「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

文字の大きさ
23 / 93
第4章 モンスター襲来

第23話「ベルンハルトと皇帝の弱点」

しおりを挟む
「さっさと答えんかニンゲン! おぬしは何ゆえわしの名を知っておるのじゃ」

 猫ちゃんの肉球がぺちぺちとオレの頬を叩いてくる。ご褒美……。

 ……いやあのね、オレ。何回も言うけどそんな場合じゃないよ。

 どう言うことだ? スピカは……ヒロインたちは、オレの創った物語の中にしか存在しないはずじゃなかったのか……??
 
「うーん……」

 わからん。そもそもスピカ以外にも、『追放皇帝』と類似した部分は多いわけだし、考えても無駄か。

 とりあえず今は、スピカにオレが無害な存在であるとアピールしなければ。
 
 彼女は魔王の手下。
 下手したらこの場で殺されかねない――いや、グレンがバリア張ってくれてるから大丈夫だと思うけど、一応ね。

「えーっと……その、あれ。夢で見たことがあって」

「夢?」

 猫ちゃん、もといスピカは怪訝な目でオレを見上げてきた。

「そうそう……夢で女神様が神託を授けてくださったんだ」

 ね~あるあるですよねぇ~と言う顔でサラッと告げてみる。

「ほう……では、あの妙な独り言もその女神とやらの指示か?」

 あー……あー……どれのこと言ってる? え、はじき計算の辺りからじゃないよね??

「……そう。め、女神様は仰りました。――“雨の降りそうな日に水辺で独話をせよ。さすれば魔王の眷属がそなたのもとへ舞い降りるだろう“と」

「ほーん……」

 どうにか納得してくれ……!! 頼む……!!!

「ま、いいじゃろ。わしが魔王様の眷属なことも知っていてその態度……敵ではなさそうじゃしな」

 よし、通った……!!

「そうそう。ね、スピカちゃ……スピカさん? とりあえず屋敷の中に入らないか。濡れてるし」

「ん、おお。いいぞ。わしをもてなす権利をやろう」

 スピカは高慢に言い放つ。
 でも猫は可愛いので全部許されます。はー可愛い……毛が乾いたらもっとふわふわだろうな……素敵……。



 ◇◇◇



「ベル」

 部屋に戻るとグレンもおつかいから帰ってきていたようで、にこやかに出迎えてくれた。

「あ、おかえり。ありがとう……どうだった?」

「ベル。先になにか言うことは?」

 ……ん? なんか“圧“をかけてきてる……??

 え~~こいつの怒りポイントけっこうわかってきたつもりだったんだけどなぁ。これはわからん。

「言うこと……お、お手を煩わせて申し訳ございま」

「違います。――それは?」

 それ、とグレンの長い指が示すのはスピカ。オレの腕に大人しく抱かれている美猫だ。

「それ呼ばわりはちょっと……グレン。この猫ちゃ……いや、この方は魔王の眷属だ」

「魔王の……?」

 グレンはまじまじとスピカを見つめる。
 スピカもじっと、彼女と同じ黄金の瞳を見つめ返した。

「モンスターの類いは貴方に触れないようにしてあるはずなんですが……これ、どこで拾ったんですか」

「これじゃなくてスピカさんな。えっと……湖の近くの、茂みの中」

「おかしい。半径五キロ以内のモンスターは消滅させておいたのに」

 消滅て……。何気に怖いこと言ってるな。

「強いから死ななかったんじゃないか。とにかく、ほら……濡れてるからタオル取ってくる」

「ちょっと……!! ベル!!」

 グレンに引き止められる前に、と後退り部屋から出ようと。

「待ってください」

 したけど失敗しました……。
 お前、縮地も使えるのか……三メートルぐらい離れてたよな?

 まじで人間ばなれしてるね、グレンくん。

「タオルって……え? その獣を、貴方が手ずから拭いてあげるつもりですか??」

 獣……まあ獣には違いないか。
 
「いやだって濡れてるし」

「俺はそんなことしてもらったことないのに?」

「お前濡れてないじゃん。それに手があるだろ……」

 まじかぁ……。
 信じ難いことに、グレンにとっては猫(型のもの)も嫉妬対象らしい。

「というか、ベル。貴方……もしかしてその獣を飼う気でいるんじゃないでしょうね?」

「飼うっていうかさ、さっきも言ったようにスピカさんは魔王の眷属だから……っ」

 てか、スピカはなんでこんな色々言われても怒んないわけ??
 彼女はオレとグレンがぎゃーぎゃーやってる間もグレンをひたすら見つめ続けているだけだ。

「ペットならもう俺がいるじゃないですか!」

「だから! スピカはペットじゃな……え、お前オレのペットだっけ」

 いや、大型犬だとは思ってたけど。冗談で馬扱いしたけど。え、あれまだ継続??

