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6話 魔法の実技訓練
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(アルト視点)
学園生活が始まって数日。
俺は、父との約束通り「勉強」に集中していた。
この学園の講義レベルは、低く正直言って退屈だった。魔法理論も歴史学も、前世の知識と父の教えで詰め込んだ俺の「知識」に比べれば、浅いと言わざるを得ない。
だが、それでいい。俺は講義にだけ期待していたのでは無い。
旧寮と講義室と図書館を往復するだけの日々。誰にも干渉されず、誰にも注目されない。
(……完璧だ。これ以上ないほど平穏なモブ生活だ)
このまま三年間、静かに独学で勉強をし知識を蓄えて卒業する。それが俺の望みだ。
そんなある日、魔法理論の講義の終わりに、教師が告げた。
「――諸君。明日は、いよいよ最初の魔法実技訓練を行う」
教室がざわめいた。
女子生徒たちは「どんな魔法を使おうかしら」と目を輝かせ、男子生徒たちは諦めの表情を浮かべている。
だが、俺だけは別の意味で冷や汗をかいていた。
(実技訓練……だと?)
最悪の響きだ。
理論ならいくらでも手を抜ける。だが「実技」となれば、何らかの形で魔力を見られる可能性がある。
この世界の常識では、男の魔力はあっても僅かだ。
もし、魔力測定器のようなものに触れさせられたら?
俺の無限の魔力を「ゼロ」に見せかけるのは、超高等な魔力制御が必要になる。
(……面倒なことにならなければいいが)
そして、実技訓練の当日。
だだっ広い訓練場には、新入生全員が集められていた。
訓練は、女子生徒と男子生徒で明確に分かれている。
女子生徒たちは、訓練場の中心で「ファイアボール!」など的《まと》に向かって華やかな魔法を披露している。それを、他の女子生徒や教師が称賛する。
一方、男子生徒は……。
「はい、男子生徒諸君は、いつも通り魔力測定器に触れ、その後、あちらで訓練でもしていなさい」
教師の覇気のない声に、男子生徒たちがぞろぞろと列を作る。
俺は……最悪だ、やっぱりあるのか、と、一番後ろに並んだ。
測定器は、教壇に置かれた何の変哲もない水晶玉だった。
一人ずつ、男子生徒が水晶に触れていく。
僅かな淡い光が光った男たちは大喜びをしているが、そんなものは俺にとって魔力が無いも同然だ。
「はい、次」「はい、次」と、流れ作業のように進んでいく。
「次、アルト・フォン・キルシュヴァッサー」
とうとう順番が回って来た。俺は、ため息を隠しながら前に出た。
その瞬間、なぜか訓練場の空気が変わった。
(……なんだ?)
推薦入学者だからか、それとも旧寮住まいの変人として見られているのか、とにかくみんなの目が俺に集まっている。
俺は、全ての視線を無視し、水晶玉に集中した。
大丈夫だ。魔力を『無』に抑え込む……。魔力を身体の中心に僅かの検出も出来ないレベルにまで圧縮するんだ……。
俺は、細心の注意を払いながら、ゆっくりと水晶に指を触れた。
全身全霊で、魔力の奔流を抑え込む。
いける……! 制御できてる……! これなら――。
その時だった。
「おい、いつまで触っているんだ、そこの推薦入学の男」
聞き覚えのある、ねっとりとした声。
レオナルドが、腕を組んで俺を嘲笑して来た。
「男にほぼ魔力がないことくらい、分かりきっているだろう。お前一人のせいで、訓練が滞っているんだが?」
その意地の悪い声に、一瞬だけ、俺の集中力が切れた。
パァンッ!
俺が触れていた水晶玉が、一瞬、眩いばかりの閃光を放った。
訓練場が、水を打ったように静まり返る。
「「「「…………え?」」」」
全員の視線が、水晶玉に突き刺さる。
光自体は、女子生徒が放つ『ファイアボール』などに比べれば、大したことはない。
だが、問題はそこではなかった。
「ば、馬鹿なッ!?」
教師が慌てて水晶玉に駆け寄る。
「い、今の光は何だ! 男の魔力量で、一瞬測定器が振り切れるほど光るなんて!?」
「おい、見たか?」
「イカサマか?」
男子生徒たちがざわめき、女子生徒たちもありえないわ……、と眉をひそめている。
最悪だ……! やってしまった……!
