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一回目 (過去)
20.ゴミ虫退治
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「それから、あの⋯⋯」
とんでもない願いだと自覚しているローザリアは口籠もり話を横道に逸らしてしまった。
「そっ、その前にナスタリア神父様の質問に答えさせて下さい⋯⋯あの日は初めて部屋を出ました。メイドがお茶を持ってきてデイドレスを貸してくれて応接室に行くように言われました。ナスタリア神父様にお会いしてソファに座って。全部初めてのことで間違いなくオドオドしていたと思います」
「その割にはとても丁寧なカーテシーをして下さいました」
「毒を飲まされたのもあの日が初めてでした」
「やはり。毒の症状はよく知っているつもりだったのに、あの時気付けずに申し訳ありませんでした」
「オーレアンの後と言うか王宮から帰ってから公爵夫妻とリリアーナ様から暴行を受け⋯⋯漸く動けるようになったのでここに来ました」
「使用人の誰か世話をしてくれる人がいるんですね。その方は信用できるのですか?」
「使用人は誰も。みんな公爵様達と考えとかやる事とか一緒ですから。精霊達が世話をしてくれました」
「は?」
ポカンと口を開けて間抜けな顔を晒したナスタリア神父。
(今日だけでも神父様のいろんな顔を見た気がする。この人ってこんなに表情豊かなんだ)
「水や果物、木の実やパンを持ってきてくれました。怪我も精霊が癒してくれたのであの時の傷や怪我は全部治りました。
長い間意識がなかったので初めの頃にしてくれた事は詳しくはわかっていないけれど、背中の血も止まっていましたし⋯⋯腕や脚も動くようになっていました」
「精霊が自ら⋯⋯そのような話は、初めて聞きました。詳しくお聞きしたいので邪魔なゴミむ⋯⋯お待ちの方に帰って頂きましょう」
少々お待ち下さいと言いながらナスタリア神父は部屋を駆け出して行った。
(邪魔って言ってたし、ゴミ虫って言いかけてた。ふふっ)
随分長くかかっているのでみんな色々と抗議しているのだろう。喉が渇いたなと思いながら部屋を見回して精霊王の像に目を留めた。暇を持て余していたローザリアは立ち上がり近くに行ってみた。
着色されていない像はつるんとした石で出来ていて、長い髪を垂らしゆったりと流れるようなローブの足のつま先だけが覗いている。
(裸足かサンダル?)
装飾は腰に斜め掛けした太い帯のようなものだけでその表情は口もとに微笑を浮かべたアルカイックスマイル。
(この表情⋯⋯ナスタリア神父様に似てる。毎日見てると似てくるのかな。それと、どこかでよく似た人を見かけたような⋯⋯)
涼やかな目元とスッと通った鼻筋、シャープな頬のラインも相まってとても美しい顔立ちをしている。
(精霊王様ってこんな感じの方なのかしら? それともウンディーネ達みたいな光の玉?)
トントンとノックの音が聞こえナスタリア神父の声がした後ドアが開いた。
「お待たせして申し訳ありませんでした。全くしつこ⋯⋯紅茶をお持ちしましたがいかがでしょうか」
「ありがとうございます」
白地に花模様の可愛らしいカップから漂う香りにホッと心が和んでいった。
紅茶と一緒に勧められたお菓子に手を伸ばした。
「紅茶もお菓子も(初めてで)⋯⋯凄く美味しいです」
食べながらで構いませんからと言いつつナスタリア神父が話をはじめた。
「もしかしてオーレアンでのあの奇跡も精霊から?」
「はい、精霊達が良いよって言って助けてくれました。初めのうちは『みんなの加護の力は弱まっているから水は出ない』って言っていて、それでお願いしました」
「⋯⋯あの、ローザリア様は精霊と話ができると言うことですか?」
「はい」
ナスタリア神父はローザリアの話に頭を抱えた。オーレアンの一件でさえ規格外過ぎると思っていたがそれどころではない。
「このままではローザリア様は王家に食い物にされる未来しかないです。先ずオーレアンでの件自体規格外の事だとご存知ですか?」
「はい、殆どの人は精霊の光を初めて見たそうですし、精霊師の人達もあれほど沢山の精霊は見た事がないと言ってました。
皆さん虹色や金色や緑でとても綺麗だと感動しておられました」
「そうです、普通は滅多に見えません。特に加護のない人には決して見えないんです。しかも自分の目の前以外の溜池にまで水を貯めるなんて誰にもできないんです」
「サービスって言ってました」
グフっと怪しい音を鳴らして咳き込んだナスタリア神父は慌ててカップを置いて口元をハンカチで覆った。赤い顔で居住まいを正したナスタリア神父はゴホンと咳払いをしてから説教をするかのような真面目な態度で話しはじめた。
