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一回目 (過去)
127.結界の中で
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結界の中は緑が溢れ木は大きな実を付けていた。しっとりとした下生えを踏み締めて歩いた先にいたのは白い巨大な生き物。
立ち上がればナザエル枢機卿よりも大きいだろうと思われる巨体は地に伏せ、ふさふさのはずの毛は土や草の汁で汚れている。太い尻尾が地面を叩くたびにローザリアにまで振動が伝わってくる。
真っ赤な目で睨み付け牙を剥き出しにして唸るが動きがどこかぎこちない。
「狼かしら⋯⋯もしかして、怪我をしてる?」
ローザリアの言葉を無視してゆらゆらと立ち上がった狼の後ろには草に覆われた石碑が見えた。
「石碑を護っていたの? そばに行ってもいい?」
ローザリアが身動きすると狼が唸り声を上げた。結界の中には精霊の姿はなく狼は一言も話さない。
「えっと、精霊から助けてって言われてここに来たの。回復魔法を試してもいい?」
唸り声を上げる狼に向けてローザリアが回復魔法を使った。
《 レフェクティオー 》
狼が苦しげな声を上げて倒れ目から血を流し暴れはじめた。
(結界に阻まれてるから精霊の力が弱すぎる⋯⋯なら、雷撃で結界を破壊!!)
《 トニトゥルス、デーストルークティオー 》
強い雷魔法を空に向かって打つとパリンと音がして結界が破れた。
焦ったナザエル枢機卿の声が遠く小さく聞こえ、狼の体から黒い靄が噴き出した。
「浄化を!!」
《 プルガーティオ 》
眩い光が狼に吸い込まれ消えていくが狼の身体は黒い靄で見えず苦しげな咆哮が聞こえてくる。
「ローザリア!! 何だこりゃ」
駆けつけたナザエル枢機卿が唖然としながらも剣を抜いて構えた。
「足りないの! 浄化が効かない!!」
「俺の力も持ってきやがれ!」
ナザエル枢機卿がローザリアの腕を掴み魔力の全てを流し込み、剣を落としてガックリと膝をついた。
ローザリアは狼に杖を向けて2人分の魔力を解き放った。
「お願いこの子を助けて、精霊王!!」
《 プルガーティオ 》
真っ白い光が黒い靄を包み込みぎゅっと集約していく。黒い靄と一緒に狼まで消えそうだと思った瞬間光が爆発した。
バーン!! バリバリバリ
辺り一帯の木が焼け焦げ、その中心には狼がぐったりとした倒れていた。キラキラと光る玉が狼の周りを心配そうに回る。
ローザリアの回復で狼の目が開くと光の玉が嬉しそうにローザリアの元へやって来た。
【あい⋯⋯と】
(ありがとうって言ったの? 狼の事?)
【ありが⋯⋯と】
「狼さん、もう大丈夫かしら」
【スコル⋯⋯おおかみ⋯⋯スコル】
「スコル⋯⋯あの、大丈夫?」
真っ赤だった目が金色に戻り汚れていた身体も真っ白になった。スコルが石碑の横に座り込み頭を少し下げた。
「石碑に触っても良いってこと?」
スコルの様子から問題ないと判断してローザリアは恐る恐る石碑に近づいた。
「ローザリア様!!」
ナスタリア神父の声が聞こえローザリアは立ち止まった。この状況でメルルに来られるのはマズい。
【大丈夫~】
【ナスタ君ひとりだよー】
安心できるいつもの声にホッと胸を撫で下ろしたローザリアはナスタリア神父がくるのを待つ事にした。
「ローザリア様、大丈夫ですか! って、何でおっさんは寝てるんですか!!」
【おっさん~】
【ナザちゃん、おっさん~】
ナザエル枢機卿に蹴りを食らわせてからやってきたナスタリア神父は、石碑と狼を見つけてローザリアを背に庇った。
「なんてこった。また見つけたのかよ」
「狼はスコルって言うの。で、石碑のとこに行きたい」
チラッと振り返ってローザリアを見たナスタリア神父が溜息をついて一緒に歩き出した。手にはいつの間にか杖を構えスコルに狙いを定めている。
いつものようにローザリアが石碑に触れた。
「我、千年の盟約を精霊王と交わす。森を守り猛き者の心を静め風に生命をもたらす」
「パルフェスの石碑の文言と似てますね。山を守り平和をもたらすパルフェスと、森を守り生命をもたらすベリントンか」
【よく頑張ってくれたね。スコルを救ってくれてありがとう】
久しぶりに姿を現した精霊王が満面の笑みを浮かべていた。
「精霊王! お力をお貸しくださってありがとうございました」
【寝ているナザちゃんにも感謝を伝えてくれるかな】
「はい、必ず伝えます」
【スコルはここを護るために瘴気を身の内に集めすぎていた。自力では動けなくなったスコルの為に精霊達は結界を張ってくれたんだけど、そのせいで精霊達は消えかけていたんだ】
「もしかして、それでジェイクが王都に?」
【ここはスコルと仲の良い地の精霊がいる。ジェイクの意志に呼応した地の精霊が彼に力を授けたんだ。ローザリアを呼ぶ為にね】
「間に合ってよかったです」
【さて、真面目な話をひとつ。
ナスタリア神父、いずれ訪れる大いなる災いからローザリアを守り抜け。真実を見抜く目で全てを見通し永遠の愛を】
「大いなる災いとは⋯⋯ジンの事でしょうか?ローザリア様に何が?」
【人の世に関与するのは制限があるから、これ以上は言えないけど、君達を信じている。
スコルは神獣フェンリルの子でね、彼がいたからここは守られた。
今はまだ瘴気の影響で話せないみたいだけど、よろしく頼むって言ってるよ】
精霊王の気配が消えた後、石碑の前には⋯⋯。
立ち上がればナザエル枢機卿よりも大きいだろうと思われる巨体は地に伏せ、ふさふさのはずの毛は土や草の汁で汚れている。太い尻尾が地面を叩くたびにローザリアにまで振動が伝わってくる。
真っ赤な目で睨み付け牙を剥き出しにして唸るが動きがどこかぎこちない。
「狼かしら⋯⋯もしかして、怪我をしてる?」
ローザリアの言葉を無視してゆらゆらと立ち上がった狼の後ろには草に覆われた石碑が見えた。
「石碑を護っていたの? そばに行ってもいい?」
ローザリアが身動きすると狼が唸り声を上げた。結界の中には精霊の姿はなく狼は一言も話さない。
「えっと、精霊から助けてって言われてここに来たの。回復魔法を試してもいい?」
唸り声を上げる狼に向けてローザリアが回復魔法を使った。
《 レフェクティオー 》
狼が苦しげな声を上げて倒れ目から血を流し暴れはじめた。
(結界に阻まれてるから精霊の力が弱すぎる⋯⋯なら、雷撃で結界を破壊!!)
