「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

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【番外編】バック・ステージ

シャウラの双子② ―第35話の舞台裏―

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     ―― side:エステル ――


 ――愛しい弟が悶え苦しむ様を、じっくり愉しめる特等席だ。
 

 その言葉の意味を、おれは扉にもたれかかりながら考えていた。

 
 愛しい弟だって?
 
 おれはただ、あいつがおれより上になるのが嫌だっただけだ。
 だから、あいつを引きずり落としたくて、そのせいでこんなことになってて……ぜんぶ、ぜんぶあいつが。


 そんな思考を――扉の奥から聞こえる、ロニーの悲鳴が遮った。

「……っ」

 名前を呼ぼうとして、唇を噛む。
 そうだ。あの男に、グレン・アルナイルに……絶対に声を出すなと言われた。

 破れば、彼はおれを殺すだろう。
 そこまでいかずとも、怪我を負わせるぐらいはためらわないはずだ。


 ――おれはずっとあの男が怖い。

 魔王の瞳を持っているからじゃない。
 
 あの……おれたちを、虫ケラかなにかだと思っている目が恐ろしいのだ。
 それから、そんな男を平然と傍に置いているベルンハルトも。



 ◆◇◆



 グレン・アルナイル、そしてベルンハルト・ミルザムとおれたちは歳が近いこともあり、時折大人たちに引き合わせられた。


 その度におれは、ついロニーの後ろに隠れた。……本当は、おれが弟を守らないといけなかったのに。

 ロニーはそんなおれとは対象的に、積極的に二人と話した。おれは、それを止めたくて。

「ロニー。あの二人には近づくな。確かにお父様は、ミルザム伯爵の子息と親交を深めろと言ってたけど……でも、どうでもいいだろ! いいじゃないか……これ以上の権力なんてこの家にはいらない」

 足りない頭を働かせて必死に説得した。 
 でも、ロニーはそんなおれの言葉を嘲笑った。

「……馬鹿な兄さん。兄さん、僕は……いいえ。シャウラ家は、“ミルザム“の全てを手に入れるんですよ」

 これは、そのための布石なんです。――そう言って歪な微笑みを浮かべた。



 ◆◇◆



 説得には失敗した。
 ロニーはミルザム家の子どもになった。
 そしてお父様たちはロニーにそそのかされ、無謀な計画を――ミルザムの乗っ取りを企てたのだ。


「……無理だよ、ロニー」

 本当に成功させるつもりなら、ベルンハルトが――いや、その傍らにいるあの魔王の瞳を持った男が戻ってくる前に決行するべきだった。

 罪のなすりつけができなくても、その方がまだ勝算があったんだ。

 きっとあの男は、おれが情報を漏らす前から計画の全容を知っていた。
 そうでないと説明がつかないほど、あの男の行動は素早かった。

 はじめから敵う相手ではなかったのだ。
 “アルナイルの忌み子“なんて蔑んでみても、あいつの方がずっと強いことぐらいわかっていた。


「ロニー……」
 
 いつからか忘れようとした想いが涙と一緒に溢れ出てくる。

 おれは、お父様とお母様と――ロニーと、みんなで、ただ仲良く暮らせればそれでよかったのに。

 ロニーは、昔みたいに笑わなくなって。
 おれたちみんな、処刑台に送られるかもしれなくて。

 
 ああ……おれが馬鹿じゃなかったら、ロニーを、お父様とお母様を助けれたのかな。


「…………ごめんなさい」

 嘆いてもどうにもないことはわかってるのに。
 それ以外、できることを思いつかなかった。
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