶屋・皮革業者・車大工・船大工・画工・運送屋など。
馬車を停めパタパタと走り出したルーナが駆け込んだのは店の前に置かれた樽の上に陶器のティーカップや木製の人形が飾られた店。
「こんにちは、表にあるピローが見たいんだけど」
女性向けの雑貨屋のショーウィンドウにはクッションやピロー・ガウンなどが品よく飾られていた。
柔かな笑顔を浮かべた店員が展示されていたピローと同じ物を二つ店の奥から持って来た。
「こちらは一番人気のピローで、今とても人気の商品なんです。
船旅は天候によっては酷く揺れるので、枕が変わるだけでも凄く楽になるって皆さん仰られて、羊毛が入っているものとガチョウの羽毛が入っているものの2種類があります」
モミモミしてみると感触が雲泥の差。
「羽毛の方、これが一番大きなサイズかしら?」
「えーっと、もう一回り大きいのがあったと・・少々お待ち下さいね」
首を傾げていた店員がもう一度奥に行き、一抱えもある巨大なピローを持って来た。
「一つだけならこれがありましたけど、大きすぎますかしら?」
「いいえ、羽毛の方を2つともいただくわ。それから連れの者が馬車にひどく酔ってしまったの。何処かおすすめの宿をご存知ないかしら?」
「まあ、それは大変。でしたら通りを挟んだ東側にある宿がオススメですよ。部屋もベッドも清潔ですし店主の旦那さんが漁師なんでお魚が美味しいです・・あと、叔母がやってるのでそのピローを持っていればサービスしてくれると思います」
にっこり笑った雑貨屋の店員さんにお礼を言って店を出た。
「美人なだけじゃなく商売上手ね」
ルーナはサイズの違う二つのピローを抱えたまま雑貨屋で教えてもらった宿屋に入って行った。一階の食堂のテーブルは半分くらい埋まっていて、皆エールや料理に舌鼓を打っていた。
床もテーブルもしっかりと磨かれ料理を運ぶ店員も清潔そうなエプロンをつけている。
「2人部屋と1人部屋がいるんだけど、部屋は空いてるかしら?」
「はい、大丈夫です。そのピロー、向かいのお店のでしょう?」
「ええ、これを買った時ここを紹介してもらったの。食事もお願い」
「じゃあ夕食の時デザートをサービスしますね」
気持ちの良い宿屋の対応にご機嫌のルーナが馬車に戻ってきた。
「お待たせ。宿が取れたから行きましょうね」
ルーナは宿のベッドにアリシアを押し込み買ってきたばかりのクッションを差し出した。
「さあ、ゆっくり休んで。明日からの船旅はうんと楽になはずよ」
申し訳ないと謝りながら眠りについたアリシアを見ながらルーナは着替えをはじめた。
(アリシアが馬車が苦手なの知らなかったから可哀想なことしちゃった。もしもの時は船に乗るのは延期しなくちゃね)
この様子だと侯爵領から王都に出てくる時も大変だったのだろうと思い反省しきりのルーナだった。
最も美しい島と呼ばれるこの島は青く透き通った海と海岸沿いの美しい街並み、その奥には鬱蒼とした森と険しい山が聳えている。
船から見える島はどこまでも続く白い石灰岩と崖の上の町が海を睥睨しているように見え、その岩壁には急角度で作られた階段が海近くまで掘り込まれ海賊から逃れる為に使用された事もあったと言われている。
「あの階段是非行ってみたいわ」
港に近づいた船は速度を落とし島の近くをゆっくりと進んでいる。
「マシューが来てから一緒に行って下さいませ。私だと途中で足が竦んで動けなくなりそうです」
「残念、高い所は苦手なの?」
王都のタウンハウスを出てから元気一杯のルーナはアリシアと一緒に船のデッキに立ち、潮風に飛ばされそうになっている帽子を押さえながらアリシアを揶揄った。
「それほどでもないとは思いますが、怖いもの知らずのルーナ様についてく自信はないです」
船酔いを免れたアリシアは崖の上の街を見上げいつもの辛口で返事をしてきた。
