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第23話 ギロチン令嬢「闖入者、ですの」
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3人にルカを一通り堪能させたあと、グーラがこんなことを言うのをレイネは聞いた。
「きみら、4年前に行方不明になった聖女たちだろう」
それを聞いた3人とゴーレムに埋もれっぱなしの忍者は、グーラが熾した明かりに照らされながら不思議そうな顔を浮かべた。
魔法使いが言う。
「4年前? いえ、私たちはつい先ほどここに来たばかりですが。この下水道を探索し、先へ進もうとしたらあなたたちが現れて」
「今の聖女暦は何年だ?」
「4年ですけど」
「違う。今は8年だ」
それを聞いた聖女たちに沈黙が落ちる。
レイネは聞いた。
「……聖女暦、とは?」
「ん? 字の通りだ。この島に初めて聖女が降りてきてからの暦だよ。『我々が観測できうる限り』と枕詞がつくが」
なるほど、とレイネは頷いて、
「……ちなみにそれ、令嬢軍だとどうなってますの?」
「最初の聖女と最初の令嬢が現れたのは、我々が知る限りだと同時期だからな、変わらないよ。……『悪役令嬢暦8年』だ」
「悪役令嬢暦」
レイネはここにきて何か不思議な敗北感を聖女に対して感じた。
レイネが誰にも気づかれることなく打ちひしがれていると、魔法使いの少女が手を挙げた。
「あの」
なんと言っていいかわからない、といった風に目を泳がせて、
「令嬢軍の方は、算数があまりお得意ではなくていらっしゃる……?」
「よくもまあ己の状況も顧みずそんなことを……違う、おかしいのは君たちだ」
グーラは懐から何かの紙片を取り出し、内容を読み上げる。
「アルカ・レントラー。シェイン・マカトリス。スズヤ・シャディール。クラインベルト・オーバード。君らのことだな?」
聖女全員が首肯する。
「この4人の名前は、今から4年前、『機械の街』の調査中に行方不明になった聖女たち……の、『捜索のため派遣され行方不明になった聖女たち』の名前だ。聖女軍から提供された情報の中にあったもので、能力までは記載されていなかったのだが」
「え? つまりこの方たちは……4年間ここに?」
「そ、そんなはずないですよ!」
魔法使いの少女が、驚愕を顔に貼り付けたまま反論する。
「私たちがここに来たのは、ほんの数時間前です! 聖女の捜索のために来た、というのは事実ですが……」
「だとしたら『何か』があった、ということだろう。あるいは……そうか、この下水道自体に何か原因があるのか? だとしたら……」
「え? もしかして私たちがここから出たらまた4年経過してた、とかあり得ますの?」
「4年、で、済めばいいけど……」
「ちょっぱやで脱出したほうがよさげ? グーラちん、この服装って」
「あと35分」
「待ってもいい系?」
「出ますの」
「出、よう」
「人の気持ちとかわかんない人たちかな?」
「ちょ、ちょっと、なんですか『何か』って!? こう言ってはなんですが私たちだって聖女のプロですよ!? 魔法やスキルが行使されれば気がつきます!」
「聖女、の、プロ……」
「プロアマの境ってなんですの?」
「一般的には給料もらってるかどうかかなー? 聖女って奉仕活動じゃねぇの?」
「愛じゃお腹は膨れないんですよ!」
「ぶっちゃけてんぞこの女ー」
「しかし、私の知り合いの聖女は祈ると足元からもりもりと穀物とか出てきてたが」
「その人、元の世界じゃ喜ばれてたみたいですが、今は聖女軍で家畜用の飼料作って生計立ててますよ。両手いっぱいの飼料で角砂糖が1個もらえるそうで」
「レートどうなってんだし?」
「さあ……? って、そうじゃなくてですね! とにかく4年も経ってるなんておかしいですよ!」
「否定します。おかしいことはありません。当方の能力は魔法でもスキルでもなく、科学に由来するものですから」
「だったら何もおかしくない……か……」
知らない少女の声が響き、皆は沈黙した。
》
レイネは見た。こちら側にグーラとガラル、向こう側に聖女たち3人。その間に転がった逆バニー姿のルカと忍者が埋まったゴーレムがいるという配置の中、「それ」が現れたのはゴーレムとルカの間だった。
銀色の長髪。白い肌。そこまでは聖女によくいるタイプだが、顔下、首より下の肌は黒に近いグレーをしていて、純粋な人間ではないことが伺えた。ふわりと膨らむロングスカートが映える服装は、いわゆるオタク業界に見られるものよりも少し落ち着いた風合いのメイド服だ。
そして何より目立つ特徴として、彼女の右目の中には通常の眼球ではなく、緑色の光を放つカメラレンズのようなものが覗けていた。
彼女はスカートの中に足を納めた正座の姿勢で、突如として皆の中央に現れていて、
「――」
魔法使いの少女が、特大の炎球をひとつ、杖の先から放った。
》
レイネは、突如として視界を埋め尽くすような炎が己の方向へと向けて放たれたのを見た。
さきほど魔法使いの少女は、突如としてこちらを攻撃してきた理由について、「陽キャを見てビビったから」というような説明をしていたが、
……ただ単に喧嘩っ早いだけでは?
