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3.王都への道
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お礼を言って歩き出したセアラは爽やかで温かみの感じられる香りが風に運ばれてくる花畑に向かった。馬車道からなだらかな坂になっていたのでこれほど広い花畑だと思っていなかったセアラの目の前には辺りを覆い尽くすほどの薄紫のラベンダーが春の日差しに煌めいていた。
見たこともない程広大な花畑と遠くに連なる山のコントラストにセアラは今までいた世界はとても狭かったのだと気付かされた。
(悩んで怯えてばかりではいられないわ。これまで見たことのない世界は一杯あるんだもの。その中にはきっと⋯⋯)
ここまで来れば王都には後2日で着くという。
生まれて初めての野宿や馬車の旅で不安一杯だったセアラだが姉御肌で気さくなジニーやリドリー達のお陰でとても順調にここまで来れた。
『女と見りゃちょっかい出してくる奴もいるからね、今回の護衛や商団の奴らがどんな奴かわかるまであたしのそばから離れちゃダメだよ』
怖い思いも嫌な思いもなかったが初めての体験と馬車の乗り心地の悪さと将来への不安で心も身体もいっぱいだったセアラは花畑を見ながら漸くこれから先を考えられるようになった。
(レトビア公爵家か⋯⋯。何が待ってるのか分からないし今までは良い印象がないけど私に利用価値があるのなら真面な対応をしてくださるかしら。そうであればいいんだけど⋯⋯)
レトビア公爵には祖父の葬儀の時を含めて何度か会ったことがあるセアラはレトビア公爵の顔を思い出して顔を顰めた。
田舎暮らしのセアラは貴族自体ほんの数人しか会ったことがないがその中でもレトビア公爵が一番の苦手だった。国の中枢にいる高位貴族だからなのか建国の立役者だと尊敬を集めている家系だからなのか、慇懃無礼な態度で常にこちらを値踏みしているような視線が嫌で極力会わないようにしていた。
(いずれ養女にする為にって狙っておられたのかも。でなければ殆ど関わりがないはずの田舎の貧乏貴族家に態々お越しになるのが不思議だったもの)
その後順調に旅を続けた一行は王都へと辿り着き、王都の入り口でジニー達や護衛と別れガーダル商会の荷馬車に乗り移った。ジニーは『暫くは王都にいる』と言いながら夫の商会の住所を書いたメモをセアラに手渡してくれ、他の旅の仲間達も『またな』と言いながら手を振ってくれた。
セアラの乗った荷馬車がガタゴトと動きはじめ幌の隙間から町並みを覗いていたセアラは大勢の人や馬車が行き交う様に目を丸くした。
舗装された石畳を悠々と歩く女性達は洒落た日傘と籐の籠を持ち、帽子をかぶりステッキを持った男性達がせかせかと先を急ぐように歩いている。道を横切る人に慌てた辻馬車が警笛を鳴らし、野良犬を追い払う怒鳴り声が聞こえた。小綺麗な服装の人達の間を薄汚れた子供が走り抜け花籠を抱えた女の子が転びかけたのが見えた。
ホプキンス領では見たことのない3階や4階建ての建物の1階には様々な店が並び満面の笑みを浮かべた店員が呼び込みの声をかけている。
(こんなに沢山の人初めて見たわ。人の多さはホプキンス領のお祭りの時みたいだけどこんなに洒落た服装の人はいないわね。それにしてもさっきの子供は随分と汚れた格好だった)
セアラが今いるのは王都の平民街の大通り。ホプキンス領では見かけない裕福そうで着飾った人達と花売りの少女や走り抜けた少年のような貧しそうな身なりの子達がごく当たり前のように暮らしている事にセアラは違和感を感じずにいられなかった。
(貧富の差はどこにでもあるけどやっぱり王都だとスラムとかって本当にあるのかも)
セアラの乗った荷馬車が大通りを進んだ公園近くで停まった。荷物を持ってセアラが馬車を降りるとリドリーが少し寂しげな顔でセアラを見下ろした。
「王都に着いたら宿屋に一泊して身支度を整えてからレトビア公爵家を訪ねるって聞いてますんで。手続きとか手伝いますよ」
「ありがとう。宿に泊まるのは初めてだから助かるわ」
荷物を抱えたリドリーと一緒にセアラは宿の手続きを済ませて2階の部屋に上がった。ベッドと椅子が一つあるきりの狭い部屋だがきちんと掃除がされているのを見てセアラはほっと息をついた。
「まあ、部屋は狭いけど知り合いがやってる宿なんで安心だと思います。さっき声をかけておいたから湯を持ってきてくれるはずだし」
「清潔だし一晩だけだもの十分だわ。ここまでありがとうございました。リドリーさん達のおかげで無事に王都につけたわ」
リドリーはレトビアの呪いの事も今回の王都行きの理由も知っているらしく旅の間中セアラに何か言いたげな顔をしていた。
「あの、もしもだけど⋯⋯その、もしもなんか困ったことがあったらいつでもうちに声をかけて下さいよ。俺がいなくてもわかるように店のやつにもこの宿の奴にも言っとくんで。セアラさんは俺んちの⋯⋯その⋯⋯いや、何も問題なんて起こらねえとは思うけど」