とんでもない願いだと自覚しているローザリアは口籠もり話を横道に逸らしてしまった。
「そっ、その前にナスタリア神父様の質問に答えさせて下さい⋯⋯あの日は初めて部屋を出ました。メイドがお茶を持ってきてデイドレスを貸してくれて応接室に行くように言われました。ナスタリア神父様にお会いしてソファに座って。全部初めてのことで間違いなくオドオドしていたと思います」
「その割にはとても丁寧なカーテシーをして下さいました」
「毒を飲まされたのもあの日が初めてでした」
「やはり。毒の症状はよく知っているつもりだったのに、あの時気付けずに申し訳ありませんでした」
「オーレアンの後と言うか王宮から帰ってから公爵夫妻とリリアーナ様から暴行を受け⋯⋯漸く動けるようになったのでここに来ました」
「使用人の誰か世話をしてくれる人がいるんですね。その方は信用できるのですか?」
「使用人は誰も。みんな公爵様達と考えとかやる事とか一緒ですから。精霊達が世話をしてくれました」
「は?」
ポカンと口を開けて間抜けな顔を晒したナスタリア神父。
(今日だけでも神父様のいろんな顔を見た気がする。この人ってこんなに表情豊かなんだ)
「水や果物、木の実やパンを持ってきてくれました。怪我も精霊が癒してくれたのであの時の傷や怪我は全部治りました。
長い間意識がなかったので初めの頃にしてくれた事は詳しくはわかっていないけれど、背中の血も止まっていましたし⋯⋯腕や脚も動くようになっていました」
「精霊が自ら⋯⋯そのような話は、初めて聞きました。詳しくお聞きしたいので邪魔なゴミむ⋯⋯お待ちの方に帰って頂きましょう」
少々お待ち下さいと言いながらナスタリア神父は部屋を駆け出して行った。
(邪魔って言ってたし、ゴミ虫って言いかけてた。ふふっ)
随分長くかかっているのでみんな色々と抗議しているのだろう。喉が渇いたなと思いながら部屋を見回して精霊王の像に目を留めた。暇を持て余していたローザリアは立ち上がり近くに行ってみた。
着色されていない像はつるんとした石で出来ていて、長い髪を垂らしゆったりと流れるようなローブの足のつま先だけが覗いている。
(裸足かサンダル?)
装飾は腰に斜め掛けした太い帯のようなものだけでその表情は口もとに微笑を浮かべたアルカイックスマイル。
(この表情⋯⋯ナスタリア神父様に似てる。毎日見てると似てくるのかな。それと、どこかでよく似た人を見かけたような⋯⋯)
涼やかな目元とスッと通った鼻筋、シャープな頬のラインも相まってとても美しい顔立ちをしている。
(精霊王様ってこんな感じの方なのかしら? それともウンディーネ達みたいな光の玉?)
トントンとノックの音が聞こえナスタリア神父の声がした後ドアが開いた。
「お待たせして申し訳ありませんでした。全くしつこ⋯⋯紅茶をお持ちしましたがいかがでしょうか」
「ありがとうございます」
白地に花模様の可愛らしいカップから漂う香りにホッと心が和んでいった。
紅茶と一緒に勧められたお菓子に手を伸ばした。
「紅茶もお菓子も(初めてで)⋯⋯凄く美味しいです」
食べながらで構いませんからと言いつつナスタリア神父が話をはじめた。
「もしかしてオーレアンでのあの奇跡も精霊から?」
「はい、精霊達が良いよって言って助けてくれました。初めのうちは『みんなの加護の力は弱まっているから水は出ない』って言っていて、それでお願いしました」
「⋯⋯あの、ローザリア様は精霊と話ができると言うことですか?」
「はい」
ナスタリア神父はローザリアの話に頭を抱えた。オーレアンの一件でさえ規格外過ぎると思っていたがそれどころではない。
「このままではローザリア様は王家に食い物にされる未来しかないです。先ずオーレアンでの件自体規格外の事だとご存知ですか?」
「はい、殆どの人は精霊の光を初めて見たそうですし、精霊師の人達もあれほど沢山の精霊は見た事がないと言ってました。
皆さん虹色や金色や緑でとても綺麗だと感動しておられました」
「そうです、普通は滅多に見えません。特に加護のない人には決して見えないんです。しかも自分の目の前以外の溜池にまで水を貯めるなんて誰にもできないんです」
「サービスって言ってました」
グフっと怪しい音を鳴らして咳き込んだナスタリア神父は慌ててカップを置いて口元をハンカチで覆った。赤い顔で居住まいを正したナスタリア神父はゴホンと咳払いをしてから説教をするかのような真面目な態度で話しはじめた。
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