悪役令嬢と聖女をひとつの島に詰め込む話 ~生やされたくないので戦争をする~

U輔

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第14話 最強聖女「めっちゃ警戒してたら思ったより物理だったな、だわ」

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 ベージュコートの聖女、テスタロッサ・ラーニーが転生したゲームは、典型的なファンタジー世界だった。

 主人公が所属するのは王国で、敵国が帝国で。魔法あるのにメイン武器が剣で。竜がいて獣人がいて色黒もメガネもいて、それらが庶民出身のテスタに惹かれていって、色々あって帝国を打倒する。そんな典型的な設定だ。
 ついでに言うと帝国の王子もまた攻略対象だった。だがテスタはこの帝国王子との出会いは早々に諦めていた。なにせ乙女ゲームなのに条件がランダムだ。王国北東部、魔獣の森。護衛もつけずここで1週間過ごさせられたのち、およそ8分の1の確率で王子が森林浴に現れる。なおセーブロードは利かない。前世のテスタの場合は15周させられた。

 敵国王子との出会いに失敗した結果として、味方国王子のルートに乗らざるを得なくなった時の感情の名前を、テスタは知らない。

 だがそんなことは問題ではなかった。

 グルーガ・アイゼン。狼の獣人で武器屋のせがれ。

 攻略対象ではなく、スチルの片隅にすら描写されていないこのモブ獣人が、テスタの推しだったからだ。

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 海岸を飛び立って程なくして、「鉄の街」の入り口が見えてきたのにテスタは気がついた。
 鉄で出来た桟橋があり、鉄でできた土台がある。見ると海底に向かい支柱が伸びているのも見えた。もしかしたらここは元々海で、鉄の街はそこを埋め立てられて建造されたのかもしれない。
 それらの土台の上には用途のわからない箱状のオブジェクトがいくつか散見され、その奥には、

「門だね、両扉の。錆びていてあまり美しくはないが」

 発明聖女、白衣姿のキオが、見えてきたものを皆を代表して表現した。

 テスタは言う。

「そんなものは見ればわかる、わ。だが、このまま突っ込むわけにもいかないだろう、でしょう。4年前の聖女たちは、手がかりも連絡も一切なく消えた、わ。私たちも二の舞になる可能性は十分にある、かしら」
「前から言おうと思ってたんだけど、きみ、女言葉向いてないよ。美しくない」
「うるさいな、わね。向こうの『ギロチン令嬢』は、いかにも『悪役令嬢!』という喋りをしているそうだ、そうよ。『聖女』として負けていられない、わ。ねえ、そうだろ、よね? ユリ?」

 声をかけられた先、シスター服のユリ・マツバラが、ベールの奥の目をこちらに向けて、

「……すまない、考え事をしていたでござる。今、拙者に言ったのか?」
「すまない、聞く相手を間違えた、わ」

 ユリは首を傾げながらも、正面へと視線を向けなおす。
 すると、甲虫の背にうつぶせになって全身を擦り付けるという奇行を披露していた「昆虫聖女」アイシャが、

「どしたんユリー、何か気づいたー?」
「いや、大したことではないのでござるが……うーむ」
「……なあキオ。あれは変人同士でしかわからない何かシンパシーというものだろうか、かしら」
「いや、あれはアイシャ君が他人の心の機微に美しく敏感なだけだと思うよ。そういうシンパシーがあるなら、きみにも理解できるはずだから」
「……? いや、私は変人ではないから理解できないぞ、だわ。どういうことだ、かしら?」
「いやごめん、やっぱりなんでもないよ。いっそ美しいね?」
「?」

 そう言われてしまえば、テスタとしては疑問に思いつつも引き下がるしかない。
 それより、

「ユリ。何か気づいたのなら言ってくれ、言ってほしいわ。どうした、の?」
「いや、本当に大したことじゃないのでござるが」

 ユリが言った。

「拙者、侍なので殺気とかに敏感でな」
「そのくらいなら私にもできるが、できるけど。何か感じる?」
「ああ、すまない。これは技術とかではなく侍のスキルでござる。未来予知に片足突っ込んだ気配読み。対象に無機物まで含むものでござるのだが」
「えー。じゃあもしかしてー。聖女が消えた原因とかー、わかったー?」

 正面を見据えたまま、

「いや、それはわからなかったでござる」

 だけど、

「代わりに、正面より砲撃。1000発くらいでござろうかなぁ」

 一瞬の沈黙ののち、皆が叫んだ。

「「「早く言え……!」」」

 鉄の街の入り口で、チカチカと光が瞬いた。

 》

 テスタは必死に剣を振っていた。

 鉄の街よりの砲撃は、豪雨に近い。秒で数発以上の砲弾が、こちらを落としに飛んでくる。
 アイシャは昆虫を出して対処し、キオは触れたものが露骨に消える謎の薬品を水鉄砲を使って乱射している。たまに飛沫がこっちに来るのだけ勘弁してほしい。
 ユリは、刀を胸に抱いたまま何か瞑想をしている。確かこれは侍が行う戦闘前のルーティーンというヤツだ。願わくば戦闘前に終わらせていてほしかった。

 ……まあいい、わ。

 テスタは、砲弾を斬り飛ばした。

 足場はよくないが悪くもない。昆虫聖女が操る巨大な甲虫の背中の上。やや滑るが、心もとないというほどでもない。

 このあたりの足運びの技術は、味方国王子の護衛である色黒イケメンから教わった。テスタはグルーガに夢中だったが、「王子を無視するとは何事だ!」から始まってなんやかんや戦闘技術を教わることになったのだ。名前は忘れた。

 飛来してくるのは、魔法やスキルに頼らない物理砲弾、らしい。認識阻害がかかっているためか少し焦点がズレるが、しかし問題ない。

 このあたりのデバフ対策は、身長が無駄に190センチある図書館史書から教わっている。グルーガのために獣人をはじめとする亜人系種族について調べ物をしていた際、「今時珍しいですね」から始まってなんやかんや教わった。名前は忘れた。

 厄介なのは、この砲弾の特性だ。着弾はもちろん、こちらの至近を通過するだけでも、砲弾は激しい爆発を引き起こす。先ほどは初見であったため食らいかけたが、爆風を剣で巻き取り衝撃を逃がす、「合気のすごい版」みたいなヤツで回避した。

 これは、グルーガとのデート中に「獣人と人のカップルですと……汚らわしい!」などと言ってきた糸目の格闘家が持っていた技術だ。なんやかんやで教わった。名前は忘れた。

 テスタはこのように、本来ゲームの攻略キャラクターであった6人に「おもしれー女」として気に入られ、それぞれから剣術・魔法・合気のすごいヤツ・帝王学・古代文字・祈祷術などを教わり、それでいてグルーガと結ばれることに成功したのだ。

 テスタは理解している。

 テスタは確信している。

 聖女・悪役令嬢・魔獣。過去・現在・未来。魔法使い・スキル持ち・ギフトホルダー。

 そして、

 ……ギロチン令嬢。

 その他一切、この島の全ての中で。

 己が、最強であるということを。
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