俺は内心で頭を抱えた。目立ちたくなかったのに、これ以上ない最悪の形で目立ってしまった。
レオナルドが一転、疑わしげな目で俺を睨みつけた。
「き、貴様、何をした!?」
「いえ、触れただけですが……。たぶん、静電気か何かでは?」
俺が苦し紛れにごまかすと、教師は混乱しながらも水晶玉を検分し始めた。
「……いや、待て。魔力反応は……ゼロだ。今も、何の反応もない……。……水晶の老朽化、か? そうだ、きっと老朽化による誤作動だ!」
教師は無理やりそう結論付け、俺を睨みつけた。
「……チッ。紛らわしいことをするな! さっさと魔道具を清掃して来い!」
俺は「すみません」と頭を下げ、足早にその場を離れた。
……助かった。故障扱いで何とかなったか。
だが、背中に突き刺さるような視線はまだ消えない。
平穏無事なモブ生活に、早くもヒビが入った瞬間だった。
俺は、気づかなかった。
訓練場の片隅にある観覧席から、ただならぬ視線が注がれていることになど。
(リリアーナ視点)
中等部から進学組の私たちのクラスは訓練場の片隅、魔法による遮光ガラスで覆われた席に座って新入生の様子を見ていた。
レオナルドの挨拶も、他の生徒の稚拙な魔法も、どうでもいい。
私が見たいのは、列の最後尾で気配を消しているアルトだけ。
そして、その瞬間は訪れた。
パァンッ! という音と共に弾けた、白銀の閃光。
周囲は「誤作動」と騒いだが、私の心は震えていた。
(……間違いないわ)
肌を撫でるような、懐かしくて温かい魔力の余波。
十年前、あの森で砕けた私の体を繋ぎ止めてくれた、あの奇跡の光と同じ。
「……素晴らしいわ」
私は手で熱くなる目頭を押さえた。
歓喜で、指先が震える。
やはり、私の子供の頃の記憶は偽りではなかった。
「……アルト、やはりあなただけは他のものとは違うのね」
私は、彼が去っていった出口を見つめ、静かに、しかし強く誓った。
どんな妨害にあっても絶対、アルトのお嫁さんになるのだと……。
学園生活が始まって数日。
俺は、父との約束通り「勉強」に集中していた。
この学園の講義レベルは、低く正直言って退屈だった。魔法理論も歴史学も、前世の知識と父の教えで詰め込んだ俺の「知識」に比べれば、浅いと言わざるを得ない。
だが、それでいい。俺は講義にだけ期待していたのでは無い。
旧寮と講義室と図書館を往復するだけの日々。誰にも干渉されず、誰にも注目されない。
(……完璧だ。これ以上ないほど平穏なモブ生活だ)
このまま三年間、静かに独学で勉強をし知識を蓄えて卒業する。それが俺の望みだ。
そんなある日、魔法理論の講義の終わりに、教師が告げた。
「――諸君。明日は、いよいよ最初の魔法実技訓練を行う」
教室がざわめいた。
女子生徒たちは「どんな魔法を使おうかしら」と目を輝かせ、男子生徒たちは諦めの表情を浮かべている。
だが、俺だけは別の意味で冷や汗をかいていた。
(実技訓練……だと?)
最悪の響きだ。
理論ならいくらでも手を抜ける。だが「実技」となれば、何らかの形で魔力を見られる可能性がある。
この世界の常識では、男の魔力はあっても僅かだ。
もし、魔力測定器のようなものに触れさせられたら?
俺の無限の魔力を「ゼロ」に見せかけるのは、超高等な魔力制御が必要になる。
(……面倒なことにならなければいいが)
そして、実技訓練の当日。
だだっ広い訓練場には、新入生全員が集められていた。
訓練は、女子生徒と男子生徒で明確に分かれている。
女子生徒たちは、訓練場の中心で「ファイアボール!」など的《まと》に向かって華やかな魔法を披露している。それを、他の女子生徒や教師が称賛する。
一方、男子生徒は……。
「はい、男子生徒諸君は、いつも通り魔力測定器に触れ、その後、あちらで訓練でもしていなさい」
教師の覇気のない声に、男子生徒たちがぞろぞろと列を作る。
俺は……最悪だ、やっぱりあるのか、と、一番後ろに並んだ。
測定器は、教壇に置かれた何の変哲もない水晶玉だった。
一人ずつ、男子生徒が水晶に触れていく。
僅かな淡い光が光った男たちは大喜びをしているが、そんなものは俺にとって魔力が無いも同然だ。
「はい、次」「はい、次」と、流れ作業のように進んでいく。
「次、アルト・フォン・キルシュヴァッサー」
とうとう順番が回って来た。俺は、ため息を隠しながら前に出た。
その瞬間、なぜか訓練場の空気が変わった。
(……なんだ?)
