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第二章・アイゼンリウト騒乱編
第37話 アイゼンリウトに巣食う闇
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「王子、残念賞だったわね。筋書き通りなら、貴方を傀儡にして生贄の儀式を続けようと思ったけど、無理になってしまったの」
「そうねイーリス姉さま。まさかあんなオジサンがこの世界に現れるなんてね」
「そう神の悪戯でしょうね。規格外の者と剣。それに対抗する手段を私達は持ち得ていない。所詮私達もこの世界のルールに縛られた存在だもの」
「でもね残念王子、そのルールを破る方法があるの」
「な、何を言っている」
唐突に表れた女性魔族二人の言葉が理解出来ず、更には彼女たちの引き連れた魔族に味方が虐殺されるのを目の当たりにし、恐怖に慄き怯みながらそれを言うのが精一杯の王子。
彼に対してイーリスとアリスは顔を見合わせた後、目を瞑りながら小さく笑った。これから束の間の楽しいショーが始まる。その主役のうちの一人である王子に少しだけネタバラシをしたらどんな顔をするか。
興奮を抑えながらゆっくりと味わうように伝えよう。そう決めて口を開く。
「冥土の土産よ。生贄の儀式を伝えたのは我らの同胞。お前は人と我らの混血。先代は肉体を強く継承し、今代は」
「魔族としての本能を強く継承した。そして人と魔族の混血という少しルールと違う器に人の命と魂の生贄を注ぎ込めば」
「父上が……!?」
「良いわぁ絶望に満ちた表情は非常にそそるわぁ」
王子は何か心当たりでもあるのか疑いもせず目を見開き二歩後ろに下がる。まぁ生まれてから色々と小さなネタバラシを重ねて来たからこれくらいの驚きは当然と魔族の二人は想いながらも、アリスは我慢出来ずに恍惚とした表情を見せてしまう。
イーリスはまだまだあるので堪えつつ話を続けた。
「本当にうっとりしちゃう。お前の父親は無能ではないのよ。魔族として生贄を集め、自らの力として蓄えていた。昼は私達は動き辛い。人の血が混じれば更にね。先代の魅了にかかった宰相は抵抗力がある程度あったから下僕には出来なかったの。でもね、それを巧く使えば国を維持しつつ効率良く生贄を取り続けられるという方法を取ったの。実に狡猾」
「ええ、素晴らしいわ。魔族と人の悪の部分が増幅された者。それがお前たちの父親。そしてそこへ今から更に、お前達全ての命と魂を加えれば」
「世界のルールから逸脱出来て、規格外に対抗する手段は完成を見る。規格外さえ排除してしまえば、神の手駒は無くなる」
「用は加減の問題なのよ残念王子。減らし過ぎず増やし過ぎなければ、神すら手を出せない。何しろ私達にも神はいるのだから」
「神が手を出せば魔神も手を出す。そうなれば神々の黄昏が起きる」
「神々の黄昏が起きればこの世界は破滅する。再構築を余儀なくされる。それは大変なことなのよ」
「あの規格外のおじさんの元居た世界でも神々の黄昏は訪れ、一度世界は死んだ。再構築の結果、人と獣以外を排除して均衡を保った」
「ここはその神々の黄昏から弾かれたもので成り立っている世界なの」
人間や獣人たちが家畜を飼育するように、魔族もまた飼育していた。それを一番するのに安全で適当なのは、国を人の姿で治め適当な恐怖と安全を与え、互いにいがみ合い疑い合い憎み合わせ、治める人間への疑いを向けさせない。
更には宰相と言う悪役に適した男も用意した。このままこの国は何処にも行くこともなく、ただ魔族の食糧庫として存在し続ける……筈だった。
この世界の者ではない男が竜を解き放ち、その手に不可思議な武器を持ち現れた。家畜の鎖を砕くかのように男は動き始める。止めるには計画を早める他無い。
魔族も腹が減るのだから。
「意味が解らないぞ、貴様ら」
「意味を解る必要は無いのよ残念王子、これは生贄をより完璧にする為混乱させて家畜のようにする為の言葉」
先ほどから理解が追い付かないものの女だと思って甘く見たのか震えが止まっている。
何処までも愚かな王子だ。女だからと油断してくれるような者ほど扱い易い存在は無い。男は色々使って滅ぼすが、女は美のみで国を亡ぼせる。傾城傾国という故事成語を知らないのだろう。
