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【後日譚2】異世界(日本)から聖女が来たらしいけど、オレ(元勇者で元日本人)には関係ないったらない!!!
第15話 文芸部
しおりを挟む――蓮、くん……?
「なんで……オレの、こと」
彼女が。聖女がオレの知っている愛莉ちゃんなことは、覚悟ができていた。
だけど、こんなのは想定していない。
どうして愛莉ちゃんが……“ベルンハルト“が“赤谷蓮“だって知ってるんだ?
混乱で頭にうまく酸素が回らない。
ああ、いっそこのまま倒れてしまいたい。
「ベル。落ち着いて」
「……わかってる」
でもそういうわけにもいかない。今逃げたって、なにも解決しない。
逃げて解決するなら逃げることに躊躇いなんてないけど、今はもうそんな局面じゃないだろう。
「愛莉ちゃん……。なんでオレが、赤谷蓮だってわかったの」
彼女は大きな目を瞬かせて、それから伏せた。
「蓮くん。私ね……君が、死んじゃった後……文芸部に行ったの」
「文芸部?」
随分と久しぶりに聞く単語だ。
いい事はあまりなかった日本人時代の、数少ない楽しい記憶の内、半分ぐらいが詰まった我らが文芸部。
そこに愛莉ちゃんがベルンハルトと赤谷蓮を結びつけるものなんかあったか???
「そう。そこで――ノートを読んだの」
ノート。
「…………あ」
自分でも顔が青ざめていくのがわかるぐらい、さっと血の気が引いた。
「ベル!?」
「だ、だいじょうぶ……いや、だいじょばない……」
よろめいたのをグレンに支えてもらいながら、向き合いたくない事実と向き合うように、彼女に問いかけた。
「愛莉ちゃん……もしかして、それは……オレの、ノート……???」
ノート。
文芸部、美術部などのインドア文化部の人間の言う“ノート“と言えば、それ即ち。
「うん。表紙に大きく“秘密“って書いてあるやつ」
……そういうやつです。
オレの場合は設定ノート。この世界……いや、この世界と限りなく近い、オレのかつてのユートピアが詰め込まれたあのノートが、愛莉ちゃんの目に晒された、のか……。
「…………グレン、オレもうだめだ。死んじゃう」
「死なないです。大体、貴方……俺、いや、“おじさん“にはいつも嬉しそうに見せてくれたでしょう? 設定ノートどころか本編も」
「それとこれとは!! 話が違う!!! 叔父さんはそういうのに理解あったし……! 本人もオタクだったし、あと親戚だと思ってたし……!!!」
わー!!! わー!!!
積荷を燃やしてーーー!!!!
「頼むグレン……!! オレの記憶もう一回消してくれ!!!!」
「消しませんよ……ほら、落ち着いて」
落ち着けない、落ち着けないよ。グレンは言ったって勉強用にラノベ読んでただけの人だから、生粋の厨二オタクの気持ちなんてわからないんだ……!!
「お前みたいなイケメンにオレの気持ちがわかるもんか……殺してくれ……」
あんな若くして死ぬと思ってなかったからオレも遺言状とか書いてなかったけどさぁ!!!
「なんで誰もノート処分してくれなかったんだよ! ばか!! 井上さんのばーか!!!」
「いや、私に言われても困るよ」
「井上さん!!」
「スピカだってば」
◇
「……落ち着きました?」
「うん…………」
散々井上さん――もとい、いつの間にか現れたスピカに見当違いに当たり散らした後、どうにか正気を取り戻す。
人って本当に恥ずかしさで死ねるんじゃないかと思った。疲れた……。
グレンの胸に埋めていた顔をあげ、再度愛莉ちゃんに向き直る。
「取り乱してごめん」
「大丈夫だよ。私こそ、勝手に見てごめんね」
愛莉ちゃんはほんとに優しいな……。今の醜態見た後でもこんなに普通に話してくれるなんて。
…………いや。いい子じゃないんだった。
この子、色んな人のこと洗脳したんだった。
「愛莉ちゃん。君が、オレがこの世界にいることを知ってる理由はわかった」
いや、なんでノートの中の“ベルンハルト“がオレだと判断したのかはわからないけど。
だって勇者は金髪碧眼の美青年で、赤谷蓮は黒髪眼鏡のオタ少年なのに。
「でも……なんで、こんなことしたの?」
「こんなことって?」
彼女は、まるで心当たりがないとでも言うかのように愛らしく小首を傾げる。事情を知らなければ、オレなんかはすっかり騙されただろう。
「色んな人に魔法かけてオレのこと探させただろ」
「魔法……? ああ、なんか様子がおかしいと思った。私はただ、ベルンハルトに――貴方に会いたいって、言っただけなのに」
自身が魅了魔法を使った自覚はないのか。
無理もない。
日本は剣と魔法のファンタジーの世界じゃないんだから。自分にそんな怖い、強い力があるなんて考えもしないだろう。
「……そっか。でも、なんで愛莉ちゃんはオレに会いたかったの?」
「だって私……蓮くんに会うためにこの世界に来たんだもん。なのに、みんな聖女とか救世主とか……」
「……オレ、に?」
また動揺するオレに構わず、彼女は話し続ける。
「そう。……私ね、蓮くんのノート読んだときに、思ったの。蓮くんはこういう世界に行きたかったんだなぁ。ああ、このベルンハルトって人、蓮くんみたいだなぁって……そんなこと考えてたら、いつの間にかこの世界に来てた」
――なんで。
なんで愛莉ちゃんが、オレのことを、オレなんかのことを、そんな風に話すんだ?
どうしてオレを懐かしむように――愛するように、呼ぶんだろう。
オレは彼女にとって路傍の石。
オレ一人の死なんて、彼女の人生にはなんの影響も与えないはずなのに。
「でも……蓮くんに会えたんだからもうここにいる意味はないよね」
澱みに沈んでしまいそうになっていた思考を、彼女の言葉が引き戻す。
そう。そうだ――考えなくていい。
愛莉ちゃんに、聖女に、何事もなく元の世界に帰ってもらうのが目標だったはずだろう?
スピカを抱き上げて、尋ねる。
「スピカ、彼女を元の世界に戻す方法はあるの?」
「うん。さっきの話で“媒介“がなんなのかわかったからね。後は彼女自身が戻ることを望めば、グレンくんの魔法と彼女の魔力でどうにかなるよ」
媒介って……ノートか。うん。もうノートについて考えるのやーめよ。
「あー……愛莉ちゃん。意味わかんなかったと思うんだけどさ、とりあえず帰れるからさ、安心して。なんかいろいろごめんね、バイバイ」
良かった、これで一安心だ。
安堵に口元が綻ぶ。
そんなオレに愛莉ちゃんは――。
「蓮くんも一緒に帰るでしょ?」
当然のように、そう告げてくる。
…………え?
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