「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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第3章 ヒロイン登場

第17話「ベルンハルトは失望する」

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 【悲報】第二ヒロインが男になってました。
 オレの(じゃないけど)可愛いエステルは……妹系ヒロインはどこに……。

 ――いや【朗報】でしょ。男が増えたんだよ?

 井上さんうるさい。だいたい貴女、“一棒一穴主義受に対して攻は一人“を標榜してたでしょう。

 ――いや、それはあくまでも心の話だから。肉体カラダは別だよ。

 出たな、その肉体と書いてカラダと読むやつ……!!

 ――誰を受け入れようがどんなに汚れようがかまわぬ。最後に攻めの横におればよい!!

 拳王の名言を汚すな……。


「お久しぶりです、エステル様」

 呆気にとられるオレをかばうように、グレンはエステルの前に歩み出る。

「あんた、誰だっけ?」

「ベルンハルト様のお父上――ミルザム伯爵と懇意にさせていただいているアルナイル男爵の長子、グレンです。エステル様とは小さい頃にお会いしたのですが……まあ、覚えていなくても無理はありませんね。貴方はロニー様の後ろに隠れてばかりいらしたので……」

 グレンの言葉にエステルはぐっと眉をしかめ、それから嘲りの笑みをより深くした。

「ああ……思い出した。あんたアレか――“アルナイルの忌み子“」

 ……は?

「まだその人に付きまとってたんだ。よく飽きないね」

「飽きる飽きないの話ではありませんよ。貴方には理解できないでしょうけどね」

 グレンとエステルはばちばちと睨み合い、嫌味の応酬を繰り広げている。
 なんか因縁とかあんの?

 でも、そんなことより――。

 いまこいつグレンを――オレの考えた最強のヒーローを侮辱しやがった!!!

 
 チート主人公っていうのは、覚醒後は基本的には誰からも貶されないんだよ! ずっと褒められて、強い敵が出てきても余裕で……!!
 
 最初は胸糞展開でも、そのあとはずっとスカッとしてないとダメだ。そう決まってる。だから――。

 小物悪役はオレ一人で十分だ。お前は引っ込んでろ。

 
「エステル・シャウラ」

 シーツから這い出た。
 まだ少し目が回りそうになるのを堪えて、グレンとエステルの間に割り込む。

「撤回しろ。こいつは――オレの物なんだよ。お前如きにオレの所有物を貶す権利があるとでも?」

 下から睨み付けても、エステルは笑みを崩さない。グレンに対して以上に、オレのことを侮っているらしい。
 
「でも事実でしょう? そこの男が“魔王の瞳“を持って生まれた忌まわしい存在であるのは!」

 エステルの笑い声が部屋中に響く。
 ああ……オレの可愛いエステルが、こんな、出てくるタイミングを間違った空気の読めない不要なヘイト役になるなんて。

 よし、消そう。

 指先を、歪んだ口元に突きつけて――彼と同じように醜く微笑む。

「【予言オラクルム】――」

 そのときになってようやく、エステルが怯んだ。

 まさか、オレが――廃嫡寸前の負け犬が、抵抗するなんて思っていなかったのだろう。

 そうだよ、オレはグレンの人生の引き立て役だ。
 でも、お前はそれ以下!
 
 お前なんかなぁ……その辺のモブなんだよ!!
 
 そんな思いを込めて、口を開く。
 告げる内容は何でもいい。消えろでも、羽虫に変われでも。

「――っ、やめろ、ベル!」

 それを、グレンに止められた。
 オレの口元までも覆うように、強く抱きしめられる。

「貴方が、そんなことをする必要はありません」

 ――黙れ。邪魔するな!

 激情に思考が揺れる。息が獣のように荒くなった。
 

 オレはお前の為じゃなく、オレのためにこいつを……殺さないといけない。
 
 だって、オレのせいで、オレは――!

