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#33 永遠と庸子 ―DEAD BEAR―
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「このハンバーガー、お肉がジューシーで美味しい! バンズも香ばしいしチーズも濃厚。永遠さんと同じのにして正解ね」
「良かった、気に入ってもらえて。ほかにも――」
少し遅め――今は午後一時半――の昼食を二人で楽しむ。
自分の好きなものを気に入ってもらえるってやっぱり嬉しい。このハンバーガーは、私が小さい頃からある、いわゆる『街の小さなバーガーショップ』の一押しメニューで、足繁く通っていた私は今や常連待遇。いつもなにかしらのオマケをしてくれる。ちなみに今日のオマケはチーズマシマシだった。
「そういえばツナちゃんはいつ来るの?」
「んー、どうだろ。いつもフラッと来るし、おやつの時間あたりには来るんじゃないかなぁ」
「結構適当なのね……」
まぁ、時間を守らないといけない予定もないし、そもそも何時に来るとも聞いていないから、こう答えるしかできないんだよね。
「ま、まぁいつものことだから気にしないで」
「うん、なんかツナちゃんらしいね」
普段この家は私とママ、つまり二人しかいないんだけど、同じ二人でも私とヨーコさんという組み合わせ、実は今もちょっと緊張してる。やっぱり『二人きり』だから、かな。
学校だと、二人とはいっても教室にはクラスメイトが誰かしらいるから、今みたいな『閉鎖空間に二人きり』っていう状況は初めてで、無意識に滲み出るどきまぎが隠せない。
と、たぶんそんな私の狼狽ぶりに気付いてくれたのか、彼女は両手をパン! と鳴らして、
「ねぇ永遠さん。ツナちゃんが『好きなものを持ち寄って見せっこしよう』って言ってたじゃない? 私、いくつか持ってきたんだけど……見ない?」
「うん! 私もそれ楽しみにしてたんだ。じゃあ、私の部屋行こっか?」
ナイス助け舟ですヨーコさん! さっそく私たちは私の部屋へと向かうんだけど、実はツナとコーちゃん以外のお友達を部屋に招くの、初めてなんだよね……。部屋、片付いてたっけと考える暇もなく部屋のドアの前。意図せずごくりと喉が鳴る。
「じゃ、じゃあ……どうぞ入ってください、ヨーコさん……」
「なんで永遠さんが緊張してるの?」
「だって……ツナとコーちゃん以外のお友達が入るの初めて……なんだもんっ」
「っ! そ、そうなの!? いいの? 私が入っても」
そんなのいいに決まってるよ、お友達だもん。別に見られてやましいモノなんか一切ないし……ないよね?
よし! と心の中で気合を入れて、扉を開けてヨーコさんを招き入れた。
「わぁ……これが永遠さんの部屋……って広いのねやっぱり」
ツナの自宅の部屋もコーちゃんの部屋も行ったことあるけど、私の部屋が確かに一番広いから、気づいたら『家で遊ぶ=私の家で遊ぶ』が慣例となっていた。だから小さい頃はいっつもここで遊んだり勉強してた。
「モノが少ないから広いだけだよ? あ、ちなみにそこはツナの部屋なの」
「えっ? ツナちゃんの部屋? どういうこと?」
二人の目線の先にあるのは、二つ並びになったウォークインクローゼット。その左側、つまり部屋に入ってすぐ左のクローゼットがツナの部屋、というか勝手にツナが部屋にしちゃったんだよ。
三畳くらいあるクローゼットには、ツナの服やよくわからないおもちゃという名のガラクタ(としか私には見えない)、そして小さい丸いローテーブルがひとつ。小さな三段作りの『ツナちゃんタンス』、そして灯り取り用のLEDランタンがある。その上、ご丁寧にクローゼットの扉には『ツナのへや』って書かれた表札までぶら下がっている。
