近未来怪異譚

洞仁カナル

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遺伝子改造

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 教室前方の壁の上半分を占める黒いディスプレイに書記の女の子が日付を書く。


ディスプレイは黒、文字は白。


昔あった黒板とチョークのデザインにしていると先生は言っていた。


黒い背景に白い文字は人の集中力を上げるらしいが、僕の意識は散漫だった。


日付の隣には本日のディベートのテーマ『生物兵器はあっていいのか』が大小のバランスが取れていない字で書き出された。


小学生が討論するには難しすぎると思うのだけど、決めたのは先生ではなくもっと上の人たちだろうから先生に文句を言っても仕方がない。


僕はうんざりとした気持ちで窓の外を眺めた。



「遺伝子を改造して生物兵器を作ることは悪いことだと思います」


「動物が可哀想だと思います」


「家畜が許されるのなら生物兵器も許されると思います」


「人を殺す道具を作るのがいけないと思います」


「もし目的が『殺人』以外だったらどうするんですか?」



週に一回ディベートの授業。


過去の人間が犯した罪について考えることが子孫である僕らの役目らしい。


過去の人がやらかしたことの責任を僕達に背負わされても困るのだが、拒否権なんてないし仕方ない。



「他に意見のある人はいますか? ……いませんね。では当てます。あきら君、お願いします」



上の空だったのがバレたようで、皆んなの視線が僕に集まった。


焦りながら適当な答えを考えて、動揺を悟られないよう努めて喋った。



答えの出ない討論の時間が終わり、先生が教壇に上がって毎度お決まりの言葉を述べた。



「バイオテクノロジー、インフォメーションテクノロジー、スピリチュアルテクノロジーなど色々あるが、それぞれのいい面、悪い面を考えることが大切だ。自分の頭で考えること、それを常に意識するように」



先生のアリガタイお言葉を頂戴したところで、今日の授業の終わるを告げるチャイムが鳴った。


時間ぴったりに終えられたこちが嬉しいのか、先生は小さくガッツポーズしていた。


こんなことで喜ぶなんて、先生の人生はよっぽどいいことがないのだろう。


僕も人のことは言えないけど。
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