思う中、莫大な火力が正面に現れた謎の少女を襲う。
だが、それに晒されたのは無論、少女だけではなく、
「え、あ、ちょちょちょ、レイネちんこれ取って!?」
ギロチンで拘束されたルカと、そのゴーレムに囚われた忍者も同様である。
だがレイネとしてもルカだけに構っていられない。何せ炎は、互いの間にいるルカはもちろん、その射線にはこちらをも巻き込んでいる。
レイネは本来、戦闘があまり得手ではない。ゆえに戦闘中における高速思考が必要な場面においては、通常時よりもギロチン操作のパフォーマンスががくりと落ちる。
炎から逃げる。ルカの拘束を解く。できれば忍者も助ける。この3つを同時に叶えようとして、しかし操作を誤ればルカの首がぽろりと落ちる。
ゆえにレイネは決断をした。
「……グッドラック……!」
「こ、この悪役令嬢ーーーー!」
その通りだが、とレイネが思った瞬間だ。
「迎撃します。当方、さしあたっては会話を望んでいますもので」
謎の少女が立ち上がり、迫る炎を殴り飛ばした。
》
謎の少女が右手につけていた白の手袋が焼け落ち、その中に収められていた銀色の拳が、正しく炎球を殴打した。
人のものではない。フレームと外殻、その間に満ちる繊維質な人口筋肉は、それが機械のものであることを示している。
速い、とレイネは思う。空気を叩く乾いた音が下水道に満ち、次の瞬間には巨大な炎球はちりぢりに砕けてその残滓を残すのみとなっていた。
グーラが言う。
「……あの炎は魔法によるものだ。『燃やす』という概念そのもの。それを殴って砕くとは……」
「難しいんですの?」
「というより、何かしらの仕掛けがない限りはたとえ迎撃したとしても『こちらも燃える』。私とルカは魔法でそれをどうにかしていた」
「……今のはどう見てもただ殴っただけでしたのよね?」
「まあ、色々とやりようはあるんだが……」
それに対し、謎の少女が答えた。
「回答します。今のは純粋にパワーによるものです。記録照合。拳が音速を越えれば触れずとも魔法の迎撃が可能なのは、実証済みです」
「音速越えたらもう少し周りに被害が出そうなものだが」
「……訂正します。なんというか音速に近いというかほぼ越えたようなものというか」
「何のプライドですの?」
「抗議します。当方、機械ですのでプライドや感情といったものはございません」
「機械?」
そう言って疑問したレイネに対し、謎の少女が答える。
「肯定します。当方はアルガー社製4000系、メイド式自動人形『有賀峰』。固体名をキキール・タルヴォスと申します。……皆様を驚かせてしまったことに関してはお詫びします。ですが当方、あくまで対話を望んでおりますことあご理解いただきたく。ゆえに」
キキール、と名乗った少女は、向こう、聖女たちの方を向く。
「召還します。魔法使い、シェイン・マカトリス。ちょっとこちらへ来てください」
「え? え? なんですか?」
「宣言します。まずは……杖と腕を折ります。当方さきほどの攻撃、少々びっくりしましたもので」
……超感情ありませんの?
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