「なんか気づいたら部屋にされちゃってて。でも、私の服は右のクローゼットに収まっちゃうし、不便じゃないからいいかな、って」
「それってもう、仲がいいとかそういうの飛び越えちゃってるよね?」
「うーん……わかんない……あ、食べ物は持ち込まないでって言ってるのに」
ほんとツナは私が目を離すとお菓子とか持ち込んじゃうから困った子だ。まぁ今回は開いてないポテチとクッキー缶だけだから許してあげよう。
「とりあえず座ろっか? 今クッション用意するね」
二人分のクッションをクローゼットから出して、ガラスのローテーブルに向かい合って座る。ヨーコさんは自分のバッグを探って、宝物でも見つけたようにそれをゆっくり取り出した。
「これ、聴いたことある?」
差し出されたそれは一枚のCD。ぱっと見、見たことないジャケットだから、たぶん家にはないんじゃないかな。
そのジャケットは雰囲気あるモノクロの写真。レンガ造りの壁の建物に革ジャンを着た男性がもたれかかっていて、その前をブレた数人が歩いている、というものなんだけど。これ、よく見ると――
「これって、ジョ◯・レノン?」
「そう! さすが永遠さん!」
随分と若い頃なんだろうけど、顔は変わらずジョ○・レノンそのもの。
ここからヨーコさんの追撃が始まる。
「これ、ハンブルグツアーの時に撮影されたものだから、ごく初期の写真でね、そのブレてる人物も、ポー◯・マッカートニーとジョー◯・ハリスン、あとはスチュアー◯・サトクリフなの。あ、スチュアー◯っていうのは『五番目のビー◯ルズ』って言われてる人でね、残念ながら脳出血で亡くなってしまったんだけど、すごくイケメンのベーシストさんだったんだよ。で、それを受けてそれまでギターだったポー◯がベースに転向したの。あとね――」
とんでもない熱量で語り続けるヨーコさんを、私は止めずに聞き続け大きな相槌で応酬するんだけど、その熱は決して熱いものじゃなく暖かく感じた。
「で、このアルバムは、ジョ◯が好きなオールディーズナンバーをカバーしたソロアルバムなの。永遠さん、時々学校で古い曲を聴かせてくれたじゃない? だからこれ好きなんじゃないかって思って持ってきたんだけど……どうかな?」
うーん。どうかな? って唐突に聞かれて考える。だって聴いたことがないものを「いい」なんて言うのは誠実じゃないよね。
「あのね、実はこの部屋ってCD……音楽聴く環境がないの。でも、隣の部屋なら聴けるからそっちで聴きたいな」
「あ……確かにこのお部屋、CDプレーヤーとかないね。というか、永遠さんあれは?」
その視線の先を振り返ると、私の身長と同じくらいのガラスのディスプレイラックがある。そこには私が地道にコレクションしてる『デッドベア』グッズが飾られているのだ。
『デッドベア』っていうのは『グレイトフ◯・デッド』っていうアメリカの古いバンドで、いまだにカルト的な人気があるらしい。ただ、私はこのバンドについてはあまり知らない。というのも、たまたま見つけた『デッドベア』のぬいぐるみが可愛くて、買ってはみたもののその正体がわからず、後日『グレイトフ◯・デッド』ってバンドのキャラクターってわかったから。つまりバンドが後追いってわけ。
このバンドにはいくつかのキャラクターがいて、他にも亀さんとか赤い薔薇の冠を被った骸骨とか。その中でもこのデッドベアは突出して可愛く、バンドは二の次(ファンの皆様申し訳ない)で、私は虜にされちゃった。
さてこのラックの中には、ぬいぐるみがメインで、そのほかにもマグカップとかミニカーとかクッキージャー、こまごまとした缶バッヂとかステッカーを仕舞ってあるファイルとか。変わったところだと哺乳瓶、なんていうものが収蔵してある。