何とも愚かで何とも愛おしい。その最後の叫びも声もどれだけ潤してくれるのかと思うと堪らない。イーリスもアリスも優しい微笑みを携えてその様を見ていた。
ああ可愛い可愛い家畜の坊や……今お前を調理してあげるからね、と。
「人は自身の理解力を超える情報を与えられると、思考を停止する」
「今がその時」
姉妹の言葉が終わると、地面はいつの間にか闇に覆われていた。そしてそれは沼のように、兵士と王子を取り込んで行く。何百人という兵士の悲鳴が辺りを覆う。
魔族の住まう地、この明るく照らす大地の下で蠢くマグマ近く、灼熱と暗闇と窒息しそうな息苦しさで埋め尽くされた、地獄。
怨嗟と悪意と衝動が全ての源。それこそが魔族の術。あらゆるものを飲み込みその地へと誘わん。
「良いわぁ純粋な恐怖と怨嗟しかない。希望を抱く思考の余地もない。完璧な生贄よ」
「姉さま、王に直接流しこむ?」
―まだ困る。まだ早い―
「いいえ、少しずつ与えて行く。どうやら役立たずは破れ、剣は覚醒した。共倒れを狙う為に、引き付けなくてはね」
「あの役立たずは喋らないでしょう?」
―そう、もう役立たずの処分方法は決めてある。奴は手ずから処分する―
「喋らないでしょうね。でも必要ないわ。あのオジサン勘が良いもの。ねぇ?」
イーリスは何処かへ視線を投げ妖艶に微笑む。
―良い娘だイーリス。全ては我が元へ。これは全て決まっている。この世界に降り立った時に私のすべき仕事は―
「でもそうね。それだと芸が無いわ。アリス、道案内をお願い出来るかしら」
「喜んで。お姉さま」
アリスは羽根を広げると、地面から足を離し、宙へ浮かぶ。
―愚かな娘アリスよ。御前もまた餌の一つ。今は思うように行くが良い。最後の時まであともう少し―
暗い城のある一室で男は微笑む。何の因果かこんな世界に降り立ち力を得た。あらゆる者を凌駕する存在であるにも関わらず弱点がある。それを埋める為にはこのシステムの運用は絶対だ。
名実ともにこの世界の覇者となる為にはまだ足りない。
「多少遊んでも良いわよ。その間にじっくりと王へ注ぎ込んで、パーティの準備をしておくから」
「有難うお姉さま」
アリスは嬉しそうに飛び立った。その後ろ姿を見た後
「さて結末はどんなものになるかしら。出来れば阿鼻叫喚絵図が見られると良いのだけどね」
イーリスはそうほほ笑むと、地面の中へと沈んで行った。不敵な笑みを浮かべながら。
「そうねイーリス姉さま。まさかあんなオジサンがこの世界に現れるなんてね」
「そう神の悪戯でしょうね。規格外の者と剣。それに対抗する手段を私達は持ち得ていない。所詮私達もこの世界のルールに縛られた存在だもの」
「でもね残念王子、そのルールを破る方法があるの」
「な、何を言っている」
唐突に表れた女性魔族二人の言葉が理解出来ず、更には彼女たちの引き連れた魔族に味方が虐殺されるのを目の当たりにし、恐怖に慄き怯みながらそれを言うのが精一杯の王子。
彼に対してイーリスとアリスは顔を見合わせた後、目を瞑りながら小さく笑った。これから束の間の楽しいショーが始まる。その主役のうちの一人である王子に少しだけネタバラシをしたらどんな顔をするか。
興奮を抑えながらゆっくりと味わうように伝えよう。そう決めて口を開く。
「冥土の土産よ。生贄の儀式を伝えたのは我らの同胞。お前は人と我らの混血。先代は肉体を強く継承し、今代は」
「魔族としての本能を強く継承した。そして人と魔族の混血という少しルールと違う器に人の命と魂の生贄を注ぎ込めば」
「父上が……!?」
「良いわぁ絶望に満ちた表情は非常にそそるわぁ」
王子は何か心当たりでもあるのか疑いもせず目を見開き二歩後ろに下がる。まぁ生まれてから色々と小さなネタバラシを重ねて来たからこれくらいの驚きは当然と魔族の二人は想いながらも、アリスは我慢出来ずに恍惚とした表情を見せてしまう。
イーリスはまだまだあるので堪えつつ話を続けた。
「本当にうっとりしちゃう。お前の父親は無能ではないのよ。魔族として生贄を集め、自らの力として蓄えていた。昼は私達は動き辛い。人の血が混じれば更にね。先代の魅了にかかった宰相は抵抗力がある程度あったから下僕には出来なかったの。でもね、それを巧く使えば国を維持しつつ効率良く生贄を取り続けられるという方法を取ったの。実に狡猾」