島の北端にあるカルス岬の付け根に位置する港町ラスティアは、城塞に囲まれた風光明媚な街並みが有名で毎年多くの旅人達が訪れると共に古くから沿岸諸国の海洋交易の中継地としても栄えている。
ヒツジの放牧とブドウやセドラなどの栽培が行われており、名産品はラスティア原産の品種の葡萄を使ったワインや豚やハム・ソーセージ。
「ポリフォニーが楽しみなの」
ポリフォニーは即興詩吟をベースに現地の言葉で歌われる。
複数人が楽器を使わずに奏でる多声の男声合唱だが、モノディと呼ばれる単声あるいは複数人が合唱しない形式で歌うものもある。
「ずーっとここに来るのを楽しみにしてたの。私はヤギの乳で作ったブロッチュって言うチーズとクリの粉から作ったカニストレリやセドラを使ったコンフィチュールが楽しみなのだけど、成人してたらクリのビールを飲んでみたかったかも」
「ルーナ様は随分とお詳しいんですね」
「4年前に叔母様がこの島を訪れた時の話をしてくださって。その時から婚約破棄出来たら一番にここに来るって決めてたの」
「アビゲイル様ですか? あの方はご旅行がお好きですからきっと色んなところに行かれてるんでしょうね」
「私もこれからは叔母様にあちこち連れて行っていただこうかしら」
「でも捜索隊が来るのではありませんか?」
「うーん、お父様次第かしら。お父様の失態にこれ以上付き合わされたら堪らないから先ずは責任を取って頂いて今後の糧にしていただく予定なの。
状況によっては戦いに戻るけどそうならない事を祈ってるわ」
「確かにこの婚約が決まった経緯を考えると旦那様に頑張ってもらうのは当然かもですね」
「誰が聞いてもそう思うと思うわ。だってお父様ったら・・」
港町では商業ギルドが商業活動を独占していたが、近年のギルドは雑貨商や毛織物商などに細分化されはじめている。
レガーロで特に力をつけているのは鍛冶屋・皮革業者・車大工・船大工・画工・運送屋など。
馬車を停めパタパタと走り出したルーナが駆け込んだのは店の前に置かれた樽の上に陶器のティーカップや木製の人形が飾られた店。
「こんにちは、表にあるピローが見たいんだけど」
女性向けの雑貨屋のショーウィンドウにはクッションやピロー・ガウンなどが品よく飾られていた。
柔かな笑顔を浮かべた店員が展示されていたピローと同じ物を二つ店の奥から持って来た。
「こちらは一番人気のピローで、今とても人気の商品なんです。
船旅は天候によっては酷く揺れるので、枕が変わるだけでも凄く楽になるって皆さん仰られて、羊毛が入っているものとガチョウの羽毛が入っているものの2種類があります」
モミモミしてみると感触が雲泥の差。
「羽毛の方、これが一番大きなサイズかしら?」
「えーっと、もう一回り大きいのがあったと・・少々お待ち下さいね」
首を傾げていた店員がもう一度奥に行き、一抱えもある巨大なピローを持って来た。
「一つだけならこれがありましたけど、大きすぎますかしら?」
「いいえ、羽毛の方を2つともいただくわ。それから連れの者が馬車にひどく酔ってしまったの。何処かおすすめの宿をご存知ないかしら?」
「まあ、それは大変。でしたら通りを挟んだ東側にある宿がオススメですよ。部屋もベッドも清潔ですし店主の旦那さんが漁師なんでお魚が美味しいです・・あと、叔母がやってるのでそのピローを持っていればサービスしてくれると思います」
にっこり笑った雑貨屋の店員さんにお礼を言って店を出た。
「美人なだけじゃなく商売上手ね」
ルーナはサイズの違う二つのピローを抱えたまま雑貨屋で教えてもらった宿屋に入って行った。一階の食堂のテーブルは半分くらい埋まっていて、皆エールや料理に舌鼓を打っていた。
床もテーブルもしっかりと磨かれ料理を運ぶ店員も清潔そうなエプロンをつけている。
