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私室
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七月
ーーーーーー
ギータを伴い私室に戻ったウィルソンはギータにソファをすすめた。
「話したい事って?」
「まず、さっき話してた鍵の件だ。今日盗まれたんだったら侵入経路がわからん。前もって鍵を持っていたとしたら、入手方法が分からん」
ウィルソンは部屋をうろつき、暖炉の上の置物を手に取った。
「壁をよじ登った形跡は?」
「調べた、異常なしだ」
「デイビッドが・・いやそれはないか。備品室にスペアキーがある事を知ってる誰かが手引きした?」
ウィルソンがギータを見る。
「俺もそう思う。誰かが鍵を盗んで犯人に渡し、それを使って侵入逃走した」
「くそ、使用人の誰かが犯人と繋がってるって事か。家政婦長に聞いてくれ。スペアキーをいつ備品室に移動したのか、その事を知ってた奴は誰と誰なのか」
「もう一つわからん事がある。なぜ奴は此処に忍び込んだ? アイラ様が狙いだとしたら、俺ならアイラ様が外に出てくるのを待つ。忍び込むのは危険がでかすぎる」
ギータの言葉に、
「確かにそうだが、実際奴はここに忍び込んで」
「ウィルソン、落ち着いて考えてみろ。俺達は大きな勘違いをしかけてるんじゃないか? 大旦那様達の事はともかく、デイビッド様がアイラ様を殺しても意味がない。遺言状に書いてない限り、デイビッド様には何も手に入らないんだ。今までの状況からして、アイラ様がデイビッド様に何かを遺すとは思えん。逆にアイラ様が生きていれば、今まで通り好き勝手出来る。その方がデイビッド様にとっては都合がいい。お前の頭の中はアイラ様で一杯になってる、冷静になってよく考えろ」
アイラの怪我で動揺していたウィルソンは、ギータの一喝で目が覚めた。
その通りだ。アイラ様に何かあれば、爵位も領地も全て遠戚の誰かが受け継ぐだろう。もしくは王家に返上か。そうなればデイビッドは手ぶらで放り出される。
デイビッドがやるとしたらなんだ? 子供みたいな奴のことだ、せいぜい嫌がらせとか八つ当たり位か。だからと言ってその為だけに、態々屋敷に忍び込ませるのは、リスクが高すぎる。
ウィルソンは手の中の置物を暖炉の上に戻し、大きく息を吐き出した。
「あの時不思議に思ったんだ。犯人はわざわざアイラ様をベッドに寝かせた。ドレスの裾が整えられていたし、両手も胸の下で組んであった」
「ウィルソン。漸く頭が働き出したようだな」
「すまないギータ、俺たちは今大旦那様の一件を調べてる。そこに今回のアイラ様の怪我で、すっかり勘違いしていた。タイミングからいって今回の犯人は、大旦那様達の事件に関わってる奴としか思えないが、狙いは多分アイラ様じゃない。・・アイラ様は運悪く犯人に遭遇しただけかも」
ウィルソンは空になった両手を見つめながら考え続けた。
調査報告は相変わらずで、これと言った情報は何も出て来ていない。今気になっているのは、ホットスパーの行商人とバイオレットから聞いたと言う下働きの男だ。リューベックの調査はまだはじめたばかりだし、そこに何かあるとしても、今回のこれとの関連が想像できない。
ウィルソンが漸く口を開いた。
「それぞれ別々に考えたらどうだろう」
「どういう意味だ?」
「大旦那様の件と今回の事を、別々に考えるんだ。つまり主導権を握ってる奴が別だとしたら?」
「詳しく話してくれ」
ギータが体を乗り出してきた。
「大旦那様の件はデイビッドが主犯で、爵位と財産狙い。誰かを使ってやらせた事は間違いない。そいつは頭のおかしい奴で、犯罪慣れしてる。デイビッドは計画を立てて準備するような頭は持っちゃいないから、計画と実行の殆どをそいつがやったんだと思う。
もしそいつが途中から、別の思惑で動き出したとしたら辻褄が合う。今回の件はそいつが勝手にやらかした。危険を冒して侵入してるくせに、時間を無駄にしてまでアイラ様をベッドに寝かせた。普通じゃ考えられない」
「つまりデイビッド様に雇われてたはずの奴が、別の目的で侵入したって事か?」
「ああ、それが1つ目の可能性。2つ目の可能性は、元々別の思惑があってデイビッドを手伝ったか。デイビッドの味方のふりをして大旦那様の事件を起こして、それをネタにデイビッドを手駒として利用する。デイビッドは小心者だから、煽てたり脅したりすれば簡単に利用できると思う」
「これからどうする?」
ウィルソンは大きく溜息をついた。
「今まで通りだな。リューベックで奴に繋がる情報が出て来れば、先に進めるかもしれないが。デイビッドとウォルターに接触した奴を調べる、今はそれぐらいしか出来る事がない。後は、これから先のデイビッドの行動を、もっとしっかり見張るしかない。あいつが一番ボロを出しやすい」
その後、ギータは家政婦長のメアリー・アンに話を聞きに行った。
スペアキーを備品室に移動したのは、アイラが王立学院に入学して1年ほど経った頃だった。
大旦那様達が王都に滞在していた時、偶々食品貯蔵庫の鍵が壊れた。当時スペアキーは執務室の金庫に入れてあり、誰も取り出す事ができなかった。仕方なく貯蔵庫の鍵を壊し事なきを得たが、それ以降スペアキーは備品室の金庫に移された。
家政婦長の話では、料理長やメイド長他屋敷内の多くの者達が知っていた可能性があるとの事だった。
