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パンケーキちゃんの決断

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 「マカロンちゃん、早くマカロンを作ってよー」


 事件はひと段落したわけではない。国王を弾劾するという前代未聞の出来事に王都はてんやわんやの大騒ぎである。しかし、そんな事はお構いなしに、パンケーキちゃんはマカロンを作ってと催促する。


 「マカロンさん、今回はありがとうございます。マカロンさんがいなければ、このような結末を迎える事はなかったでしょう」


 リリーちゃんがマカロンの作り方も教えて欲しいと言うので一緒に作っていた。


 「私は何もしていないわよ」


 本当に何もしていない。唯一、飛び出してリリーちゃんを助けようとしたが躓いて転んだだけである。


 「そんなことはありません。マカロンさんは、あえて思っていることの逆の事を言って、私が間違えないように導いてくれていました」


 私の言葉はちゃんとリリーちゃんに届いていたようだ。しかし、リリーちゃんは勘違いして受け取っていたみたいである。


 「さすがリリーちゃん、私の言葉の裏を理解してくれていたのね」

 「もちろんです。マカロンさんの一言一句をきちんと理解しないとマカロンさんの本意を読み解くことはできません」

 「ふっ、さすがリリーちゃんね。でも、私も聖女と呼ばれるほどいい人ではないのよ。卑怯な面も持っているわ」


 私は嘘の中にも真実を織り交ぜて反省の意を示す。


 「そんなことはありません。マカロンさんは、なんだかんだ言っても最後には必ず私を助けてくれます。アスパラ宰相に殺されそうになった時も、自分の命を顧みずに私を助けてくれました。マカロンさんは素敵です。そしてパンケーキ様も」


 リリーちゃんの言葉に私は感銘を受ける。


 「マカロンさん、本当にマカロンを作るのですか?」


 リリーちゃんは寂しそうな目で私を見る。


 「いきなりどうしたのリリーちゃん?」


 私はリリーちゃんの言っている事がこの時は理解できなかった。しかし、この時の寂しげなリリーちゃんの表情を私は一生忘れる事はないだろう。


 「なんでもありません。パンケーキ様の為に頑張ってマカロンを作りましょう」


 私は丁寧にマカロンの作り方をリリーちゃんに教えながら、たくさんのマカロンを作った。


「パンケーキちゃん、マカロンが出来たわよ」


 パンケーキちゃんは、嬉しそうに私の元へ飛び込んで来た。

  
 「見た目もマカロンちゃんみたいで可愛い」


 色とりどりのマカロンを見て、パンケーキちゃんはご満悦である。

 
 「見た目も可愛いけど、味も甘くて美味しいわよ」

 「本当に!とっても楽しみだわ」


 パンケーキちゃんは爛々と目を輝かせてマカロンを口の中に放り込む。

 濃厚な甘味がパンケーキちゃんの口の中で広がっていき、心地良い風味が嗅覚を刺激する。さっくりとした外側の食感と内側のねっとりした食感が脳内を破壊する。

 
 「はれふれほなはれ」


 前代未聞の甘さにパンケーキちゃんは意味不明の言葉を発してニコニコと笑っている。


 「私は今日からマカロンになるわ」


 パンケーキちゃんはマカロンをいたく気に入ったので、名前をマカロンと改名した。

 「パンケーキ様、ダメです。もう改名しないでください」


 リリーちゃんは大声で叫んだ。しかし、パンケーキちゃんはニコリと笑った。


 「いいのよ。もう、大切なマカロンちゃんを束縛できないわ」

 「え!パンケーキちゃんどういうことなの?」

 「マカロンちゃん、見たこともない美味しい食べ物を作ってくれてありがとね。どれもとても美味しかったわ。でも、マカロンちゃんに出会えたことが一番うれしかった」


 パンケーキちゃんはやさしく微笑みながら涙を浮かべていた。


 「もう、マカロンちゃんは自由なの。やっと元の世界に戻れるのよ」

 「え!何を言っているのパンケーキちゃん!」

 「マカロンさん、パンケーキ様は本来の姿になった時に、忘れていた自分の記憶に気づいたのです。ケモ耳族は100年に1度ひどくお腹を空かした時に、未知なる甘い食べ物を求めて異世界から凄腕の料理の職人を召喚するのです。しかし、召喚すると同時に何のために召喚したか記憶を失ってしまいます。マカロンさんとパンケーキ様が出会ったのは偶然ではありません。必然だったのです」

 「本当なのパンケーキちゃん」

 「ごめんね。どうしても甘い食べ物が欲しかったの・・・」


 パンケーキちゃんの目から涙があふれ落ちる。


 「いいのよ。私はパンケーキちゃんと出会えて楽しかったわ。でも、なぜ泣いているの?」

 「それは、パンケーキ様がマカロンさんとの契約を解除したのです」

 「え!なんで?」

 「マカロンさんを元の世界に戻すためです。パンケーキ様はいつまでもこの世界にマカロンさんを引き留めるのは悪いと感じたのでしょう。だから、マカロンと名前を改名したのです」

 「ちょっと、意味がわからないわ」

 「ケモ耳族との契約の仕方は以前説明しました。そして、契約の解除の仕方は名前を3回改名することになっています。パンケーキ様はビスケット、パンケーキ、マカロンと3回名前を変えたので、マカロンさんとの契約が解除されたのです。これで、マカロンさんは自由の身となり元の世界に戻れるのです。私はこの方法を禁書で読んで知っていました。なので、マカロンさんにはマカロンを作って欲しくなかったのです。私もマカロンさんと離れたくないのです」


 リリーちゃんも涙を流して大泣きする。


 「私だってパンケーキちゃんやリリーちゃんと別れたくないわよぉ~~~」


 私は大声で叫んだ。しかし、目の前が急に真っ暗になり意識を失ってしまった。


 「パンケーキ様、いえ、マカロン様これでよかったのでしょうか?」

 「・・・」


 マカロン様(パンケーキちゃん)は何も答えずにリリーちゃんの前から姿を消した。


 「マカロン様もマカロンさんと離れたくなかったのですね。でも、マカロンさんを本来の場所に戻さないといけないと考えて、苦渋の決断をしたのですね。マカロン様は素敵です。私もオーブスト王国を正常化するためにがんばります」


 リリーちゃんは国を立て直すために国民投票に挑むのであった。


 おしまい!
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