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プロローグ 病室にて

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 私は病弱な体質なため14年間のほとんどを病院の中で過ごしてきた。母は私の治療費を稼ぐために寝る間を惜しんで働き続け、父は私が10歳の時に治療費を稼ぐのが嫌になり母と離婚した。

 人生のほとんどを病院で過ごしている私の体は、骸骨のように痩せ細っていて、日光を浴びることがないので青白い肌をしている。それは健康的な肌とはいえず私はとても嫌であった。そして、年頃の私は化粧や髪の毛を染めてオシャレをしたいと思うが、誰に見せるわけでもないのでやる気が出てこない。しかし、母はそんな私の気持ちを察してか、自分のメイク道具を持ってきて、私に化粧の仕方を教えてくれたり、髪も綺麗にカットしてくれる。

 私のために母は、仕事で忙しいにもかかわらず毎日病室に来てくれる。


 「葉月(はつき)いつも辛い思いをさせてごめんね」

 「お母さんこそ私のために辛い思いをさせてごめんなさい」

 「何をいってるのよ。全然辛い思いなんてしてないわ。だから私の事は心配しなくて大丈夫よ」

 「私も大丈夫よ。こうして毎日お母さんとおしゃべりできるのがとても嬉しいわ」


 私は毎日母が訪れるこの時間が、本当に幸せな時間であった。病気の治療で苦痛を伴うことは多々あるが、母の顔を見るとそんな苦痛も消えてしまうのである。しかし、私のために母が仕事ばかりの人生を送っているのが申し訳なく思うのである。


 「必ず病気は完治するはずよ。葉月が元気になったら一緒にピクニックに行くのよ。あなたが欲しがっていた白のワンピースと大きな麦わら帽子を買ってきたわ」


 私の人生は、ほとんどが病室である。なので、元気になったら大自然の中青々としげる草原で、弁当を持って母と二人でピクニックに行くのが夢であった。そして、その時には透き通るよな真っ白なワンピースを着て、照りつける太陽の下を大きな麦わら帽子をかぶって草原を走り回りたいと思っていた。できれば、可愛い小型犬も一緒にいれば完璧である。

 私はこのようなくだらない夢を母に一度だけ話したことがある。母は私のくだらない話に何も答える事なく涙を流して顔を伏せてしまった。私はそれからこの話をする事はなくなったが、母は毎年私の成長に合わせて白のワンピースと麦わら帽子を新調してくれるのであった。

 
 「お母さんありがとう。でも・・・私の事よりも自分の事を大切にして欲しい。私のせいでお父さんとも離婚してしまったし、もうそろそろ第二の人生を歩んで欲しいの。お母さんは美人だからすぐにいい人が見つかると思うの」

 「何を言っているのよ!私は葉月が居てくれればそれだけ幸せなのよ。そんな変なこと考えなくてもいいのよ。絶対に病気は良くなるはずよ。だからそんな事は言わないで」


 私の病気は完治することはない。それは母も知っている。医者からはいつ死んでもおかしくないと言われている。


 「お母さん。私を産んでくれてありがとう。私はお母さんの子供として生まれて幸せでした。だから、私が死んでも自分を責めないでね。私はお母さんから大きな愛をもらえたので、それだけ満足です」

 「ばか!あなたを絶対に死なせないわ。私が絶対に・・・絶対に・・・絶対に・・・」

 
 母は私を強く抱きしめてくれた。私は母の温もりを感じるこの瞬間がとても大好きである。でも母を泣かせるようなことを言って申し訳なく思っている。しかし、私にはわかっていた。もう私は死んでしまうことを。だから私はどうしても伝えたかったのであった。


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