「隠れ有能主人公が勇者パーティから追放される話」(作者:オレ)の無能勇者に転生しました

湖町はの

文字の大きさ
75 / 93
【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!

第2話 異世界の聖女様

しおりを挟む
 あと少しで終わる、その言葉通り体感一時間弱でグレンは仕事を終わらせた。

「お待たせしました、ベル」

「おつかれ。クラウス様もお疲れ様でした。オレ達はこれで失礼しますね。――早く帰ろう、グレン」

 一応クラウスにも声をかけてから、グレンを急かす。

 正直、王都ここでは嫌な思いばかりしたし、いくら実体じゃないとはいえ長居はしたくないのだ。
 
「お会いできて光栄でした、ベルンハルト様。これからも貴方様のためにこの身を尽くします」

 深々と頭を下げるクラウスに、ドMとのアレやそれや謎プレイの思い出が過ぎって微妙な気持ちになりつつ、オレ達はグレンの転移魔法で王都を去っ――。


「…………っ!!!」

 去れなかった。
 
 魔法が発動するよりも先に、視界が真っ白に染まって、何も見えなくなる。

 それから、振動。
 大地が、空気が大きく揺れた。



 ◇



 光と揺れは程なくして収まったが、オレの方の混乱は中々終わらない。
 

 ――なに、いまの。

 ――ただの地震じゃない。

 ――わからない。

 怖い。
 
 
「ベルンハルト……」

 宥めるように、グレンがオレの名前を呼ぶ。

「グレ、ン……」

「大丈夫。俺が貴方を守ります」

 その言葉は、魔法だ。
 グレンが傍にいてくれる――その心強さを、幸せを、思い出させてくれる。

「うん……なぁ、さっきの、は……」

 どうにか平静を取り戻し、現状を訊ねると、グレンは首を振った。

「……わかりません。今、ベネトナシュ卿が状況を確認しに行ってくれています。――本当は、貴方だけでも家に帰したいんですが……魔法が、発動しません」

「そう、か」

 グレンにもわからない……?
 そんなことが、あるのか?

 ここは、小説に例えるならエピローグの後の世界で、後はただ平穏が続くだけの……異変が起きたってすぐにグレンやスピカが解決してくれる、そんな世界だったはずなのに。

 
 不安に震えてしまうオレに向かい、グレンは穏やかに語りかけてくれる。
 
「ごめんなさい。俺が貴方の魂をここへ呼んでしまったせいで、こんなことに巻き込んでしまって……」

 ――確かに、怖いよ。でも、オレは……。

「グレン」

 滑らかな白い手をグレンの頬へ伸ばす。

「オレは……オレのいないところで、お前がこんなよくわからない状況にいる“もしも“よりも、不安でも、怖くても“今“の方がずっと良い」

 オレは役立たずだけど、それでも。

「オレとお前はずっと傍にいるんだろ?」

「はい……ベルンハルト」

 
 グレンの顔が近付いてくる。
 てっきり次のキスは、“カエルから王子様元のからだに戻してもらうため“だと思ってたから、予想よりは少し早い。

 そんなことを考えながら目を閉じて、唇が重ねられるのを待っていたけど……。

「グレン?」

 さすがに遅くないか、と目を開けると、グレンは眉根を寄せて考え込んでいた。

「……その身体、作ったのはベネトナシュ卿なんですよね……」

「ああ、器用だよな」

「ええ…………」

 あ。なんとなくグレンが言いたいことわかったわ。

 
 いくらオレを模した姿とはいえ、“オレ以外“に――それも、オレに懸想している(グレンとは違う意味だと思うけど)クラウスが作った人形に、と思うと躊躇ってしまうんだろう。
 
 一途だなぁ。
 ちょっと面倒くさいけど……まあ、それもグレンの可愛いところだ。

 
「なら、キスは家に帰ってから――カエルを王子様に戻すためにしてくれ」

「今の貴方はどちらかと言えばお姫様ですけどね。童話に例えるなら茨姫とかの方がベルには似合いますし、カエルの王さまの原著にはキスをしたら戻るなんて記述はありませんよ」

