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第8話 昆虫聖女「すごい面倒な相手ー」/ギロチン令嬢「あれ、もしかして気づいてないんですの?」

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 アイシャは面倒を感じていた。

 レイネ、と名乗った令嬢の運動能力はそれほど高くない。あれくらいだったら運動不足気味の聖女の中でも動ける人はたくさんいる。加え、聖女が使う神聖力は特に理由もなく生物の生命力を活性化するのだから、それを加味するなら彼女の身体能力は聖女的には下の中といったところだ。

 厄介なのは、彼女が持つ能力。無限のギロチンを操る力。
 それに加え、

「!」

 ティス子の刃が振り下ろされる。

 金属音。

 首を狙った一撃は、数枚のギロチンが身代わりになった。
 まただ、とアイシャは思う。

 ……今の、防げるタイミングじゃなくないー……?

 アイシャはもう、何度も絶好のタイミングで攻撃を叩き込んでいる。
 初撃にしたってそうだ。不意打ち気味の1発。後先考えず両方の刃を叩き込みにいった。だが結果は失敗だ。防御を弾き飛ばしはしたが、その後の追撃ですら防がれている。
 よもやギロチンは自動でこちらの攻撃を防いでいるのではないか、とすら思ったが、レイネが攻撃を防ぐ際は必ずこちらを視認している。つまりはギロチンを動かすにはそれが必要なのだということ。
 転じて、レイネが攻撃を防いでいる、という事実は、

 ……こっちの攻撃を100パーセント察知できている、ということー……。

 どうやっているのだろうか。素だろうか。確かに悪役令嬢は皆、危機察知能力が高いように思う。まあゲーム内での生い立ちがそうさせるのだろう、というのは理解できる。

 だがこれは度を越えている、とアイシャは思う。

 不意打ちも高速奇襲も全て防ぎきる危機察知能力とはなんだ。もはや予知の域ではなかろうか。
 また一撃を見舞う。今度は背後に甲虫を隠し、それを二の矢とした。

「今度こそー!」

 すると、今までは大体10枚から20枚程度のギロチンで防いでいたのを、何故か今回に限って30枚ほどを挟み込まれた。
 砕く。斬り飛ばす。20枚を貫き、離脱と同時に甲虫を飛ばした。
 残った10枚のうち8枚が突貫を防ぎ、2枚が甲虫の体をふたつに割った。
 まるで解っていたかのような配分である。

「……!」

 アイシャは面倒を感じた。
 この令嬢の察知を掻い潜り、防御を打ち抜けるような攻撃が出来なければ、

 ……あたしの負けかー……。

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 レイネは聞いた。

「ティス子、もっと上へー! 太陽を背にしてあっちの視界を遮るよー! それに加えて追撃用ー意ー!」

 高速でこちらから離脱し、直上へと昇っていくのはティス子と呼ばれたカマキリと、その背に乗ったアイシャだ。
 高速で動き回るひとりと1匹だが、その指示は風に乗って地上へもよく届いた。
 パン、という手を叩く音も風に混じり、

「モツ、ハツ、正蔵ー! 1匹で駄目なら3匹だー!」

 たぶん、としか言いようがないのだが、ティス子以外で呼ばれる名前は甲虫1匹1匹のものなのだろう。

「重力に乗せて重いの1発ー! 直後に3連撃だー! 今度こそ仕留めるよティス子ー!」

 言う言葉が頭上から降ってきて、その姿は事前の宣言通り陽光によって見えづらい。
 だが、

「まだだ、まだだよティス子ー! タイミングが大事だよー! 3、2、1ー……。今ー!」

 当然のように、タイミングは向こうが教えてくれた。

 レイネは12枚重ねのギロチンを頭上に滑り込ませ、振り下ろされた刃の一撃を耐えしのぐ。
 ガキン、という音がして、盾としてのギロチンが吹き飛ばされて地面に刺さった。

 レイネの制御を離れたギロチンはすぐに消える。だがそうなるまでの間、瞬間的にギロチンはレイネの視界を遮る障害物として林立する。
 その陰。地面に刺さったギロチンのうち、3枚へとアイシャの視線が向いた。

 ……西、西、東。

 レイネと同じく、アイシャの使役体召喚もまた視線誘導によって行われるらしい。
 西の2枚と東の1枚。
 当然の優先順位として、レイネの視線は西側へと向き、

「!」

 待機させていたギロチンをギロチンの陰へと落とし、2匹の消滅を確認した。
 もう1匹、背後である東側へと落とすギロチンの位置は勘なので正確性はないのだが、

「避けろー! いよっしゃあー!」

 避けたらしい。だから防御として3枚を新たに打ちたて、

「!」

 金属音とともに甲虫が盾に弾かれる。
 そのときにはもうレイネの視線が間に合った。

 落とす。

 消える。

「くっそー、またかよー! どうなってんのそれー!」

 悔しそうなアイシャの声が、ドップラー効果つきで離れていった。
 レイネの視線は今度はアイシャではなく、数十メートル離れた位置にいたグーラの方へと向けられた。

 グーラが言った。

「まあ、ああいうヤツなんだ」

 ああいうヤツならば仕方ないですのね、とレイネは思った。
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