「このクマのキャラクターグッズ、好きで集めてるんだ。あのね――」
そう言いながら、ゆっくりとその扉を開けて、一体のぬいぐるみを取り出した。
「良かった、気に入ってもらえて。ほかにも――」
少し遅め――今は午後一時半――の昼食を二人で楽しむ。
自分の好きなものを気に入ってもらえるってやっぱり嬉しい。このハンバーガーは、私が小さい頃からある、いわゆる『街の小さなバーガーショップ』の一押しメニューで、足繁く通っていた私は今や常連待遇。いつもなにかしらのオマケをしてくれる。ちなみに今日のオマケはチーズマシマシだった。
「そういえばツナちゃんはいつ来るの?」
「んー、どうだろ。いつもフラッと来るし、おやつの時間あたりには来るんじゃないかなぁ」
「結構適当なのね……」
まぁ、時間を守らないといけない予定もないし、そもそも何時に来るとも聞いていないから、こう答えるしかできないんだよね。
「ま、まぁいつものことだから気にしないで」
「うん、なんかツナちゃんらしいね」
普段この家は私とママ、つまり二人しかいないんだけど、同じ二人でも私とヨーコさんという組み合わせ、実は今もちょっと緊張してる。やっぱり『二人きり』だから、かな。
学校だと、二人とはいっても教室にはクラスメイトが誰かしらいるから、今みたいな『閉鎖空間に二人きり』っていう状況は初めてで、無意識に滲み出るどきまぎが隠せない。
と、たぶんそんな私の狼狽ぶりに気付いてくれたのか、彼女は両手をパン! と鳴らして、
「ねぇ永遠さん。ツナちゃんが『好きなものを持ち寄って見せっこしよう』って言ってたじゃない? 私、いくつか持ってきたんだけど……見ない?」
「うん! 私もそれ楽しみにしてたんだ。じゃあ、私の部屋行こっか?」
ナイス助け舟ですヨーコさん! さっそく私たちは私の部屋へと向かうんだけど、実はツナとコーちゃん以外のお友達を部屋に招くの、初めてなんだよね……。部屋、片付いてたっけと考える暇もなく部屋のドアの前。意図せずごくりと喉が鳴る。
「じゃ、じゃあ……どうぞ入ってください、ヨーコさん……」
「なんで永遠さんが緊張してるの?」
「だって……ツナとコーちゃん以外のお友達が入るの初めて……なんだもんっ」
「っ! そ、そうなの!? いいの? 私が入っても」
そんなのいいに決まってるよ、お友達だもん。別に見られてやましいモノなんか一切ないし……ないよね?
よし! と心の中で気合を入れて、扉を開けてヨーコさんを招き入れた。
「わぁ……これが永遠さんの部屋……って広いのねやっぱり」
ツナの自宅の部屋もコーちゃんの部屋も行ったことあるけど、私の部屋が確かに一番広いから、気づいたら『家で遊ぶ=私の家で遊ぶ』が慣例となっていた。だから小さい頃はいっつもここで遊んだり勉強してた。
「モノが少ないから広いだけだよ? あ、ちなみにそこはツナの部屋なの」
「えっ? ツナちゃんの部屋? どういうこと?」
二人の目線の先にあるのは、二つ並びになったウォークインクローゼット。その左側、つまり部屋に入ってすぐ左のクローゼットがツナの部屋、というか勝手にツナが部屋にしちゃったんだよ。
三畳くらいあるクローゼットには、ツナの服やよくわからないおもちゃという名のガラクタ(としか私には見えない)、そして小さい丸いローテーブルがひとつ。小さな三段作りの『ツナちゃんタンス』、そして灯り取り用のLEDランタンがある。その上、ご丁寧にクローゼットの扉には『ツナのへや』って書かれた表札までぶら下がっている。
「なんか気づいたら部屋にされちゃってて。でも、私の服は右のクローゼットに収まっちゃうし、不便じゃないからいいかな、って」
「それってもう、仲がいいとかそういうの飛び越えちゃってるよね?」