「いや、それ言い出したら茨姫だって勝手に目覚めるパターンもあるし……というかどっちでもいいだろ。とにかくお預けな」

「……はい」

 久しぶりにグレンが大型犬に見える。はぁ……かわいい~。

 最近は狂犬気味だったから――うん。
 問題解決までしばらくはこの可愛い飼い犬モードを堪能できるのだと思えば、気分も上がってきた。


 まあ、そんな楽しい気分も長くは続かなかったわけですが……。



 ◇◇◇



 クラウス曰く――あの光と振動とともに王宮の泉から、黒い髪と瞳を持った美しい少女が現れたらしい。

「黒髪黒目……」

 黒い髪も瞳も珍しい。

 嫌な予感がする。
 
「ええ。後は……見たこともないような丈の短いドレスを着ていただとか、騎士が騒いでいました」

 ああ……ほぼ確だ。



 ◇



 慌ただしく部屋を去っていったクラウスを見送って、項垂れる。

「……グレン」
 
「そうですね。貴方の想像通りだと思います」

 グレンもライトノベルは“叔父さん“時代に読み漁っているから、同じあるあるを連想したらしい。

「あちらの――王宮の中心から感じる未知の魔力。それが俺の魔法を妨害しています」

 大きなため息とともに、言葉が続けられる。

「おそらくあの未知の魔力は、俺の魔力と相対するものなんでしょう……残念ながら心当たりがあります」

 グレンの――魔王の末裔と相対する魔力を持つ存在。

 それすなわち。


「この世界が危機に瀕した時、異世界からやってくると言われる――聖女」

 
 異世界から聖女がやってくる。
 お決まりのパターンだ。
 

 ほんでもってその“異世界“って……やっぱりもしかしなくても、地球の日本だったりするんですか……???
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

異世界転移して出会っためちゃくちゃ好きな男が全く手を出してこない

春野ひより
BL
前触れもなく異世界転移したトップアイドル、アオイ。 路頭に迷いかけたアオイを拾ったのは娼館のガメツイ女主人で、アオイは半ば強制的に男娼としてデビューすることに。しかし、絶対に抱かれたくないアオイは初めての客である美しい男に交渉する。 「――僕を見てほしいんです」 奇跡的に男に気に入られたアオイ。足繁く通う男。男はアオイに惜しみなく金を注ぎ、アオイは美しい男に恋をするが、男は「私は貴方のファンです」と言うばかりで頑としてアオイを抱かなくて――。 愛されるには理由が必要だと思っているし、理由が無くなれば捨てられて当然だと思っている受けが「それでも愛して欲しい」と手を伸ばせるようになるまでの話です。 金を使うことでしか愛を伝えられない不器用な人外×自分に付けられた値段でしか愛を実感できない不器用な青年

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

神様の手違いで死んだ俺、チート能力を授かり異世界転生してスローライフを送りたかったのに想像の斜め上をいく展開になりました。

篠崎笙
BL
保育園の調理師だった凛太郎は、ある日事故死する。しかしそれは神界のアクシデントだった。神様がお詫びに好きな加護を与えた上で異世界に転生させてくれるというので、定年後にやってみたいと憧れていたスローライフを送ることを願ったが……。 

【本編完結】異世界で政略結婚したオレ?!

カヨワイさつき
BL
美少女の中身は32歳の元オトコ。 魔法と剣、そして魔物がいる世界で 年の差12歳の政略結婚?! ある日突然目を覚ましたら前世の記憶が……。 冷酷非道と噂される王子との婚約、そして結婚。 人形のような美少女?になったオレの物語。 オレは何のために生まれたのだろうか? もう一人のとある人物は……。 2022年3月9日の夕方、本編完結 番外編追加完結。

【本編完結】最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

処理中です...