「そうですが? オレは貴方の犬ですし、馬です。望むなら猫にだってなりますよ」

「なんなくていいです……あー……タオルで拭いてあげるのがダメなら、お前の魔法で乾かしてあげて」

「そんな泥棒猫、雨の中に転がしとけばよかったのに……まったく貴方は優しすぎる……」

 ぶつぶつ言いながらもグレンはすぐにスピカに魔法をかけてくれる。
 毛が乾いて、予想通りふわふわだ。

「わ~……ふわふわもふもふ……スピカさん、ちょっと撫でさせていただいても?」

「ベル。野良猫は汚いんですよ。あまり触るものじゃありません。ほら!」

「あっ!!」

 腕の中からスピカをつまみ上げられた。

 可愛いふわふわ生物をそんな乱暴に……!! いや、魔獣だから大丈夫なのか??

「はぁ……で? お前は魔王の手下なんだな? なんの目的でこの屋敷に侵入したんだ」

 首の後ろをつまみ上げたまま尋問が始まる。
 可哀想……いや、猫の正しい持ち方ってあれでいいんだっけ。

「おぬし……いや、貴方様は……」

 ずっと黙り込んだままだったスピカが、ようやく口を開いた。

 あ。これってまさか……。

 
「なんと強く美しい魔力……!! 貴方様こそ、我が主に相応しい!!」

 スピカは短い前足を合わせて、高い声でグレンを――いや、“皇帝“を褒め称えた。

 やっぱこうなるわけね……。

 拾ったのオレ! 助けたのもオレなのになぁ!! 
 なつくのか、オレ以外の奴に……。

「は? あるじ?? お前の主人は魔王なんだろ。忠義立てしたなら最期まで通せ」

「わしもそうしたいのは山々だったんですじゃ……ですが、魔王様は亡くなられてしもうて……」

 ――魔王が死んでる?

「で? 主人が死んだなら、配下であるお前も死ぬべきではないのか」

「無論。ただわしは、魔王様に後を追うことを禁じられておりましてのう……」

 グレンくんの過激派思想は置いといて……。やっぱり、このスピカは『追放皇帝』のスピカではないらしい。

 『物語』のスピカは魔王よりも強い力を持つグレンに惹かれて魔王を裏切る。
 だが、今オレの前にいる彼女は魔王を裏切るわけではなく、次の魔王を探している様子だ。

 ……次の魔王。我が主。


「グレン様!! いや、皇帝陛下――我を貴方様の眷属にしてくだされ!!!」


 まあ、そうなるわな~……。



 ◇◇◇



 スピカを窓の外へ放り投げようとするグレンを宥め、ソファーに腰を落ち着ける。
 ……オレはグレンの膝の上に座らせられてるし、スピカは床だけど。

 もういいや。文句言ってたら話進まん……。

「まず、スピカさん。なんで貴女、グレンの【能力スキル】知ってんだ」

 ――『物語』の中では、スピカはグレンのスキルを、彼が明かすまで知らなかったはずだ。
 
 だがこの世界のスピカは、教えられるよりも先に彼を“皇帝陛下“と呼んだ。……オレの性癖の滲み出たあの呼び名でだ。
 理由をはっきりさせておかないとな……!!

「ふふーんっ! 聞いておどろけ!! わしのスキルは【知恵プルーデンス】――相手の眼を見れば、その者の持つスキルは勿論、その特性の全てがわかるのじゃ!!」

 へー……なんかすごいんだろうけど【皇帝インペラトル】に比べたら地味……いや、比べるもんじゃないか。

「たとえば、陛下のスキル【皇帝】は……存在する全てのスキルを扱える。まあ実質万能じゃな」

 そこは『物語』と一緒か。

「じゃが――弱点もある」

「え」

 弱点?? チートスキルに???

「なに、弱点って」

「おぬしに教える義理があるか?」

「――ベルの問いには三秒以内に答えろ。さもなくば俺が貴様を殺す」

 グレン、ステイステイ。
 ややこしいからしばらくお口チャック。



 ◇



 スピカの話をまとめるとこうだ。

 【皇帝】が扱えるのは、グレンが存在を認識しているスキルのみ。
 【皇帝】はグレンが心より守りたいと思う人間のために発現し、そしてその相手を守護するためにだけ用いることができる。

 ――【皇帝】のスキルを持つ人間は、愛する人間とのまぐわいを定期的に行わなければ、弱体化し死に至る。


「…………まあ、前半二つはいい。その、スピカさん」

「なんじゃ」

「まぐわい、と言うのは具体的には……?」

 いや、薄々わかってる。
 それでもオレは一縷の望みに賭けたい……!!!


 そんな願いも虚しく、スピカは淡々と言い放つ。

 
「現代風に言えばセックスじゃ」


 賭けに負けた……っ!

