異世界に転生してもおっさんは聖人にはなれない。

田島久護

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1章

カ・ケ・ヒ・キ2018

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 エルフの村を出て取りあえずがむしゃらに走る。
自然豊かなのが嫌というほど解る位に変わらない。
エルフ時間で実は半日とかそういうレベルで次の村が
あるんじゃなかろうかと疑ってしまう。

 ただここで気付いた事は、俺の体力が全く減っていない
という事だ。これは素晴らしい特典だ。
後輩のご高説が確かなら、俺は今この世界一強いという事だ。
何をしても敵う者なし。絶対無敵ってことか。
まだほぼほぼ何もしてないので実感が無いけどな。

 無心でそのまま走り続けていると、

「己人間!体力が尽きる事が無いのか!?」

 と聞こえてきた。さっきのジジイだ。

「俺に聞くな。それよりとっとと俺を出さないと、
お前らを滅ぼすがそれでも良いのか?」

 俺はマジトーンでどこかで聞いてるであろう
ジジイに尋ねる。やっていいなら腕試しがてらやるが。

「アンタが俺の芝居を見抜いたのはお見事。だがあんな猿芝居ばれた所で
何て事は無い。寧ろ解りやすいじゃないか」
「何?」
「何じゃない。あの子が無事過ごせるかどうかだ。俺にとっちゃアンタたち
なんてどうだっていい。恩を返す。その為の取引だ」
「お前をすんなり外へ出してあの娘を無事暮らせるようにするのが望か」
「俺はお前たちが嫌いだ。力試しに絶滅させてやっても
本当に構わないのさ。だが黙って出て行ってやるって言ってるんだ。
アンタたちには良い取引だと思うがね。それともエルフの里滅亡を掛けて
一か八か無尽蔵の体力を誇る俺とやりあうか?
女子供にジジイババアが多めで、兵士なんて
そんな見当たらなかったと思うがな」

 取り合えず少ない時間で得た情報と、俺の体力に驚いて声を掛けてきた事を
更に上乗せして最後のひと押しをしてみる。ホントエルフも大概強欲だな。

「……そうか。少しの滞在でそこまで気付くとはな。
お主ただものじゃなさそうじゃな」

 大分間があってからそうジジイはしょんぼりしたように言った。
俺はジジイがしょんぼりしても萌えたりしないんだがな。
後輩はきっと萌えるだろうが。

「お主あの娘の両親が掟を破った事は知っておろう?」
「聞いた。内容までは知らんが」
「その話を聞いてみるか?」
「知らん」
「話を聞いて解決できればあの娘は平穏無事に生きていられる」
「……言葉を選んでそれを言ったんだなジジイ……」

 俺は走る足を止め、身を翻す。敵は本能寺にありだ。

「そうじゃ。それが真実よ。来るが良い人間如きに
我らエルフが滅ぼせるものならな!」
「おもしれぇ……!やってやるぜ!」

 俺は元来た道を引き返す。
敢えて戦いたいと望むんだったらやってやるより他無い。
しかしなんか乗せられてる気がしないでもない。
ただ今のところこの世界の事を知る事以外に目的は無いから良いか。

「ホント早いなぁ」

 あっという間に元の村に戻ってきた。
さっきはもっと走ったと思うんだがな。

「良く戻ってきたな人間の小僧よ」

 さっき放り投げたジジイが先の方で一人で仁王立ちしていた。
ただ俺が放り投げた所為なのか、服がボロボロになっている。

「きったね……」

 ついつい本音が出てしまう。
それを聞いたジジイは手に火の球を出して俺に放り投げてきた。
俺は興味本位で手で薙いでみると、ジジイから貰った篭手が優秀なのか
火の球をジジイに打ち返してしまった。

「ぬぉあ」

 ジジイは汚い悲鳴を上げながら避けた。
ただし左側の髪と髭が焦げとるがな。

「きさん!!!」

 目をかっぴらいて俺を見ながら髪と髭を触って確認した後、
わなわなと震え叫び、俺に対して火の球を更に追加で投げてきた。
俺は特に力も入れずに薙いで打ち返す。ジジイは徐々に汗だくで
へろへろとしてきた。何しとんねん。
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