1 / 93
1.レトビアの荊姫
しおりを挟む
「宴に呼ばれなかった魔女はたまたま運が悪かった? それとも悪い魔女だった? どちらだと思う?」
「私的には悪い魔女説の方かなあ。だって、王家にお皿が12枚しかないなんてあり得ないし、選ばれない13番目になったのは日頃から意地悪ばかりしていたとかの方がお皿が足りないって言うよりしっくりくるわね。
急に童話なんて何かあったの?」
「⋯⋯そう思うわよね。じゃあ紡錘の針で眠りについた荊姫は?」
「その魔女だけを宴に呼ばないって決めたのは王様かお妃様だから、荊姫は単に運が悪かったんじゃないかしら」
「運か⋯⋯だよね。はぁ」
セアラ・ホプキンス伯爵令嬢は手に持ったカップの中を覗き込んだままで、久しぶりに会った友人のイリス・ラーニア子爵令嬢の意見に溜息をついた。
「いつも元気いっぱいのセアラが溜息をつくなんてどうしたの? 幼馴染のイリス様に相談してごらんなさいな」
心ここに在らずといった様子のセアラを心配したイリスは冗談めかして話を促した。
セアラとイリスは共に14歳。旅行から帰ってきた母親のお土産を手にやって来たイリスは、セアラの部屋で二人仲良く紅茶とお土産のお菓子をぱくつく予定だったが妙に元気のないセアラを心配して顔を顰めた。
「貧乏貴族の次女ってやっぱりいらない子なのかしら」
セアラは昨夜の父親との会話を話しはじめた。
『レトビア公爵が資金援助する代わりにお前を養女に欲しいと仰って下さったんだ』
『借金の代わりに私を差し出すと言う事ですか?』
『まあそう言う言い方も⋯⋯。いや、その、セアラには申し訳ないが我が家がもうどうにもならないことは知っているだろ? 今回の話はお前にとっても良いこと尽くめなんだ。
公爵家の令嬢として籍を入れて学園にも通わせてくださるそうなんだ』
『学園に通えるのはとても嬉しいですけれどレトビア公爵家となると⋯⋯。年齢からして次女になるのでしょうか?』
セアラの祖父、先代のホプキンス伯爵は美術品や骨董品の蒐集家だった。そのお陰で伯爵家の財政が傾いても『必要になれば売れば良い』と言い続けて蒐集をやめず亡くなった。
祖父亡き後調べてみると蒐集品の殆どが贋物だった所為で借金の返済に追われるホプキンス伯爵家では来年度から入学予定のセアラの学費が払える見込みがたっていない。
『いや、長女のメリッサ様は近々侯爵家へ輿入れされることが決まったんだ。だから扱いは長女という事になるそうだ』
『⋯⋯つまり、お父様は私を【呪われしレトビアの長女】になさるおつもりですの?』
『あんなものは迷信に決まってる。今時魔女の呪いだなんて有り得ないよ』
『では何故養女が必要なのでしょうか? メリッサ様が嫁がれた後、妹のアメリア様が長女の立ち位置になられるのを嫌がっておられるから養女が必要なのではありませんか?』
『そんなわけないさ。それにメリッサ様はご結婚された後もレトビア公爵家の長女である事は変わらないんだから』
(お父様はご存じないんだわ)
レトビア公爵家の呪いはこの国の建国時に遡る。サルドニア帝国からの独立を目指した戦いの最中、当時は侯爵だったレトビア家の嫡男を筆頭にした一団が前線近くに建つイーバリス神殿の宝物庫を奇襲した。抵抗する神官や聖女を皆殺しにして全ての宝物を盗み出し、その収益を現在の王家に差し出した事で戦況は一変し独立を果たしたと言われている。
その功を讃え公爵に陞爵したレトビア家だったが独立記念の宴の夜、黒いベールを着た戦乙女ディースがレトビア公爵の前に現れた。
“未来永劫レトビア家の長女は18の歳に、紡錘の針で命を落とすであろう”
殺された聖女の代わりに連れ去るのではないかと言われ、紡錘の針と言う文言から、
【レトビアの荊姫】
【呪われしレトビアの長女】
と呼ばれるようになった。
崩壊した神殿には今でも夜な夜な殺された神官や聖女が現れ、失われた宝物を探している姿が見受けられると言われている。
『紡錘の針だなんて御伽噺そのままじゃないか。馬鹿馬鹿しい。そんなことを心配する必要なんかないよ』
『錘は神々の貢物としてもささげられるほど神聖なものだと言われていますわ。呪いのアイテムとしては最適だって』
