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#04 永遠と刹那と零 ―動かない人―
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「ツナちゃん、Tシャツ着替えちゃったんだ?」
「あれ着てカレーで汚したらヤバいよレイちゃん」
「そう? だいじょぶでしょ黒いTシャツだし」
「だめだめ! あれク◯ムハーツだよ。高いんだよあれ」
どうやらさっきまでツナが着ていたパパからの贈り物、エプロンで見えなかったけどク◯ムハーツなのか。そりゃカレーで汚したら勿体無いよね。ママはそのへん解ってないみたいで、ツナがスマホで検索したサイトを見せられて、その値段にちょっとだけビビっている。
「っていうかもらってもいいのかなあんな高いの」
「いいんじゃない? パパが勝手に送ってるだけだし。そもそもツナにジャストサイズなら、私もママも着られないよ」
「そうよツナちゃん。あれはツナちゃん用なんだし、遠慮しないの。着た写真をパパに送ればきっと喜ぶし。パパのために着てあげて」
「……はい! 了解であります!」
私が着たら丈がおかしなことになっちゃうし、ママも私以上に身長が高くて168cmもあるから、どう考えても153cmのツナにジャストサイズのTシャツが着られるわけもない。
Tシャツのことはさて置き、やっぱりママの作る『神代カレー(ツナ命名)』は抜群に美味しい。気づけばはやくもおかわりを自分で用意するツナ。もはやこの家の住人レベルで振る舞っているのがいつ見ても面白い。というか食べ過ぎでしょ。そんな小さい体のどこにカレーが収まっているのかな。あ、胸か。
「そういえば永遠、『動かない人』って知ってる?」
「『動かない人』? なにそれ?」
カレースプーンを魔法少女よろしくくるりと回しながら、ツナが妙なことを言い出す。『動かない人』? 蝋人形とかそういうのかな?
「私もクラスメイトから聞いただけで見たことないんだけどさ」
と言いながら、クラスメイトに送ってもらったと言う画像を見せてもらう。
そこには、最寄駅近くの大きい公園の噴水の傍でサムズアップをした、顔だけ白塗りのピエロっぽい人物が写っている。ただ服装はどこから見ても普通の格好で、顔だけがピエロっぽいという、随分と違和感のある格好に思えた。
『動かない人』って言っても、そもそもこれ静止画なんだけど。動画はないの? と聞くと、そもそも動かないんだから動画もなにもないじゃん、と首を横に振る。
それまで静かにカレーを食べていたママがどれどれとツナのスマホを覗き込むと、思わぬ情報を零した。
「あ……これ悠くんかも」
「「ゆうくん?」」
ハモる私たちのハテナにママは続ける。
「ママの中学の後輩、というか幼馴染の子なんだけど。緑鳥ちゃんっているでしょ?」
「あー、『キッチンリトルガーデン』の綺麗な人、でしょ?」
「そうそう。でね、二ヶ月くらい前かなぁ。緑鳥ちゃんから電話があってね。『弟がうちに居候することになったから今度連れてく』って言って、一ヶ月くらい前に家に来たの」
「そうなんだ。でもレイちゃん、この画像でなんでわかるの? 顔真っ白だよ?」
ツナの疑問ももっともだと思う。顔が真っ白だと、そのゆうくんだとは限らないよね? ママはどこでこの人物がゆうくんだと判断したの?
「よく画像見てみ? 髪の毛」
そう言うママに従うように画像をピンチするツナが、お? と目を剥いた。
「うわ、髪の毛まで白いじゃん」
「そうなのよ。悠くんがうちに来た時、ママびっくりしちゃってさ。聞いたんだよ悠くんに。『それってブリーチ?』って。そしたらさ、『数年前からどんどん増えてほぼ白髪になりました』って言うの」
「白髪ってことは結構年上だったり?」
「いや、今年で22歳って言ってた」
「「えー!」」
22歳でほぼ白髪? 数年前ってことは、私たちの年には白髪になり始めたってこと?