後ろ髪を引かれながら帰って行ったリドリーと入れ違いにお湯が運び込まれセアラは久しぶりにゆっくりと風呂に入った。ジニーがくれた石鹸で身体と頭を洗い終わる頃には旅の疲れから眠くなってきたが、宿の使用人が届けてくれたレトビア公爵家からの手紙を見てすっかり目が覚めてしまった。
見たこともない程広大な花畑と遠くに連なる山のコントラストにセアラは今までいた世界はとても狭かったのだと気付かされた。
(悩んで怯えてばかりではいられないわ。これまで見たことのない世界は一杯あるんだもの。その中にはきっと⋯⋯)
ここまで来れば王都には後2日で着くという。
生まれて初めての野宿や馬車の旅で不安一杯だったセアラだが姉御肌で気さくなジニーやリドリー達のお陰でとても順調にここまで来れた。
『女と見りゃちょっかい出してくる奴もいるからね、今回の護衛や商団の奴らがどんな奴かわかるまであたしのそばから離れちゃダメだよ』
怖い思いも嫌な思いもなかったが初めての体験と馬車の乗り心地の悪さと将来への不安で心も身体もいっぱいだったセアラは花畑を見ながら漸くこれから先を考えられるようになった。
(レトビア公爵家か⋯⋯。何が待ってるのか分からないし今までは良い印象がないけど私に利用価値があるのなら真面な対応をしてくださるかしら。そうであればいいんだけど⋯⋯)
レトビア公爵には祖父の葬儀の時を含めて何度か会ったことがあるセアラはレトビア公爵の顔を思い出して顔を顰めた。
田舎暮らしのセアラは貴族自体ほんの数人しか会ったことがないがその中でもレトビア公爵が一番の苦手だった。国の中枢にいる高位貴族だからなのか建国の立役者だと尊敬を集めている家系だからなのか、慇懃無礼な態度で常にこちらを値踏みしているような視線が嫌で極力会わないようにしていた。
(いずれ養女にする為にって狙っておられたのかも。でなければ殆ど関わりがないはずの田舎の貧乏貴族家に態々お越しになるのが不思議だったもの)
その後順調に旅を続けた一行は王都へと辿り着き、王都の入り口でジニー達や護衛と別れガーダル商会の荷馬車に乗り移った。ジニーは『暫くは王都にいる』と言いながら夫の商会の住所を書いたメモをセアラに手渡してくれ、他の旅の仲間達も『またな』と言いながら手を振ってくれた。
セアラの乗った荷馬車がガタゴトと動きはじめ幌の隙間から町並みを覗いていたセアラは大勢の人や馬車が行き交う様に目を丸くした。
舗装された石畳を悠々と歩く女性達は洒落た日傘と籐の籠を持ち、帽子をかぶりステッキを持った男性達がせかせかと先を急ぐように歩いている。道を横切る人に慌てた辻馬車が警笛を鳴らし、野良犬を追い払う怒鳴り声が聞こえた。小綺麗な服装の人達の間を薄汚れた子供が走り抜け花籠を抱えた女の子が転びかけたのが見えた。
ホプキンス領では見たことのない3階や4階建ての建物の1階には様々な店が並び満面の笑みを浮かべた店員が呼び込みの声をかけている。
(こんなに沢山の人初めて見たわ。人の多さはホプキンス領のお祭りの時みたいだけどこんなに洒落た服装の人はいないわね。それにしてもさっきの子供は随分と汚れた格好だった)
セアラが今いるのは王都の平民街の大通り。ホプキンス領では見かけない裕福そうで着飾った人達と花売りの少女や走り抜けた少年のような貧しそうな身なりの子達がごく当たり前のように暮らしている事にセアラは違和感を感じずにいられなかった。
(貧富の差はどこにでもあるけどやっぱり王都だとスラムとかって本当にあるのかも)
セアラの乗った荷馬車が大通りを進んだ公園近くで停まった。荷物を持ってセアラが馬車を降りるとリドリーが少し寂しげな顔でセアラを見下ろした。
「王都に着いたら宿屋に一泊して身支度を整えてからレトビア公爵家を訪ねるって聞いてますんで。手続きとか手伝いますよ」
「ありがとう。宿に泊まるのは初めてだから助かるわ」
荷物を抱えたリドリーと一緒にセアラは宿の手続きを済ませて2階の部屋に上がった。ベッドと椅子が一つあるきりの狭い部屋だがきちんと掃除がされているのを見てセアラはほっと息をついた。
「まあ、部屋は狭いけど知り合いがやってる宿なんで安心だと思います。さっき声をかけておいたから湯を持ってきてくれるはずだし」
「清潔だし一晩だけだもの十分だわ。ここまでありがとうございました。リドリーさん達のおかげで無事に王都につけたわ」
リドリーはレトビアの呪いの事も今回の王都行きの理由も知っているらしく旅の間中セアラに何か言いたげな顔をしていた。
「あの、もしもだけど⋯⋯その、もしもなんか困ったことがあったらいつでもうちに声をかけて下さいよ。俺がいなくてもわかるように店のやつにもこの宿の奴にも言っとくんで。セアラさんは俺んちの⋯⋯その⋯⋯いや、何も問題なんて起こらねえとは思うけど」
後ろ髪を引かれながら帰って行ったリドリーと入れ違いにお湯が運び込まれセアラは久しぶりにゆっくりと風呂に入った。ジニーがくれた石鹸で身体と頭を洗い終わる頃には旅の疲れから眠くなってきたが、宿の使用人が届けてくれたレトビア公爵家からの手紙を見てすっかり目が覚めてしまった。
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