『あれはレトビア公爵家へのやっかみだって。あんまり気持ちのいい話じゃないのはわかるが、心配しなくても大丈夫だよ。実際に亡くなった方はおられないと仰っておられたしね』
『それは、レトビア公爵家では女の子が誕生すると18歳になるまでに結婚させるか養女に出しておられるからではないのですか?』
『本気で心配しておられるならアメリア様を養女に出されているはずだろ?』
『レトビア公爵家はメリッサ様かアメリア様が継がなくてはならないのです。メリッサ様が他家に嫁がれるならアメリア様を養子には出せないんです。
お父様は私が死んでも良いのですか? このお話でレトビア公爵家にどんなメリットがあるのかもっとよくお考えになって下さい』
レトビア現公爵には娘しか生まれなかった。長女が結婚して家を出た今、次女のアメリアが後を継ぐ事になる。
『サイラスと私は古くからの友人だから手を差し伸べてくださったんだ。呪いなんて信じてないでもっと建設的な事を考えなさい。
百歩譲って、少しでもおかしな事があったら直ぐに戻って来ればいい』
現実主義者のイーサンは目の前の督促状を手に取りながらセアラに退出を促した。
「私的には悪い魔女説の方かなあ。だって、王家にお皿が12枚しかないなんてあり得ないし、選ばれない13番目になったのは日頃から意地悪ばかりしていたとかの方がお皿が足りないって言うよりしっくりくるわね。
急に童話なんて何かあったの?」
「⋯⋯そう思うわよね。じゃあ紡錘の針で眠りについた荊姫は?」
「その魔女だけを宴に呼ばないって決めたのは王様かお妃様だから、荊姫は単に運が悪かったんじゃないかしら」
「運か⋯⋯だよね。はぁ」
セアラ・ホプキンス伯爵令嬢は手に持ったカップの中を覗き込んだままで、久しぶりに会った友人のイリス・ラーニア子爵令嬢の意見に溜息をついた。
「いつも元気いっぱいのセアラが溜息をつくなんてどうしたの? 幼馴染のイリス様に相談してごらんなさいな」
心ここに在らずといった様子のセアラを心配したイリスは冗談めかして話を促した。
セアラとイリスは共に14歳。旅行から帰ってきた母親のお土産を手にやって来たイリスは、セアラの部屋で二人仲良く紅茶とお土産のお菓子をぱくつく予定だったが妙に元気のないセアラを心配して顔を顰めた。
「貧乏貴族の次女ってやっぱりいらない子なのかしら」
セアラは昨夜の父親との会話を話しはじめた。
『レトビア公爵が資金援助する代わりにお前を養女に欲しいと仰って下さったんだ』
『借金の代わりに私を差し出すと言う事ですか?』
『まあそう言う言い方も⋯⋯。いや、その、セアラには申し訳ないが我が家がもうどうにもならないことは知っているだろ? 今回の話はお前にとっても良いこと尽くめなんだ。
公爵家の令嬢として籍を入れて学園にも通わせてくださるそうなんだ』
『学園に通えるのはとても嬉しいですけれどレトビア公爵家となると⋯⋯。年齢からして次女になるのでしょうか?』
セアラの祖父、先代のホプキンス伯爵は美術品や骨董品の蒐集家だった。そのお陰で伯爵家の財政が傾いても『必要になれば売れば良い』と言い続けて蒐集をやめず亡くなった。
祖父亡き後調べてみると蒐集品の殆どが贋物だった所為で借金の返済に追われるホプキンス伯爵家では来年度から入学予定のセアラの学費が払える見込みがたっていない。
『いや、長女のメリッサ様は近々侯爵家へ輿入れされることが決まったんだ。だから扱いは長女という事になるそうだ』
『⋯⋯つまり、お父様は私を【呪われしレトビアの長女】になさるおつもりですの?』
『あんなものは迷信に決まってる。今時魔女の呪いだなんて有り得ないよ』
『では何故養女が必要なのでしょうか? メリッサ様が嫁がれた後、妹のアメリア様が長女の立ち位置になられるのを嫌がっておられるから養女が必要なのではありませんか?』
『そんなわけないさ。それにメリッサ様はご結婚された後もレトビア公爵家の長女である事は変わらないんだから』
(お父様はご存じないんだわ)
レトビア公爵家の呪いはこの国の建国時に遡る。サルドニア帝国からの独立を目指した戦いの最中、当時は侯爵だったレトビア家の嫡男を筆頭にした一団が前線近くに建つイーバリス神殿の宝物庫を奇襲した。抵抗する神官や聖女を皆殺しにして全ての宝物を盗み出し、その収益を現在の王家に差し出した事で戦況は一変し独立を果たしたと言われている。