「2人部屋と1人部屋がいるんだけど、部屋は空いてるかしら?」
「はい、大丈夫です。そのピロー、向かいのお店のでしょう?」
「ええ、これを買った時ここを紹介してもらったの。食事もお願い」
「じゃあ夕食の時デザートをサービスしますね」
気持ちの良い宿屋の対応にご機嫌のルーナが馬車に戻ってきた。
「お待たせ。宿が取れたから行きましょうね」
ルーナは宿のベッドにアリシアを押し込み買ってきたばかりのクッションを差し出した。
「さあ、ゆっくり休んで。明日からの船旅はうんと楽になはずよ」
申し訳ないと謝りながら眠りについたアリシアを見ながらルーナは着替えをはじめた。
(アリシアが馬車が苦手なの知らなかったから可哀想なことしちゃった。もしもの時は船に乗るのは延期しなくちゃね)
この様子だと侯爵領から王都に出てくる時も大変だったのだろうと思い反省しきりのルーナだった。
最も美しい島と呼ばれるこの島は青く透き通った海と海岸沿いの美しい街並み、その奥には鬱蒼とした森と険しい山が聳えている。
船から見える島はどこまでも続く白い石灰岩と崖の上の町が海を睥睨しているように見え、その岩壁には急角度で作られた階段が海近くまで掘り込まれ海賊から逃れる為に使用された事もあったと言われている。
「あの階段是非行ってみたいわ」
港に近づいた船は速度を落とし島の近くをゆっくりと進んでいる。
「マシューが来てから一緒に行って下さいませ。私だと途中で足が竦んで動けなくなりそうです」
「残念、高い所は苦手なの?」
王都のタウンハウスを出てから元気一杯のルーナはアリシアと一緒に船のデッキに立ち、潮風に飛ばされそうになっている帽子を押さえながらアリシアを揶揄った。
「それほどでもないとは思いますが、怖いもの知らずのルーナ様についてく自信はないです」
船酔いを免れたアリシアは崖の上の街を見上げいつもの辛口で返事をしてきた。
島の北端にあるカルス岬の付け根に位置する港町ラスティアは、城塞に囲まれた風光明媚な街並みが有名で毎年多くの旅人達が訪れると共に古くから沿岸諸国の海洋交易の中継地としても栄えている。
ヒツジの放牧とブドウやセドラなどの栽培が行われており、名産品はラスティア原産の品種の葡萄を使ったワインや豚やハム・ソーセージ。
「ポリフォニーが楽しみなの」
ポリフォニーは即興詩吟をベースに現地の言葉で歌われる。
複数人が楽器を使わずに奏でる多声の男声合唱だが、モノディと呼ばれる単声あるいは複数人が合唱しない形式で歌うものもある。
「ずーっとここに来るのを楽しみにしてたの。私はヤギの乳で作ったブロッチュって言うチーズとクリの粉から作ったカニストレリやセドラを使ったコンフィチュールが楽しみなのだけど、成人してたらクリのビールを飲んでみたかったかも」
「ルーナ様は随分とお詳しいんですね」
「4年前に叔母様がこの島を訪れた時の話をしてくださって。その時から婚約破棄出来たら一番にここに来るって決めてたの」
「アビゲイル様ですか? あの方はご旅行がお好きですからきっと色んなところに行かれてるんでしょうね」
「私もこれからは叔母様にあちこち連れて行っていただこうかしら」
「でも捜索隊が来るのではありませんか?」
「うーん、お父様次第かしら。お父様の失態にこれ以上付き合わされたら堪らないから先ずは責任を取って頂いて今後の糧にしていただく予定なの。
状況によっては戦いに戻るけどそうならない事を祈ってるわ」
「確かにこの婚約が決まった経緯を考えると旦那様に頑張ってもらうのは当然かもですね」
「誰が聞いてもそう思うと思うわ。だってお父様ったら・・」
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