誰が鍵を持ち出したのか、結局分からずじまいだった。
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ギータを伴い私室に戻ったウィルソンはギータにソファをすすめた。
「話したい事って?」
「まず、さっき話してた鍵の件だ。今日盗まれたんだったら侵入経路がわからん。前もって鍵を持っていたとしたら、入手方法が分からん」
ウィルソンは部屋をうろつき、暖炉の上の置物を手に取った。
「壁をよじ登った形跡は?」
「調べた、異常なしだ」
「デイビッドが・・いやそれはないか。備品室にスペアキーがある事を知ってる誰かが手引きした?」
ウィルソンがギータを見る。
「俺もそう思う。誰かが鍵を盗んで犯人に渡し、それを使って侵入逃走した」
「くそ、使用人の誰かが犯人と繋がってるって事か。家政婦長に聞いてくれ。スペアキーをいつ備品室に移動したのか、その事を知ってた奴は誰と誰なのか」
「もう一つわからん事がある。なぜ奴は此処に忍び込んだ? アイラ様が狙いだとしたら、俺ならアイラ様が外に出てくるのを待つ。忍び込むのは危険がでかすぎる」
ギータの言葉に、
「確かにそうだが、実際奴はここに忍び込んで」
「ウィルソン、落ち着いて考えてみろ。俺達は大きな勘違いをしかけてるんじゃないか? 大旦那様達の事はともかく、デイビッド様がアイラ様を殺しても意味がない。遺言状に書いてない限り、デイビッド様には何も手に入らないんだ。今までの状況からして、アイラ様がデイビッド様に何かを遺すとは思えん。逆にアイラ様が生きていれば、今まで通り好き勝手出来る。その方がデイビッド様にとっては都合がいい。お前の頭の中はアイラ様で一杯になってる、冷静になってよく考えろ」
アイラの怪我で動揺していたウィルソンは、ギータの一喝で目が覚めた。
その通りだ。アイラ様に何かあれば、爵位も領地も全て遠戚の誰かが受け継ぐだろう。もしくは王家に返上か。そうなればデイビッドは手ぶらで放り出される。
デイビッドがやるとしたらなんだ? 子供みたいな奴のことだ、せいぜい嫌がらせとか八つ当たり位か。だからと言ってその為だけに、態々屋敷に忍び込ませるのは、リスクが高すぎる。
ウィルソンは手の中の置物を暖炉の上に戻し、大きく息を吐き出した。
「あの時不思議に思ったんだ。犯人はわざわざアイラ様をベッドに寝かせた。ドレスの裾が整えられていたし、両手も胸の下で組んであった」
「ウィルソン。漸く頭が働き出したようだな」
「すまないギータ、俺たちは今大旦那様の一件を調べてる。そこに今回のアイラ様の怪我で、すっかり勘違いしていた。タイミングからいって今回の犯人は、大旦那様達の事件に関わってる奴としか思えないが、狙いは多分アイラ様じゃない。・・アイラ様は運悪く犯人に遭遇しただけかも」
ウィルソンは空になった両手を見つめながら考え続けた。
調査報告は相変わらずで、これと言った情報は何も出て来ていない。今気になっているのは、ホットスパーの行商人とバイオレットから聞いたと言う下働きの男だ。リューベックの調査はまだはじめたばかりだし、そこに何かあるとしても、今回のこれとの関連が想像できない。
ウィルソンが漸く口を開いた。
「それぞれ別々に考えたらどうだろう」
「どういう意味だ?」
「大旦那様の件と今回の事を、別々に考えるんだ。つまり主導権を握ってる奴が別だとしたら?」
「詳しく話してくれ」
ギータが体を乗り出してきた。
「大旦那様の件はデイビッドが主犯で、爵位と財産狙い。誰かを使ってやらせた事は間違いない。そいつは頭のおかしい奴で、犯罪慣れしてる。デイビッドは計画を立てて準備するような頭は持っちゃいないから、計画と実行の殆どをそいつがやったんだと思う。
もしそいつが途中から、別の思惑で動き出したとしたら辻褄が合う。今回の件はそいつが勝手にやらかした。危険を冒して侵入してるくせに、時間を無駄にしてまでアイラ様をベッドに寝かせた。普通じゃ考えられない」
「つまりデイビッド様に雇われてたはずの奴が、別の目的で侵入したって事か?」
「ああ、それが1つ目の可能性。2つ目の可能性は、元々別の思惑があってデイビッドを手伝ったか。デイビッドの味方のふりをして大旦那様の事件を起こして、それをネタにデイビッドを手駒として利用する。デイビッドは小心者だから、煽てたり脅したりすれば簡単に利用できると思う」
「これからどうする?」
ウィルソンは大きく溜息をついた。
「今まで通りだな。リューベックで奴に繋がる情報が出て来れば、先に進めるかもしれないが。デイビッドとウォルターに接触した奴を調べる、今はそれぐらいしか出来る事がない。後は、これから先のデイビッドの行動を、もっとしっかり見張るしかない。あいつが一番ボロを出しやすい」
その後、ギータは家政婦長のメアリー・アンに話を聞きに行った。
スペアキーを備品室に移動したのは、アイラが王立学院に入学して1年ほど経った頃だった。
大旦那様達が王都に滞在していた時、偶々食品貯蔵庫の鍵が壊れた。当時スペアキーは執務室の金庫に入れてあり、誰も取り出す事ができなかった。仕方なく貯蔵庫の鍵を壊し事なきを得たが、それ以降スペアキーは備品室の金庫に移された。
家政婦長の話では、料理長やメイド長他屋敷内の多くの者達が知っていた可能性があるとの事だった。
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