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アンヴィル
4.耐えるマーサ
「信じられません。こんな・・顔と手を洗ったらおしまいじゃないですか。
お嬢様、今からでも隣町まで引き返しましょう。
セオ、馬車の準備をして下さいな」
「マーサ、お風呂に入れないのは困るけど、隣町に行ったら明日領主様のとこに間に合わなくなっちゃうわ」
「朝暗いうちに宿を立てば間に合いますとも。
全くお湯もなしで、どうやって生活してるのか信じられません」
「その問題を解決して、明日は指の皮がふやけるくらいたっぷりと湯浴みしましょうね」
「そんな、明日だなんて。
汚れて死んでしまいますよ。
肌は息をしてるんですからね、お湯と石鹸で綺麗にしないと」
予想通り、マーサが真っ青になっている。
料理上手で気配りも完璧な侍女の唯一? 唯二の欠点が、コーヒーが滅茶苦茶不味い事と、超絶綺麗好きな事。
ほんの僅かな汚れでも耐えられないらしい。
「マーサ、今回の旅ではこれからも色んなことがあると思うの。少しずつ慣れていこうねって言うのはどうかしら?」
マーサが眉を顰めてリディアを見た。
「この先もこんな事が?」
「うーん。分かんないけど、色々あると思うわ。ねえ、セオ?」
「そこで、俺に振るんですか?
はあ、まあ色々可能性はあると思いますよ。
何しろリディア様は、ロレンヌ川に沿って港町を渡り歩くおつもりですから」
ガックリと肩を落としたマーサ。
翌日、顔を洗いすっきり爽快のリディアの横で、青い顔のマーサがブツブツと呪文を唱えている。
「大丈夫、綺麗だから。一日位大丈夫・・」
セオが、朝食の準備が出来たと呼びに来た。マーサの顔色に気付いて目線を逸らした。
「さて、行きましょうか。戦いの前の腹ごしらえよ」
気分を盛り上げようとするリディアに、
「戦いの前は身嗜みが肝心かと」
と、ぶつぶつ呟いている。
「マーサ、大丈夫?」
「えっ? ええ、大丈夫ですよ。
この町の皆さんも頑張ってらっしゃるのですから、この位でへこたれてる訳には参りません」
青い顔で自分に言い聞かせている。
「「頑張れ! マーサ」」
リディアとセオは、心の底からマーサにエールを送った。
ジョンバーグ伯爵のマナーハウスは、蔦に覆われた迫力ある佇まいだった。
築百年以上は経っていそうだ。
「ようこそおいで下さいました。こちらへどうぞ」
執事に案内されたのは、ホールの奥に設置されたダイスと呼ばれる場所。
ダイスとは、ホールより一段高くなっていて領主と騎士達が一緒に食事できる大きなテーブルと複数の椅子が置かれている場所のこと。
領主の席の後ろには、暖炉がしつらえてあった。
リディアが古めかしい椅子の一つに腰掛けると、ギシギシと音がする。
慌てて腰を浮かせかけた。
ホールに敷かれた年代物らしき絨毯の端が綻び、壁際に飾られている壺がくすんでいる。
(暖炉の上の絵画、ティツィアーノじゃないかしら)
「ようこそおいで下さいました。ポーレット伯爵令嬢」
「初めまして、リディアとお呼びください。
突然お邪魔して申し訳ありません」
「来客は珍しいので少しびっくりしましたが、どう言ったご用件でしょうか?」
「ジョンバーグ伯爵様に、色々お願いがあり参りましたの」
「ほう、私は農業の事以外からっきしでして」
リディアが、にっこり笑う。
「湯浴みさせて頂けませんかしら?」
お嬢様、今からでも隣町まで引き返しましょう。
セオ、馬車の準備をして下さいな」
「マーサ、お風呂に入れないのは困るけど、隣町に行ったら明日領主様のとこに間に合わなくなっちゃうわ」
「朝暗いうちに宿を立てば間に合いますとも。
全くお湯もなしで、どうやって生活してるのか信じられません」
「その問題を解決して、明日は指の皮がふやけるくらいたっぷりと湯浴みしましょうね」
「そんな、明日だなんて。
汚れて死んでしまいますよ。
肌は息をしてるんですからね、お湯と石鹸で綺麗にしないと」
予想通り、マーサが真っ青になっている。
料理上手で気配りも完璧な侍女の唯一? 唯二の欠点が、コーヒーが滅茶苦茶不味い事と、超絶綺麗好きな事。
ほんの僅かな汚れでも耐えられないらしい。
「マーサ、今回の旅ではこれからも色んなことがあると思うの。少しずつ慣れていこうねって言うのはどうかしら?」
マーサが眉を顰めてリディアを見た。
「この先もこんな事が?」
「うーん。分かんないけど、色々あると思うわ。ねえ、セオ?」
「そこで、俺に振るんですか?
はあ、まあ色々可能性はあると思いますよ。
何しろリディア様は、ロレンヌ川に沿って港町を渡り歩くおつもりですから」
ガックリと肩を落としたマーサ。
翌日、顔を洗いすっきり爽快のリディアの横で、青い顔のマーサがブツブツと呪文を唱えている。
「大丈夫、綺麗だから。一日位大丈夫・・」
セオが、朝食の準備が出来たと呼びに来た。マーサの顔色に気付いて目線を逸らした。
「さて、行きましょうか。戦いの前の腹ごしらえよ」
気分を盛り上げようとするリディアに、
「戦いの前は身嗜みが肝心かと」
と、ぶつぶつ呟いている。
「マーサ、大丈夫?」
「えっ? ええ、大丈夫ですよ。
この町の皆さんも頑張ってらっしゃるのですから、この位でへこたれてる訳には参りません」
青い顔で自分に言い聞かせている。
「「頑張れ! マーサ」」
リディアとセオは、心の底からマーサにエールを送った。
ジョンバーグ伯爵のマナーハウスは、蔦に覆われた迫力ある佇まいだった。
築百年以上は経っていそうだ。
「ようこそおいで下さいました。こちらへどうぞ」
執事に案内されたのは、ホールの奥に設置されたダイスと呼ばれる場所。
ダイスとは、ホールより一段高くなっていて領主と騎士達が一緒に食事できる大きなテーブルと複数の椅子が置かれている場所のこと。
領主の席の後ろには、暖炉がしつらえてあった。
リディアが古めかしい椅子の一つに腰掛けると、ギシギシと音がする。
慌てて腰を浮かせかけた。
ホールに敷かれた年代物らしき絨毯の端が綻び、壁際に飾られている壺がくすんでいる。
(暖炉の上の絵画、ティツィアーノじゃないかしら)
「ようこそおいで下さいました。ポーレット伯爵令嬢」
「初めまして、リディアとお呼びください。
突然お邪魔して申し訳ありません」
「来客は珍しいので少しびっくりしましたが、どう言ったご用件でしょうか?」
「ジョンバーグ伯爵様に、色々お願いがあり参りましたの」
「ほう、私は農業の事以外からっきしでして」
リディアが、にっこり笑う。
「湯浴みさせて頂けませんかしら?」
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