いつになったら、魔王討伐いくんですか勇者様? ~お目付け役賢者の日記~

あざね

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12.向き合う時

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 孤児院の中は雑然としていた。
 壁には子供たちの描いた落書きもあり、玩具なども箱の中から飛び出している。
 生活感の溢れると言ったら聞こえは良いかもしれないが、こういった空間に慣れていないアルにとっては、ただただ居心地の悪い場所でしかなかった。彼の生まれ育った屋敷にはメイドもいたため、常に清掃が行き届いていたのである。

 しかし勇者ハヤトにとっては、さほど苦ではない様子。
 むしろ馴染んでいると言ってもいい。決して広くはない子供部屋の中、ハヤトは多くの孤児たちに囲まれていた。ある少年からは後ろからヘッドロックをかけられ、またある少女とは同時に御飯事のような遊びに興じている。この短時間で、随分と懐かれたモノであると、アルはそう思った。

 さて。そして、もう一人。
 アナは久々の帰省であったのだろう、この場にはいなかった。
 コルドーの話では、この孤児院の裏に用があるということ。それを聞いてアルは少しだけ気が引かれたが、すぐに切り替える。今はコルドーとの話を優先すべきだと、そう思ったのであった。

「いやァ、ビックリしたぜ。久しぶりにアナが帰っていたと思えば、とんだ醜男を連れてくる。そんでまさかそんな野郎が勇者で、アナのことを引き取ると言い出した時はもっと驚きだったがな! はっはっは!」

 テーブルを挟んで向かいに、がに股で座る前騎士団長は大声で笑う。
 その声量はまったくをもって、ハヤトへの気遣いなどなされていなかった。というよりも、むしろ聞こえるようにわざとそうしているのではないか。そのように思える程のモノであった。仕切りを挟んで隣の部屋にいる勇者であったが、コルドーの言葉を聞くと、

「ぬはwwwコルドー氏、さすがの拙者も怒るでござるよwww」

 そんなことを言い返してくる。
 だが『怒る』と口にしているモノの、浮かんでいる色は明るかった。

「あっはっは! 小馬鹿にされた程度では動じない。中々に見どころはある奴だぜ、コイツは!」
「んにゅwww? 拙者、馬鹿にされたでござるかムキー!」
「いや。今回に限っては褒められているのかと」
「あ、マジで? 把握したwww」

 やはりどこかズレている勇者に、賢者はツッコみを入れる。
 するとハヤトは納得したらしく、子供たちの世話に戻っていった。
 さてさて、ここで改めて二人になったのだ。コルドーは今度こそアルに向き直って、言葉を紡ぎ始める。

「……で? どうだよ。最近の騎士団は」

 その内容は、本当に取り留めもないモノであった。

「どうということも、ありません。以前と変わらずに、日々研鑚を重ねています」
「ふーん、そうかい。まぁ、お前のコトだ。俺なんかよりもよっぽど上手く回してるんだろうな」
「いえ、そのようなことは決して……」
「ふぅん。そうかい」

 アルの謙遜に、コルドーは若干つまらなさそうにする。
 どのような返答を期待していたのであろうか。その答えは彼の心の内にしかないために不明であるが、しかしアルにとってみれば、やはり居心地の悪いことこの上なかった。そんな折である。コルドーは、唐突にこう言った。

「アルフレッド、お前――アナのことが気になってんだろ」――と。

「……………………」

 それに、アルは押し黙るしかなかった。
 何故ならそれは図星であったから。孤児院の裏手に用事があると、席を外している少女のこと。そのことが今の賢者にとっては、何故か気がかりな案件なのであった。それには理屈なんてモノはなくて、ただ無視できない。そう思われた。

「にゅふ!? アル氏は、アナのコトが好きでござる!? それならば兄として、受けて立つでござるよwww!!」
「あ、いえ。違いますから。そういう意味ではありません」
「んにゅ? では、どういう意味でござる?」

 と、そこで子供たちの世話を終えたらしいハヤトが会話に参加。
 コルドーの言葉に反応してアルを茶化すが、賢者はそれをさらりと流した。
 するとさすがの勇者も毒気を抜かれたように、あるのか分からない小首を傾げるのである。彼のそんな様子を見ながら、アルは大きくため息をついた。そして、

「ただ。この孤児院の裏――そこには、私も用があるのでは、と」

 そう、らしくない曖昧な言葉を口にする。
 その中には明らかな迷いが見て取れた。『孤児院の裏』――おそらくはアルにも、そこに何があるのかは分かっている。問題は【自分がそれを見る決意があるかどうか】だと。そう、賢者は考えているようであった。
 しかし、そんな気持ちを知ってか知らでか、コルドーはこう言う。

「見てくれば良いんじゃねぇか? 目を逸らし続けられることでもねぇからな」

 いや。彼は分かっていたのであろう。
 賢者の中にある葛藤を、迷いを、そして後ろめたささえも。
 それを理解した上で、コルドーは提案したのであった。現実に目を向けてはどうか、と。そこに在るモノに、向き合う時がきたのではないか、と。

 それの意図するところが何なのか、分からないアルではなかった。
 しかし、決心がない。まだ、決心が出来なかったのだ。
 それというのも――。

「デュフフフフwwwほら、行くでござるよwww」
「って、え? ハヤト様!?」

 ――と。
 思考が堂々巡りをしそうになった、その時であった。
 ハヤトが強引にアルの手を引いたのは。勇者は黙したままの賢者を、突然に引き上げたかと思うと、無理矢理に引きずっていく。いつもの調子で。
 アルは目を丸くすることしか出来ず、振り解くことが出来ないまま、されるがままとなっていた。




 こうして、意図しない形でアルは向き合うこととなったのである。
 この世界の現実。そして、目を逸らしてきた過去と――。


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