 
 ――ていうか、“セックスしないと死ぬ“って……!
 BLの設定かよ!!!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

転生×召喚

135
BL
大加賀秋都は生徒会メンバーに断罪されている最中に生徒会メンバーたちと異世界召喚されてしまった。 周りは生徒会メンバーの愛し子を聖女だとはやし立てている。 これはオマケの子イベント?! 既に転生して自分の立ち位置をぼんやり把握していた秋都はその場から逃げて、悠々自適な農村ライフを送ることにした―…。 主人公総受けです、ご注意ください。

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。  2026/01/09 加筆修正終了

え、待って。「おすわり」って、オレに言ったんじゃなかったの?!【Dom/Sub】

水城
BL
マジメな元体育会系Subの旗手元気(はたて・げんき、二十代公務員)は、プチ社畜。 日曜日、夕方近くに起き出して、その日初めての食事を買いに出たところで、いきなり「おすわり」の声。 身体が勝手に反応して思わずその場でKneelする旗手だったが、なんと。そのcommandは、よその家のイヌに対してのモノだった。 犬の飼い主は、美少年な中学生。旗手は成り行きで、少年から「ごほうび」のささみジャーキーまで貰ってしまう始末。 え、ちょっと待って。オレってこれからどうなっちゃうの?! な物語。 本を読まない図書館職員と本が大好きな中学生男子。勘違いな出会いとそれからの話。 完結後の投稿です。

辺境の酒場で育った少年が、美貌の伯爵にとろけるほど愛されるまで

月ノ江リオ
BL
◆ウィリアム邸でのひだまり家族な子育て編 始動。不器用な父と、懐いた子どもと愛される十五歳の青年と……な第二部追加◆断章は残酷描写があるので、ご注意ください◆ 辺境の酒場で育った十三歳の少年ノアは、八歳年上の若き伯爵ユリウスに見初められ肌を重ねる。 けれど、それは一時の戯れに過ぎなかった。 孤独を抱えた伯爵は女性関係において奔放でありながら、幼い息子を育てる父でもあった。 年齢差、身分差、そして心の距離。 不安定だった二人の関係は年月を経て、やがて蜜月へと移り変わり、交差していく想いは複雑な運命の糸をも巻き込んでいく。

わからないから、教えて ―恋知らずの天才魔術師は秀才教師に執着中

月灯
BL
【本編完結済・番外編更新中】魔術学院の真面目な新米教師・アーサーには秘密がある。かつての同級生、いまは天才魔術師として名を馳せるジルベルトに抱かれていることだ。 ……なぜジルベルトは僕なんかを相手に? 疑問は募るが、ジルベルトに想いを寄せるアーサーは、いまの関係を失いたくないあまり踏み込めずにいた。 しかしこの頃、ジルベルトの様子がどうもおかしいようで……。 気持ちに無自覚な執着攻め×真面目片想い受け イラストはキューさん(@kyu_manase3)に描いていただきました!

イケメンキングαなおじいさんと極上クィーンΩなおばあさん(男)の幸せをねたんで真似したゲスなじいさんとばあさん(男)がとんでもないことに

壱度木里乃(イッチー☆ドッキリーノ)
BL
誰もが知っている昔話の懐かしさあり、溺愛あり、禁断の主従関係ありの――BL大人の童話第2弾。 戸籍年齢と肉体年齢が見事に一致しないオメガ妻を愛するイケオジの桁外れな武勇伝です。 ※ですます調の優しい語り口でお送りしながら、容赦なくアダルトテイストです。 ※少し変わっています。 ※エンターテイメント型小説として楽しんで頂ける方向けです。 ※横書きの利点として英数字表記も併用しています。 ※美表紙はのんびり猫さん♡

聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!

竜鳴躍
BL
密かに匿われていた王子×偽物として迫害され『聖女』の力を搾取されてきた侯爵令息。 侯爵令息リリー=ホワイトは、真っ白な髪と白い肌、赤い目の美しい天使のような少年で、類まれなる癒しの力を持っている。温和な父と厳しくも優しい女侯爵の母、そして母が養子にと引き取ってきた凛々しい少年、チャーリーと4人で幸せに暮らしていた。 母が亡くなるまでは。 母が亡くなると、父は二人を血の繋がらない子として閉じ込め、使用人のように扱い始めた。 すぐに父の愛人が後妻となり娘を連れて現れ、我が物顔に侯爵家で暮らし始め、リリーの力を娘の力と偽って娘は王子の婚約者に登り詰める。 実は隣国の王子だったチャーリーを助けるために侯爵家に忍び込んでいた騎士に助けられ、二人は家から逃げて隣国へ…。 2人の幸せの始まりであり、侯爵家にいた者たちの破滅の始まりだった。

処理中です...