その功を讃え公爵に陞爵したレトビア家だったが独立記念の宴の夜、黒いベールを着た戦乙女ディースがレトビア公爵の前に現れた。
“未来永劫レトビア家の長女は18の歳に、紡錘の針で命を落とすであろう”
殺された聖女の代わりに連れ去るのではないかと言われ、紡錘の針と言う文言から、
【レトビアの荊姫】
【呪われしレトビアの長女】
と呼ばれるようになった。
崩壊した神殿には今でも夜な夜な殺された神官や聖女が現れ、失われた宝物を探している姿が見受けられると言われている。
『紡錘の針だなんて御伽噺そのままじゃないか。馬鹿馬鹿しい。そんなことを心配する必要なんかないよ』
『錘は神々の貢物としてもささげられるほど神聖なものだと言われていますわ。呪いのアイテムとしては最適だって』
『あれはレトビア公爵家へのやっかみだって。あんまり気持ちのいい話じゃないのはわかるが、心配しなくても大丈夫だよ。実際に亡くなった方はおられないと仰っておられたしね』
『それは、レトビア公爵家では女の子が誕生すると18歳になるまでに結婚させるか養女に出しておられるからではないのですか?』
『本気で心配しておられるならアメリア様を養女に出されているはずだろ?』
『レトビア公爵家はメリッサ様かアメリア様が継がなくてはならないのです。メリッサ様が他家に嫁がれるならアメリア様を養子には出せないんです。
お父様は私が死んでも良いのですか? このお話でレトビア公爵家にどんなメリットがあるのかもっとよくお考えになって下さい』
レトビア現公爵には娘しか生まれなかった。長女が結婚して家を出た今、次女のアメリアが後を継ぐ事になる。
『サイラスと私は古くからの友人だから手を差し伸べてくださったんだ。呪いなんて信じてないでもっと建設的な事を考えなさい。
百歩譲って、少しでもおかしな事があったら直ぐに戻って来ればいい』
現実主義者のイーサンは目の前の督促状を手に取りながらセアラに退出を促した。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした
きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。
全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。
その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。
失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。
倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。
でも、ヒロイン(転生者)がひどい!
彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉
シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり!
私は私の望むままに生きます!!
本編+番外編3作で、40000文字くらいです。
⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
婚約破棄された悪役令嬢、実は最強聖女でした〜辺境で拾った彼に一途に愛され、元婚約者が泣きついてきてももう遅い〜
usako
恋愛
王太子の婚約者でありながら「悪女」と呼ばれ婚約破棄された公爵令嬢リディア。
国外追放されたその日、命を救ってくれたのは無骨な騎士ルークだった。
彼に導かれた辺境の地で、本来の力――“聖女”としての奇跡が目覚める。
新たな人生を歩み始めた矢先、かつて自分を貶めた王太子が後悔とともに現れるが……。
もう遅い。彼女は真の愛を知ってしまったから――。
ざまぁと溺愛が交錯する、爽快逆転ラブファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる