二匹狼

青山 ろっく

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第2話 始動の拠点

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 【半年後…】
 静かな住宅の中、そこに京子は居た。清潔さがあるエプロンを着こなし、テキパキと朝食を作っていた。
「亜矢(あや)、おはよう。」
「・・・おはよう。お母さん。」
「もうお父さんは行っちゃったわ。あなたも早く食べちゃいなさい。」
 そう促すと、小学生高学年 亜矢あやは眠たい目をこすりながら、朝食が置いてあるテーブルに座った。ゆっくりとよく噛んで食べ始めた。
 そんな中だった。近隣から、静かな朝には向かない大声が飛んできた。

「何やってんだ!翼(つばさ)、宿題は!?」
「学校へ忘れてきたんだって・・・!」
「昨日もそうだったじゃねぇか!?」
「しょうがねぇだろっ!忘れたんだからさ!」
「開き直るなっ!」

「隣の西君。今日も声が響くね・・・。」
「う、うん。そうね・・・。」
 京子は、かなり気まずそうにしていた…。これには、があった。

 【半年前…】
『結婚っ!?』
「そうですが、何か?」
 京子と茜の死刑を取り消した 山田 隆やまだ たかしは、「何事だ?」と言う顔をしていた。
「山田さん!一体、何を言うんですか!?私達は―。」
 。」
「そうではありません!いくら、死刑が撤回されたとは言え。犯罪を起こした者に変わりはありません!」
 真面目に答える京子。しかし、山田は呑気に答えた。
「・・・しかし。今後の生活を考えたら、日が差し込まない生活をするのは・・・貴方方でも、少々やり過ぎでは?」
「何で?カタギみたいに暮らせって言いたいのか?こっちはごめんだね。」
 茜は突っぱねたが、理由を答えた。
「それでは・・・カスのいい餌ですよ?」
「それって、一番星 灯いちばんぼし あかねに関係が?」
 山田は頷いた。
「今、この刑務所を出るまでは、詳細までは話せません。―けれども、コイツは様々な”犯罪”を行ってきました。
 それも、ヘドが出るだけでは足りませんよ・・・!」
「へ~へ~・・・。そうかい。」
 茜はつまんなさそうに聞いていた。
「―そこで、アイツの裏をかくことにしました!と見せる事です!これを閃いた時は、感動ものですよ!」
(そんなに凄いことなの・・・?)
 京子は混乱した…。山田は話を続ける。
「・・・で、結婚と言う事なんですが。もう、相手を見つけ、縁談を済ませました。」
『・・・は?』
「今日から、お二人に新しい家族が出来るんです!いや~おめでとうございます!」
『何勝手にやってんだっ!?』
 阿吽の呼吸でハモった。
「・・・あ!―では、東さんはこれ。西郷さんはこれを・・・。」
 各2人に、1枚の紙を渡された。…そこには、写真と一緒に経歴が記されていた。

「東さんは、長谷川 拓真(はせがわ たくま)さんと小学生の亜矢あやさん一家を。西郷さんは、井上 大輔(いのうえ だいすけ)さんと同じく小学生のつばさ君一家をお願いします。」
「え!?」
「冗談じゃねぇって!!旦那どころか、ガキもいらねぇよ!」
「因みに、ここ最近『夫婦別姓』が可能になったんですが。スムーズにいくために、お二人の苗字で籍を入れるようにして下さい。」
「だから、決めたわけじゃねぇって―。」
「それでは、またお時間が空き次第、ご連絡いたしますね。」
 話を最後まで聞かずに、山田は去ってしまった…。茜は納得していない。
「・・・。」
「何なんだよ、ったくよぉ!・・・お前は!?」
「え?」
「あいつの言いなりになってどうすんだよ!?」
 強く責めるが、京子はポツリと言う…。

「・・・私には、が居た。」
「は?」
「―けど、事件を起こして、離婚。・・・当然、夫と子供は逃げるように、どっかへ行った。」
「・・・慰めてほしいのかよ?」
「違う!」
 京子は首を何度も横に振る!
「・・・だけど。未練は残っている。「もう一度、家族揃って暮らしたい。」って・・・。
 こんな事、不謹慎だけれども・・・。ちょっと、願いが叶ったのかなって・・・。」
「・・・そうかい。」
 茜は深い溜め息をついた…。
(あたしは・・・そんな資格すらねぇってのによぉ・・・。)
 そう思いながら、2人は刑務所内で居た房から離れていくのだった…。

 【現在…】
「―お早う御座います!」
「おはようございます。」
 丸坊主から、すっかりボブヘアーまで伸びた京子は、ゴミ出しのついでに、近くに住んでいる”ママ友”と出会った。
「ここ最近。随分値上げしましたけど、一緒に収入も増えましたよねぇ~?」
「ほんっと!―1年前までは、ニュースで[日本以外 給与上がらず!]って騒いでいましたのに、すっかり変わって・・・。生きててよかったわぁ!」
「そ・・・そうですね。(また収監中に起きた話だ・・・。)」
 焦っている京子だったが、助け舟が来る。
「東さんも東さんで大変だったんでしょう?―なんですから!
 はぁ・・・。旦那も、現状に甘えてないで、東さんを見習ってほしいわぁ~。」
「本当にそうよねぇ~!―また、いつ不景気に戻るかもしれないのに・・・。危機管理能力?でしたっけ?ちゃんと、しっかり持ってほしいわよぉ!」
「きょ・・・恐縮です!」
 京子は、少し申し訳無さそうに、腰を90度にして頭を下げた。

 そんな中、頭を掻きながら、茜がやって来た。
「あ!茜さん!おはようございます~!」
「へ~い・・・。」
「ちょっと!ご近所の方への―。」
「いいの、いいの!」
 ママ友には、茜をがあった。
「日が暮れるまで、をやっているんですから!」
「そうですよ。最初は、疑ってたけど・・・あんなにも更生した子供を始めて見て、「やっぱり、人間は見た目じゃ判断してはいけないっ!」と教えられましたよ~!」
(―実際には、元 暴力団の威圧感で、やっているようなものだけれども・・・。)
 京子は、悪化しないように黙って言葉を飲み込んだ…。
 そんな鳥の鳴き声が響く、静寂な朝だったが。―ここで、京子のスマホが鳴る。
「あ・・・、御免なさい。の電話が・・・。」
「お気をつけてー。」
 そう言って、京子は走り。茜は静かに追いかけた…。

「・・・で?アイツは何だって?」
 ”アイツ”とは、山田の事だ。
「どうやら・・・今回は、大物のようよ?」
 茜にスマホの画面を見せた。―画面には、今の時代には珍しい、キャリアメールでの文章が送られてきた。
[東さん。西郷さん。おはようございます。 今回は、かなりのVIPターゲットです。添付されている写真とテキストを貼り付けているので、ご覧下さい。 それでは、お気をつけて・・・。 山田より]
 実際に、添付されている写真とテキストを開いてみた。…出てきたのは、野球帽を被った男性だった。
「・・・誰?」
「あんた、ニュース見てないの?―『100年に一度の天才”丸吉 伸行(まるよし のぶゆき)”』。
 最初は、ピッチャーをやっていたけど。コンバートを幾つも経験して、『何処でも守れる”守護神”』と言われている。
 また、もう一度ピッチャーに戻って、投げている”モンスター”とも―。」
「それ・・・話長くなる?」
 京子はため息をついて、簡略に言った。
「・・・話は、この丸吉が”ドーピング”を入団から、今も行っていて。―裏には、一番星がバックに居るって事。
 それを暴いて、こいつを捕まえる事。分かった?」
「なんだ~。そう早く言えばいいじゃんか~。」
 もう一度、京子のため息が出る…。
「で?は?」
「わーてるよ。あたしも、そこまでバカじゃねぇよ。」
 そう言って、何本もの鍵を指から下げている。
「・・・じゃ。行きましょうか。」
「―あいよ。」
 何故だろうか…?この一瞬の間は、2人の呼吸が揃っていた…。

続く…。
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