「はっ……あ、っ」

 上手く息ができない。酸素を吸っているのか吐いているのかわからなくなって、苦しい。

「ベル、ベルンハルト……大丈夫。俺は、こんな男の言葉なんかどうだっていい。俺が愛してるのは貴方だけ。俺が大切なのは貴方だけ――だから、俺を傷付けることができるのも、貴方だけです」

 グレンがゆっくりとオレの背をさすり、酷く優しい声で囁く。

 ――オレ、だけ。

「グレン……」

「ね? 俺はもう……貴方以外からは、なにも受け入れないと決めているんです。貴方にだけ捧げるし、貴方だけを受け入れます。貴方だけがオレの全てです」


 グレンの言葉は重い。
 真っ直ぐで、逃げ場がなくて――嘘がない。

 だから……オレはお前が怖いんだ。



 ◇



 抱き上げられ、再度ベッドに寝かされた。
 ああ、情けない。怒ることもろくにできないなんて。

「……エステル様。いつまでここにいるつもりですか?」

 グレンはいつもオレに語りかけるときの甘さなど微塵も含んでいない鋭い声で、部屋の入り口で立ちすくんだままのエステルへ問う。

「っ、うるさいなぁ! 言われなくても出てくよ。気持ち悪い……男同士でベタベタしやがって……っ!」

 こいつまじで小物だなぁ……。

 
 ――攻めとしては役不足だったね。でも、スピンオフで受けになるタイプの小物だよねぇ。

 井上さん最近よく出てくるね。
 役不足って意味違うよ……こんなやつに需要あんの?

 ――細かいね赤谷くん。あるある。こういうプライドだけ高くて、実力はそうでもない、顔が良いキャラはモブおじさんのアイドルだから。

 ちょっと上級者向けすぎて単語がよくわからん。モブおじさんってなんだ……いや、理解できるけどしたくないんで説明は要らないです。

 ――赤谷くんに読ませてたのは基本的に「男同士なんて気持ち悪い」とか外野が言ってこない優しい世界のやつばっかりだったからねぇ。初めて会うタイプのキャラでびっくりしたよね~大丈夫?

 うん、大丈夫。いや、こんなにずっとイマジナリー井上さんと会話し続けてる時点で頭はどこかしら打ってるかもしれないけどさ。

 さっきも自然にグレンのこと、しょ、“所有物“とか口走っちゃったし……。オレ、まじでなんかおかしい。
 人はみな本人だけのものだよ……あと他人のことを物扱いしたらダメだからね。


「ああ、そうだ。ベルンハルト様。伯爵様から伝言――“目が覚めたら私の部屋にこい“って」

 エステルはそう言うと、ドアノブに手をかける。

 ……え。

 あの父親生きてんの???
 時期的にもう死んでてもおかしくないんだけどな……なんかやっぱり……これって。

「ま、その分だとまだしばらく無理そうだけど。繊細なのは相変わらずですね――っ痛」

「あ、ごめん」

 最後まで小物臭い捨て台詞を吐いて出て行こうとしたエステルが、彼とよく似た男とぶつかる。

「随分と騒がしかったから様子を見にきたんだけど……お邪魔だったかな?」

 ――ロニー・ミルザム。

 エステルの双子の弟。ベルンハルトの代わりにミルザム伯爵になることが決まっている男だ。


 ……『追放皇帝』の中だと。
 彼はエステル思いで、ベルンハルト元従兄弟の義兄のことも別に嫌ってはいない。そんな特にこれといった特徴のない人物だったはずだが……エステル第二ヒロインだもんなぁ。


「……ロニー」

 警戒したままその名を呼ぶ。
 ロニーは微笑んだ。

「お久しぶりです。お元気そうで何より――お義兄様にいさま

 エステルとそっくりな、歪んだ笑顔だった。


 ……やっぱこいつもダメか。

 イマジナリー井上さんが「……ロニー×エステルかな……」とか呟いていたが、もう無視した。
 ちょっとわかってしまった自分が嫌だったのだ。傾向的にこの二人は弟×兄だよな……。
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