「でさ、ママも聞いたんだよ。『染めないの?』って。そしたら『これが丁度いいので染めません』って」
「あ、だからピエロみたいに白く塗っても違和感がないから『丁度いい』んだ」
「そういうことみたいよ。自分でもそういう『動かないパフォーマンス』を趣味でしてるって言ってたし」
ん? ここで私はひとつ疑問が浮かんだ。どうやらツナも同じことを思ってたらしく、私が聞きたいことをママに言った。
「趣味、ってことはこれ仕事じゃないんだ?」
「『人間観察』がしたいからやってるんだって」
なるほど。確かにパフォーマンス、ましてや動かないそれなら通行人をいくらでも観察できるもんね。よく考えるなぁと妙に感心した。私も人間観察はよくする(絵を描くためにね)んだけど、ここまではできないよ。無理。
おかわりもペロリとたいらげたツナが「私も本人を見てみたい」と言うと、毎週土曜の13時辺りに同じ場所でやっているとママが教えてくれた。
「えー。見に行くの? なんか怖くない?」
「大丈夫だよ永遠。白く塗ってるだけのお兄さんじゃん」
「でも来週はツナの行きたいところに行く番だけどいいの?」
「いいよ。だって行きたいところがそこになったんだもん」
ツナが良ければ私はそれに付き従うしかないけど、一応怖いと言った手前、渋々了承した。
「あれ着てカレーで汚したらヤバいよレイちゃん」
「そう? だいじょぶでしょ黒いTシャツだし」
「だめだめ! あれク◯ムハーツだよ。高いんだよあれ」
どうやらさっきまでツナが着ていたパパからの贈り物、エプロンで見えなかったけどク◯ムハーツなのか。そりゃカレーで汚したら勿体無いよね。ママはそのへん解ってないみたいで、ツナがスマホで検索したサイトを見せられて、その値段にちょっとだけビビっている。
「っていうかもらってもいいのかなあんな高いの」
「いいんじゃない? パパが勝手に送ってるだけだし。そもそもツナにジャストサイズなら、私もママも着られないよ」
「そうよツナちゃん。あれはツナちゃん用なんだし、遠慮しないの。着た写真をパパに送ればきっと喜ぶし。パパのために着てあげて」
「……はい! 了解であります!」
私が着たら丈がおかしなことになっちゃうし、ママも私以上に身長が高くて168cmもあるから、どう考えても153cmのツナにジャストサイズのTシャツが着られるわけもない。
Tシャツのことはさて置き、やっぱりママの作る『神代カレー(ツナ命名)』は抜群に美味しい。気づけばはやくもおかわりを自分で用意するツナ。もはやこの家の住人レベルで振る舞っているのがいつ見ても面白い。というか食べ過ぎでしょ。そんな小さい体のどこにカレーが収まっているのかな。あ、胸か。
「そういえば永遠、『動かない人』って知ってる?」
「『動かない人』? なにそれ?」
カレースプーンを魔法少女よろしくくるりと回しながら、ツナが妙なことを言い出す。『動かない人』? 蝋人形とかそういうのかな?
「私もクラスメイトから聞いただけで見たことないんだけどさ」
と言いながら、クラスメイトに送ってもらったと言う画像を見せてもらう。
そこには、最寄駅近くの大きい公園の噴水の傍でサムズアップをした、顔だけ白塗りのピエロっぽい人物が写っている。ただ服装はどこから見ても普通の格好で、顔だけがピエロっぽいという、随分と違和感のある格好に思えた。
『動かない人』って言っても、そもそもこれ静止画なんだけど。動画はないの? と聞くと、そもそも動かないんだから動画もなにもないじゃん、と首を横に振る。
それまで静かにカレーを食べていたママがどれどれとツナのスマホを覗き込むと、思わぬ情報を零した。
「あ……これ悠くんかも」
「「ゆうくん?」」
ハモる私たちのハテナにママは続ける。
「ママの中学の後輩、というか幼馴染の子なんだけど。緑鳥ちゃんっているでしょ?」
「あー、『キッチンリトルガーデン』の綺麗な人、でしょ?」
「そうそう。でね、二ヶ月くらい前かなぁ。緑鳥ちゃんから電話があってね。『弟がうちに居候することになったから今度連れてく』って言って、一ヶ月くらい前に家に来たの」
「そうなんだ。でもレイちゃん、この画像でなんでわかるの? 顔真っ白だよ?」
ツナの疑問ももっともだと思う。顔が真っ白だと、そのゆうくんだとは限らないよね? ママはどこでこの人物がゆうくんだと判断したの?
「よく画像見てみ? 髪の毛」
そう言うママに従うように画像をピンチするツナが、お? と目を剥いた。
「うわ、髪の毛まで白いじゃん」
「そうなのよ。悠くんがうちに来た時、ママびっくりしちゃってさ。聞いたんだよ悠くんに。『それってブリーチ?』って。そしたらさ、『数年前からどんどん増えてほぼ白髪になりました』って言うの」
「白髪ってことは結構年上だったり?」
「いや、今年で22歳って言ってた」
「「えー!」」
22歳でほぼ白髪? 数年前ってことは、私たちの年には白髪になり始めたってこと?
「でさ、ママも聞いたんだよ。『染めないの?』って。そしたら『これが丁度いいので染めません』って」
「あ、だからピエロみたいに白く塗っても違和感がないから『丁度いい』んだ」
「そういうことみたいよ。自分でもそういう『動かないパフォーマンス』を趣味でしてるって言ってたし」
ん? ここで私はひとつ疑問が浮かんだ。どうやらツナも同じことを思ってたらしく、私が聞きたいことをママに言った。
「趣味、ってことはこれ仕事じゃないんだ?」
「『人間観察』がしたいからやってるんだって」
なるほど。確かにパフォーマンス、ましてや動かないそれなら通行人をいくらでも観察できるもんね。よく考えるなぁと妙に感心した。私も人間観察はよくする(絵を描くためにね)んだけど、ここまではできないよ。無理。
おかわりもペロリとたいらげたツナが「私も本人を見てみたい」と言うと、毎週土曜の13時辺りに同じ場所でやっているとママが教えてくれた。
「えー。見に行くの? なんか怖くない?」
「大丈夫だよ永遠。白く塗ってるだけのお兄さんじゃん」
「でも来週はツナの行きたいところに行く番だけどいいの?」
「いいよ。だって行きたいところがそこになったんだもん」
ツナが良ければ私はそれに付き従うしかないけど、一応怖いと言った手前、渋々了承した。
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