「うーん……わかんない……あ、食べ物は持ち込まないでって言ってるのに」
ほんとツナは私が目を離すとお菓子とか持ち込んじゃうから困った子だ。まぁ今回は開いてないポテチとクッキー缶だけだから許してあげよう。
「とりあえず座ろっか? 今クッション用意するね」
二人分のクッションをクローゼットから出して、ガラスのローテーブルに向かい合って座る。ヨーコさんは自分のバッグを探って、宝物でも見つけたようにそれをゆっくり取り出した。
「これ、聴いたことある?」
差し出されたそれは一枚のCD。ぱっと見、見たことないジャケットだから、たぶん家にはないんじゃないかな。
そのジャケットは雰囲気あるモノクロの写真。レンガ造りの壁の建物に革ジャンを着た男性がもたれかかっていて、その前をブレた数人が歩いている、というものなんだけど。これ、よく見ると――
「これって、ジョ◯・レノン?」
「そう! さすが永遠さん!」
随分と若い頃なんだろうけど、顔は変わらずジョ○・レノンそのもの。
ここからヨーコさんの追撃が始まる。
「これ、ハンブルグツアーの時に撮影されたものだから、ごく初期の写真でね、そのブレてる人物も、ポー◯・マッカートニーとジョー◯・ハリスン、あとはスチュアー◯・サトクリフなの。あ、スチュアー◯っていうのは『五番目のビー◯ルズ』って言われてる人でね、残念ながら脳出血で亡くなってしまったんだけど、すごくイケメンのベーシストさんだったんだよ。で、それを受けてそれまでギターだったポー◯がベースに転向したの。あとね――」
とんでもない熱量で語り続けるヨーコさんを、私は止めずに聞き続け大きな相槌で応酬するんだけど、その熱は決して熱いものじゃなく暖かく感じた。
「で、このアルバムは、ジョ◯が好きなオールディーズナンバーをカバーしたソロアルバムなの。永遠さん、時々学校で古い曲を聴かせてくれたじゃない? だからこれ好きなんじゃないかって思って持ってきたんだけど……どうかな?」
うーん。どうかな? って唐突に聞かれて考える。だって聴いたことがないものを「いい」なんて言うのは誠実じゃないよね。
「あのね、実はこの部屋ってCD……音楽聴く環境がないの。でも、隣の部屋なら聴けるからそっちで聴きたいな」
「あ……確かにこのお部屋、CDプレーヤーとかないね。というか、永遠さんあれは?」
その視線の先を振り返ると、私の身長と同じくらいのガラスのディスプレイラックがある。そこには私が地道にコレクションしてる『デッドベア』グッズが飾られているのだ。
『デッドベア』っていうのは『グレイトフ◯・デッド』っていうアメリカの古いバンドで、いまだにカルト的な人気があるらしい。ただ、私はこのバンドについてはあまり知らない。というのも、たまたま見つけた『デッドベア』のぬいぐるみが可愛くて、買ってはみたもののその正体がわからず、後日『グレイトフ◯・デッド』ってバンドのキャラクターってわかったから。つまりバンドが後追いってわけ。
このバンドにはいくつかのキャラクターがいて、他にも亀さんとか赤い薔薇の冠を被った骸骨とか。その中でもこのデッドベアは突出して可愛く、バンドは二の次(ファンの皆様申し訳ない)で、私は虜にされちゃった。
さてこのラックの中には、ぬいぐるみがメインで、そのほかにもマグカップとかミニカーとかクッキージャー、こまごまとした缶バッヂとかステッカーを仕舞ってあるファイルとか。変わったところだと哺乳瓶、なんていうものが収蔵してある。
「このクマのキャラクターグッズ、好きで集めてるんだ。あのね――」
そう言いながら、ゆっくりとその扉を開けて、一体のぬいぐるみを取り出した。
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