《 トニトゥルス、デーストルークティオー 》
強い雷魔法を空に向かって打つとパリンと音がして結界が破れた。
焦ったナザエル枢機卿の声が遠く小さく聞こえ、狼の体から黒い靄が噴き出した。
「浄化を!!」
《 プルガーティオ 》
眩い光が狼に吸い込まれ消えていくが狼の身体は黒い靄で見えず苦しげな咆哮が聞こえてくる。
「ローザリア!! 何だこりゃ」
駆けつけたナザエル枢機卿が唖然としながらも剣を抜いて構えた。
「足りないの! 浄化が効かない!!」
「俺の力も持ってきやがれ!」
ナザエル枢機卿がローザリアの腕を掴み魔力の全てを流し込み、剣を落としてガックリと膝をついた。
ローザリアは狼に杖を向けて2人分の魔力を解き放った。
「お願いこの子を助けて、精霊王!!」
《 プルガーティオ 》
真っ白い光が黒い靄を包み込みぎゅっと集約していく。黒い靄と一緒に狼まで消えそうだと思った瞬間光が爆発した。
バーン!! バリバリバリ
辺り一帯の木が焼け焦げ、その中心には狼がぐったりとした倒れていた。キラキラと光る玉が狼の周りを心配そうに回る。
ローザリアの回復で狼の目が開くと光の玉が嬉しそうにローザリアの元へやって来た。
【あい⋯⋯と】
(ありがとうって言ったの? 狼の事?)
【ありが⋯⋯と】
「狼さん、もう大丈夫かしら」
【スコル⋯⋯おおかみ⋯⋯スコル】
「スコル⋯⋯あの、大丈夫?」
真っ赤だった目が金色に戻り汚れていた身体も真っ白になった。スコルが石碑の横に座り込み頭を少し下げた。
「石碑に触っても良いってこと?」
スコルの様子から問題ないと判断してローザリアは恐る恐る石碑に近づいた。
「ローザリア様!!」
ナスタリア神父の声が聞こえローザリアは立ち止まった。この状況でメルルに来られるのはマズい。
【大丈夫~】
【ナスタ君ひとりだよー】
安心できるいつもの声にホッと胸を撫で下ろしたローザリアはナスタリア神父がくるのを待つ事にした。
「ローザリア様、大丈夫ですか! って、何でおっさんは寝てるんですか!!」
【おっさん~】
【ナザちゃん、おっさん~】
ナザエル枢機卿に蹴りを食らわせてからやってきたナスタリア神父は、石碑と狼を見つけてローザリアを背に庇った。
「なんてこった。また見つけたのかよ」
「狼はスコルって言うの。で、石碑のとこに行きたい」
チラッと振り返ってローザリアを見たナスタリア神父が溜息をついて一緒に歩き出した。手にはいつの間にか杖を構えスコルに狙いを定めている。
いつものようにローザリアが石碑に触れた。
「我、千年の盟約を精霊王と交わす。森を守り猛き者の心を静め風に生命をもたらす」
「パルフェスの石碑の文言と似てますね。山を守り平和をもたらすパルフェスと、森を守り生命をもたらすベリントンか」
【よく頑張ってくれたね。スコルを救ってくれてありがとう】
久しぶりに姿を現した精霊王が満面の笑みを浮かべていた。
「精霊王! お力をお貸しくださってありがとうございました」
【寝ているナザちゃんにも感謝を伝えてくれるかな】
「はい、必ず伝えます」
【スコルはここを護るために瘴気を身の内に集めすぎていた。自力では動けなくなったスコルの為に精霊達は結界を張ってくれたんだけど、そのせいで精霊達は消えかけていたんだ】
「もしかして、それでジェイクが王都に?」
【ここはスコルと仲の良い地の精霊がいる。ジェイクの意志に呼応した地の精霊が彼に力を授けたんだ。ローザリアを呼ぶ為にね】
「間に合ってよかったです」
【さて、真面目な話をひとつ。
ナスタリア神父、いずれ訪れる大いなる災いからローザリアを守り抜け。真実を見抜く目で全てを見通し永遠の愛を】
「大いなる災いとは⋯⋯ジンの事でしょうか?ローザリア様に何が?」
【人の世に関与するのは制限があるから、これ以上は言えないけど、君達を信じている。
スコルは神獣フェンリルの子でね、彼がいたからここは守られた。
今はまだ瘴気の影響で話せないみたいだけど、よろしく頼むって言ってるよ】
精霊王の気配が消えた後、石碑の前には⋯⋯。
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