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最終話
しおりを挟む「プリンツちゃん」
私は咄嗟に大声で叫んだ。
「僕がハツキお姉ちゃんやみんなを守るんだ!」
「小僧のお前に何ができるのだ」
スライムに覆われて息が出来なくなったヴォルフロードは力尽きた。クレブスはヴォルフロードの体を乗っ取りプリンツに近づいていく。
「お父さん・・・」
「お前の親父の魔力は絶大だ!我の本来の魔力にはかなり劣るが問題はない。後は雑魚のお前だけだ」
「僕はヴォルフロードの名を継ぐヴォルフ族。お前になんて絶対に負けない」
「我にはわかる。お前など雑魚中の雑魚。一瞬で殺してやる」
クレブスはそよ風のようにスッと静かに移動してプリンツの背後に回り込んだ。
「終わりだ!」
クレブスはヴォルフロードの鋭い爪でプリンツの背中を突き刺した。プリンツはあまりの速さに対応することが出来ずに無敵の毛で防御をする間もなかった。
「あっけない幕切れだ」
私は何もできず呆然と立ち尽くしていた。ヴォルフロード、プリンツを助けに行きたかったが、私の体は金縛りにかかったかのように体を動かすことができなかった。
「我であるお前、やっとお前を死の世界に案内することができるぞ。ガハハハハ!」
勝ち誇ったクレブスは私を見て嘲るように笑った。
「葉月、私が絶対に絶対に絶対に死なせないわ」
プリンツの体が金色に輝きだして背中の傷がふさがった。
「私が葉月を救うのよ!」
プリンツは無敵の毛を逆立ててクレブスに突進する。
「無駄だ!お前など我の相手ではない!」
クレブスは余裕の笑みを浮かべてプリンツを迎え撃つ。
「その声はお母さんなの・・・」
「葉月、私が絶対に病魔から救い出してあげるわよ」
「無駄だ無駄だ」
「お母さん・・・助けて!」
「もちろんよ」
葉月は私に一度も弱音を見せる事がなかった。生まれてからずっと病魔と闘っていた葉月は、痛みや苦しみが日常的で、それが当然の生活だと物心ついた時から悟ってしまい、弱音を吐くことはなかった。いつも、私に心配をかけないように、死を恐れることなく気丈に振る舞っていた。いつ死ぬかもしれない恐怖は、私なら怖くて泣き崩れてしまう。でも葉月は、逆に私を元気づけるように笑顔を絶やすことのない子に育っていった。私は絶対にこの子を救いたい。絶対にこの子を失いたくない。絶対にこの子にたのしい人生を歩ませたいと願っていた・・・
「無駄だ!お前は今日ここで死ぬのだ!」
クレブスがプリンツの体に鋭い爪を突き刺す。しかし、プリンツは口を開いて爪をかみ砕いた。
「僕がハツキお姉ちゃんを救うんだ!」
プリンツは、そのままクレブスの体に突進して体をスクリューのように回転させた。
「ギャァ――――」
プリンツの体はクレブスの体を貫通した。
「ハツキお姉ちゃんやったよ!僕が精霊神をたおしたよ」
プリンツが私のもとへ駆け寄ってきた。
「プリンツちゃん・・・ありがとう」
私はプリンツを抱きしめようと体を動かそうとした瞬間、目の前が真っ暗になった。
「葉月!葉月!目を覚ましたのね」
私が目を開けると目の前にはお母さんが居た。
「お母さん・・・」
「葉月・・・よかった」
「私・・・どうしてたの」
「葉月もう大丈夫よ。あなたを苦しめていた悪性の腫瘍は全部なくなったの」
「私の病気は治ったの」
「そうよ。もうあなたは自由なのよ」
「そうなのね」
私はなんとなく病室を見回してみた。私が寝ていたベットの横には黒い狼のような可愛いぬいぐるみが置いてあった。
「お母さん、このぬいぐるみは?」
「これは、あなたが赤ちゃんの時に買ってあげたぬいぐるみよ。あなたはこのぬいぐるみが大好きでずっと抱きしめていたのよ」
「そうなんだ。全然覚えていないわ」
「たしか、プリンツって名前をつけていたわね」
「プリンツ・・・なんだか懐かしい響きだわ」
「そうね」
医師は、なぜ私の悪性腫瘍が消えてなくなったのかは不明だと母に説明したが、私はぬいぐるみの名前がプリンツだと知った時、ふと頭に全身が鋭いトゲで覆われた狼のような動物の姿がよぎった。
「プリンツちゃん・・・」
おしまい
【お詫び】 最後まで読んで下さった方ありがとうございます。最後はちょっとハイペースで終わる形になったことをこの場に借りてお詫びします。
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(4件)
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初めまして、いつも楽しく読まさせて頂いてます!
ハツキの天然さにクスッとしてます(≧▽≦)
感想ありがとうございます。楽しんでもらえて幸いです。まだまだハツキの冒険は続きますので、これからも読んで貰えると嬉しいです😃
名探偵ハツキにて
魔道具を作るのがダメなので「あった」、のとこ
「あって」、 では?
ご指摘ありがとうございます。すぐにに訂正します。
大惨事勃発にて
夢にも思わ「中田」て何?
「なかった」では?
ご指摘ありがとうございます。すぐに訂正します。