【魔力ゼロ】と嘲笑されて男爵家を追放された私。――実は、この偽りの世界を修復する『古代の究極魔法』を使える唯一の器でした。

ninjin

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百回目の願いと、小さな笑顔

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 ハスクが至高の国アルスの裏切りという事実に打ちひしがれ、瓦礫の上に膝をついていると、その横でアルカの青い瞳に微かな電流が走った。

「……生命反応を察知。極めて微弱。場所は、ここから三・五メートル先の瓦礫の下」

 アルカは感情のない声で、生存者の存在を報告した。

 ハスクは即座に涙を拭い、立ち上がった。アルカは全身の機能を使って瓦礫を少し持ち上げ、ハスクは一週間の訓練で底上げされた体力を使って瓦礫を押し出した。瓦礫の下からは、煤と血にまみれた、六歳くらいのずたぼろの少女が発見された。彼女は奇跡的に建物の構造に守られ、微かに息をしているだけだ。

 アルカは少女の怪我の状態をスキャンし、淡々と結論を述べた。

「この被検体は複合的な外傷により、極度の生命機能低下を確認。現在のこの個体の状態は、私の持つ全ての回復プロトコルをもってしても、生命の機能を再起動させることは不可能な段階にある。加えて、私のマナ出力は封印により制限されている。よって、このまま死を待つのが適正な判断だ」

 アルカは、自身の能力をもってしても少女を救うことができないという、絶望的な事実を突きつける。

「やってみないと、わからないじゃない!」

 ハスクは怒鳴りつけると、すぐにマナを掌に集束させた。掌に緑の光を集めながら、馬車の中でアルカに教えてもらった回復魔法のプロトコルを唱える。

「【VITA-ADJUVO(ヴィタ・アジュヴォ)】(生命力の流れを補助するプロトコル)!」

 ハスクの手のひらにできたマナの球体が、少女の体へ流れ込もうとする。

『パチンッ!』

 その瞬間、マナの球体は弾け、霧散した。アルカの言った通り、回復プロトコルでは傷の規模に全く歯が立たなかったのだ。しかし、ハスクは回復プロトコルを続ける。

「マナは無限に湧き出るエネルギーだが、お前の体力は有限だ。無駄な体力の消費は生存プロトコルに反する」

 アルカは冷静に分析し、ハスクを制止しようとする。

「うるさいわ!」

 ハスクはアルカの言葉に怒鳴り返し、マナの生成と放出を繰り返した。少女を救いたいという強い感情が、無駄と判断された行為を続ける原動力となった。


 そして、ハスクの一〇〇回目の挑戦も失敗に終わった。

 ハスクの顔から、怒りも、希望も、すべてが消え失せた。彼女の力では、目の前の小さな命すら救えない。絶望が、冷たい水のように全身を覆った。

 その瞬間、ハスクの体内で、何かが決定的に弾けたような感覚が走った。それは、底知れない情熱が、体内に眠る根源的なエネルギーを強制的に覚醒させたかのようだった。ハスクの表情が、一瞬で無感情な能面のように変化した。全身は、まるで脈打つ心臓のような紅いオーラで強く包まれ、禍々しい赤い瞳が妖しく、強く輝きだした。次の瞬間、ハスクは腹話術の人形のように、その口をパクパクと動かした。いつもは感情豊かで、明るさや怒りを含んだハスクのトーンとは全く違う、冷たく、響きの深い、機械的なトーンが、彼女自身の口から、止めどなく流れ出た。
 それは、体内の力が、彼女の体を乗っ取ったかのように発する、究極の回復プロトコルだった。ハスクの意識は完全に消えて何者かに支配されていた。体内の力は、ハスクの右掌へと一気に流れ込んだ。掌で圧縮されたエネルギーは、これまで見てきた緑色ではなく、脈動する心臓のような紅い光を放ち始めた。その紅い光は、ハスクの制御を完全に離れ、掌の空間で急速に凝縮・膨張した。紅い光の塊は、やがて少女の体を包み込むに足る、巨大で完璧な球体へと構築されていった。

 ハスクは、その紅い球体を前に、長大なプロトコルを唱え続けた。

「FORMA VITAE INANE IMMERSA AD VERA LEX REGISTRUM COLLIGE. FALSA PRAECEPTA REPELLITE, DAMNA VITAE PROHIBETE. SANGUIS, OSSA, CELLULAE VULNERA AD INITIUM REDIGITE. POTENTIA OMNIUM RERUM, PER HOC VAS FORMAM PERFECTAM CONSTRUITE — GENESIS-LEGEND!」

(ロストに沈みし生命ヴィタの形を、真の理ウェラ・レックスの記録へと収束せよ。偽りの理ファルサ・レックスを退け、生命の欠損を許さず。血肉、骨格、細胞膜の損傷データを初期状態へと再構成せよ。万物の根源オムニウム・レクスたる力をもって、この器に完璧なる真の形カタチを紡げ――完全再生ジェネシス・レジェンド!)ー日本語訳ー


 紅く発光する球体は、少女の体を優しく包み込んだ。今回は、光の膜は弾けることなく、少女の体へと吸い込まれていった。すると、少女の傷口が塞がり、煤と血にまみれていたずたぼろの姿が、徐々にきれいな姿に戻っていく。それは、アルカが右腕を再生させたときと同じ、完全な再生だった。再生が終わったとき、リーネの姿は、瓦礫の下から見つかった瀕死の少女とは別人のようだった。

 再生が終わると、ハスクの体から紅いオーラは消え、瞳の輝きも戻った。彼女は、何が起こったのか全く理解できないまま、我に返った。

 少女は幼さないにもかかわらず、その容貌には既に、この世の人間離れした端麗な美しさが宿っていた。輪郭には愛らしさが残るものの、整った目鼻立ちには、まるで磨き上げられた水晶のような気品が漂う。特に、細くしなやかな手足は幼さに反して長く、全身を覆う肌は、陽の光を浴びたことがないかのように白く、透き通るような透明感を放っていた。その姿は、あまりにも非現実的で繊細な美しさをまとっていた。

 再生が終わると、少女はゆっくりと目を開けた。

「大丈夫?」

 ハスクは優しく声をかける。少女はハスクの問いかけに答える前に、目から大粒の涙を流し、堰を切ったように泣き出した。ハスクはすぐに少女に謝った。

「驚かせてごめんね。私たちは、あなたの敵ではないのよ」

 しかし、少女は怯えて、ただただ泣き続ける。

「解析不能。泣くという行為は、現在の状況下では意味のない行動だ」

 アルカは静かに分析し、ハスクの隣に立つ。

 ハスクはアルカを無視し、少女に安心感を与えるように優しい笑みを浮かべた。そして、掌に再び小さなマナの球体を生成した。その球体を、ハスクは精巧なイメージで可愛らしい人形の形へ変える。これはハスクが二日間の馬車の中での修行に飽きがこないように創意工夫して生み出した、無意味な副産物だったはずだ。

 人形を見た少女の怯えた顔は消え去り、代わりに小さな笑みが浮かんだ。

 ハスクは、その笑顔を見て安堵した。

「あなたの名前を教えてくれるかしら?」
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