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荒行 美緒

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8話

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「!」
ば、とアルバが後ろ――屋敷の方を見たのにつられそちらを見れば、力がウェスタへと向かって来た。
既にアルバの視線はその力を捕え、しかし手は出さずに傍観する。
「なんだ?」
目前からはアーガレスが、横からは力が押し寄せる。
スピードは互角、どちらもウェスタより速い。
じり、と半歩、右足を引く。
魔力の処理は何時もの様に任せ、アーガレスにだけ集中する。
アーガレスの魔力も一人で処理しなければならないのはキツイが、得体の知れない魔力の方はウェスタでは処理出来ない。
「それに対処は不要よ!」
響いた声は、アルバ。
ちら、と一瞬だけ見れば笑みを携え珍しい物を見たと喜んでいる。両横を守る護衛も、手出しする様子がない事からその通りに、と内からの声に頷く。
「我が剣に宿る水の精、迫る炎を防げ!」
「は! 下級が!」
剣から溢れた水が間に壁を作る。
が、それを鼻で笑い、アーガレスに怯みはない。
ドン! と炎と水が衝突する。
水蒸気が辺りに溢れ、視界が白くなるも、ひゅ、と振られたアーガレスの一振りで粉砕する。
黒い軍服に一切の汚れはなく、動いた事によって髪が僅かに乱れた程度のアーガレスに反し、水の壁を盾代わりに直撃をいなしたウェスタは、離れた場まで飛んでいた。
「これは……?」
「それまで!」
思った以上に離れた距離に困惑したウェスタに、アルバがアーガレスを止めた。
舌打ちで返事をし、剣から炎を消し納める。
「久しぶりに祝福術を見たわね。茶桜は良い祝福者になるでしょう。もっとも」
アルバはふい、と茶桜達に宛がった部屋を見上げ、ウェスタへと向き直る。
「選択は教えなければならないでしょうが。水精霊を召喚したウェスタに、風の祝福を与えたのですからね」
こちらへ、と手招くアルバに駆け寄ろうとすれば、飛ぶように体が動き、体に遊ばれる様にアルバの目前へ倒れ込む。
自身の体が自身の体と感じる事が出来ずに思わず手を握り、開きと繰り返すも、その動きに違和感はない。
ならば足が、と折り曲げて見るも違和感はなかった。
「祝福を受けたの。茶桜はウェスタに風の祝福を与えた」
もう意味はわかるでしょう、と問う声はウェスタの中へ落ちる。
そうか、とウェスタは立ち上がり、砂埃を軽く払った。
「風の精霊が動きを助けているんですね」
そうですよ、とアルバが一つ頷き歩きだす。
それにまず続いたのは、傍らに立つ青い衣服の少年がその後ろへ付いた。
ウェルメリオが顎でウェスタを呼び、アーガレスと並び立つ様にして追う。
王宮としての役目を持つこの場所は広い。
髪も、目も、肌も、何もかもが白いアルバに合わせるかのようにここ、イヴァルトゥルトンの王宮は白を基調とし、建物もまた白かった。
白の中、青、赤、黒、と色が動くのは良く目立つ。
ゆら、と木々の影から時折動物達が現れ消える。
王宮の警備を行う動物達は一様に影で移動を行うため、どこからでも気紛れに現れる。
にゅ、と顔を出した犬が構ってほしいと言う様に尻尾を振る。
「ブレッサーは、技の強化を専門とすると思われているけれど、本来は祝福を与える者。もちろん、技を祝福すれば強化になるけれど、幸あれ、と祝福すれば相手に幸運が運ばれる。わかりやすいのは技の強化だけれど、それは一面でしかないの。統一戦争で殆どが戦死してしまったと聞いているから、昔程の技術が伝承されてはいないけれど、統一戦争では脅威だった」
天使が得意とした技なのよ、と付け足したアルバに天使を知らぬウェスタは何と答えれば良いのか判らず、ただ頷いた。
「時間があれば、エルゲティーさんの元を訪れるのもいいかもしれないわ。ブレッサーの技を知る天使は、エルゲティーさんと共にいる方々で最後だから」
さらさらと揺れる髪を眺め、わかりました、と答えればカエレノムがその様に、軽く礼を取った。
「大婆様、質問しても?」
ウェルメリオが声をかければ、何、と振り返る事はないが答えたアルバに礼を述べ、ウェルメリオは腰に携える剣を握った。
「シュリは天使の血を持つ者を操れます。エルゲティー様も天使のはずですが、その様な場へウェスタ達が行くのは危険ではありませんか?」
「勉強不足だぞ、ロッソ。シュリが操れるのは、シュリの子孫だけだ」
呆れた、とアーガレスに言われ不服そうな顏をしたウェルメリオだが、直ぐに自身の知識のなさを恥じるように謝った。
いいのよ、とアルバはむしろそれで良いと僅かに眉を下げ笑う。
「シュリの血が入った天使潜伏期間中の病に侵されている様な者だもの。厳しいくらいでいいのよ」
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