推薦入学者だからか、それとも旧寮住まいの変人として見られているのか、とにかくみんなの目が俺に集まっている。
俺は、全ての視線を無視し、水晶玉に集中した。
大丈夫だ。魔力を『無』に抑え込む……。魔力を身体の中心に僅かの検出も出来ないレベルにまで圧縮するんだ……。
俺は、細心の注意を払いながら、ゆっくりと水晶に指を触れた。
全身全霊で、魔力の奔流を抑え込む。
いける……! 制御できてる……! これなら――。
その時だった。
「おい、いつまで触っているんだ、そこの推薦入学の男」
聞き覚えのある、ねっとりとした声。
レオナルドが、腕を組んで俺を嘲笑して来た。
「男にほぼ魔力がないことくらい、分かりきっているだろう。お前一人のせいで、訓練が滞っているんだが?」
その意地の悪い声に、一瞬だけ、俺の集中力が切れた。
パァンッ!
俺が触れていた水晶玉が、一瞬、眩いばかりの閃光を放った。
訓練場が、水を打ったように静まり返る。
「「「「…………え?」」」」
全員の視線が、水晶玉に突き刺さる。
光自体は、女子生徒が放つ『ファイアボール』などに比べれば、大したことはない。
だが、問題はそこではなかった。
「ば、馬鹿なッ!?」
教師が慌てて水晶玉に駆け寄る。
「い、今の光は何だ! 男の魔力量で、一瞬測定器が振り切れるほど光るなんて!?」
「おい、見たか?」
「イカサマか?」
男子生徒たちがざわめき、女子生徒たちもありえないわ……、と眉をひそめている。
最悪だ……! やってしまった……!
俺は内心で頭を抱えた。目立ちたくなかったのに、これ以上ない最悪の形で目立ってしまった。
レオナルドが一転、疑わしげな目で俺を睨みつけた。
「き、貴様、何をした!?」
「いえ、触れただけですが……。たぶん、静電気か何かでは?」
俺が苦し紛れにごまかすと、教師は混乱しながらも水晶玉を検分し始めた。
「……いや、待て。魔力反応は……ゼロだ。今も、何の反応もない……。……水晶の老朽化、か? そうだ、きっと老朽化による誤作動だ!」
教師は無理やりそう結論付け、俺を睨みつけた。
「……チッ。紛らわしいことをするな! さっさと魔道具を清掃して来い!」
俺は「すみません」と頭を下げ、足早にその場を離れた。
……助かった。故障扱いで何とかなったか。
だが、背中に突き刺さるような視線はまだ消えない。
平穏無事なモブ生活に、早くもヒビが入った瞬間だった。
俺は、気づかなかった。
訓練場の片隅にある観覧席から、ただならぬ視線が注がれていることになど。
(リリアーナ視点)
中等部から進学組の私たちのクラスは訓練場の片隅、魔法による遮光ガラスで覆われた席に座って新入生の様子を見ていた。
レオナルドの挨拶も、他の生徒の稚拙な魔法も、どうでもいい。
私が見たいのは、列の最後尾で気配を消しているアルトだけ。
そして、その瞬間は訪れた。
パァンッ! という音と共に弾けた、白銀の閃光。
周囲は「誤作動」と騒いだが、私の心は震えていた。
(……間違いないわ)
肌を撫でるような、懐かしくて温かい魔力の余波。
十年前、あの森で砕けた私の体を繋ぎ止めてくれた、あの奇跡の光と同じ。
「……素晴らしいわ」
私は手で熱くなる目頭を押さえた。
歓喜で、指先が震える。
やはり、私の子供の頃の記憶は偽りではなかった。
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