「ええ、素晴らしいわ。魔族と人の悪の部分が増幅された者。それがお前たちの父親。そしてそこへ今から更に、お前達全ての命と魂を加えれば」
「世界のルールから逸脱出来て、規格外に対抗する手段は完成を見る。規格外さえ排除してしまえば、神の手駒は無くなる」
「用は加減の問題なのよ残念王子。減らし過ぎず増やし過ぎなければ、神すら手を出せない。何しろ私達にも神はいるのだから」
「神が手を出せば魔神も手を出す。そうなれば神々の黄昏が起きる」
「神々の黄昏が起きればこの世界は破滅する。再構築を余儀なくされる。それは大変なことなのよ」
「あの規格外のおじさんの元居た世界でも神々の黄昏は訪れ、一度世界は死んだ。再構築の結果、人と獣以外を排除して均衡を保った」
「ここはその神々の黄昏から弾かれたもので成り立っている世界なの」
人間や獣人たちが家畜を飼育するように、魔族もまた飼育していた。それを一番するのに安全で適当なのは、国を人の姿で治め適当な恐怖と安全を与え、互いにいがみ合い疑い合い憎み合わせ、治める人間への疑いを向けさせない。
更には宰相と言う悪役に適した男も用意した。このままこの国は何処にも行くこともなく、ただ魔族の食糧庫として存在し続ける……筈だった。
この世界の者ではない男が竜を解き放ち、その手に不可思議な武器を持ち現れた。家畜の鎖を砕くかのように男は動き始める。止めるには計画を早める他無い。
魔族も腹が減るのだから。
「意味が解らないぞ、貴様ら」
「意味を解る必要は無いのよ残念王子、これは生贄をより完璧にする為混乱させて家畜のようにする為の言葉」
先ほどから理解が追い付かないものの女だと思って甘く見たのか震えが止まっている。
何処までも愚かな王子だ。女だからと油断してくれるような者ほど扱い易い存在は無い。男は色々使って滅ぼすが、女は美のみで国を亡ぼせる。傾城傾国という故事成語を知らないのだろう。
何とも愚かで何とも愛おしい。その最後の叫びも声もどれだけ潤してくれるのかと思うと堪らない。イーリスもアリスも優しい微笑みを携えてその様を見ていた。
ああ可愛い可愛い家畜の坊や……今お前を調理してあげるからね、と。
「人は自身の理解力を超える情報を与えられると、思考を停止する」
「今がその時」
姉妹の言葉が終わると、地面はいつの間にか闇に覆われていた。そしてそれは沼のように、兵士と王子を取り込んで行く。何百人という兵士の悲鳴が辺りを覆う。
魔族の住まう地、この明るく照らす大地の下で蠢くマグマ近く、灼熱と暗闇と窒息しそうな息苦しさで埋め尽くされた、地獄。
怨嗟と悪意と衝動が全ての源。それこそが魔族の術。あらゆるものを飲み込みその地へと誘わん。
「良いわぁ純粋な恐怖と怨嗟しかない。希望を抱く思考の余地もない。完璧な生贄よ」
「姉さま、王に直接流しこむ?」
―まだ困る。まだ早い―
「いいえ、少しずつ与えて行く。どうやら役立たずは破れ、剣は覚醒した。共倒れを狙う為に、引き付けなくてはね」
「あの役立たずは喋らないでしょう?」
―そう、もう役立たずの処分方法は決めてある。奴は手ずから処分する―
「喋らないでしょうね。でも必要ないわ。あのオジサン勘が良いもの。ねぇ?」
イーリスは何処かへ視線を投げ妖艶に微笑む。
―良い娘だイーリス。全ては我が元へ。これは全て決まっている。この世界に降り立った時に私のすべき仕事は―
「でもそうね。それだと芸が無いわ。アリス、道案内をお願い出来るかしら」
「喜んで。お姉さま」
アリスは羽根を広げると、地面から足を離し、宙へ浮かぶ。
―愚かな娘アリスよ。御前もまた餌の一つ。今は思うように行くが良い。最後の時まであともう少し―
暗い城のある一室で男は微笑む。何の因果かこんな世界に降り立ち力を得た。あらゆる者を凌駕する存在であるにも関わらず弱点がある。それを埋める為にはこのシステムの運用は絶対だ。
名実ともにこの世界の覇者となる為にはまだ足りない。
「多少遊んでも良いわよ。その間にじっくりと王へ注ぎ込んで、パーティの準備をしておくから」
「有難うお姉さま」
アリスは嬉しそうに飛び立った。その後ろ姿を見た後
「さて結末はどんなものになるかしら。出来れば阿鼻叫喚絵図が見られると良いのだけどね」
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