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戦術機を立てかけていたシノアはカーテンからのこぼれ日で目を覚ました。カーテンを開けて、太陽の光を浴びる。
朝。学院の初めての朝はシノアに取って特別だった。
二段ベットの上から「ごきげんよう、シノアさん」と目をさすりながらルームメイトの伊東閑が声をかけた。ゆっくりとベットから降りてきて一際大きなあくびをする。
彼女は人の上に立つべく育てられた生粋の司令塔だ。
「ごめんなさい。起こしてしまったかしら」
「カーテンを開けてその台詞は勇気があるわね。まぁいいけれど」
制服に着替えた閑は玄関口からシノアに声をかけた。
「じゃあ、私はお先に」
「ああ、行ってらっしゃい」
シノアはまだ準備ができていなかった。制服の着方が分からず半裸姿のまま慌てていた。腕には包帯が巻いてある。それも手伝って制服に着替えるのが時間かかったのだ。閑は夢結の肩に手を置いた。
「手伝うわ。向こう向いて」
「ありがとう」
制服を一通り着せ終えると、閑は包帯が巻いてある部分を痛ましげに見た。
「昨日の傷、痛む?」
瓦礫に押し潰された時の傷だ。骨が露出するほどの大怪我で、もしかしたら衛士生命を絶たれていたかもしれなかった。
そう思うと自然に傷口を押さえていた。
「うん、大丈夫」
「そう。運が良かったのね」
「……」
二人は食堂に向かい朝食を食べた。オムライスだった。その後はシノアはお手洗いで髪を整えていると、背後から声がかけられた。
振り向くと桃色の髪が目に入った。相手は斉藤亜羅揶だった。入学初日に真昼に喧嘩をふっかけていた好戦敵なリリィだ。
「あら、ごきげんよう。シノアさん」
「ごきげんよう、阿羅揶さん」
「覚えていてくれたの?」
「ええ、有名だもの。少し勉強すれば嫌でも入ってくるわ」
「そう。なら」
亜羅揶はシノアを壁際に押しやった。
「本質的な挨拶をしない?」
「本質的?」
「ええ、横浜では珍しくないのよ。女の子同士の恋人いうのは」
「いきなりキスは大胆ね。申し訳ないけど私は心に決めた人がいるから」
亜羅揶の目が細くなる。
「それは真昼様?」
「そうよ。私は真昼様に身も心も捧げるの。そして姉妹誓約を結ぶ」
「それは、どうなのかしらね」
「何が?」
「いいえ? 頑張ってね。応援してるわ。私も真昼様と一緒に戦ったことがあるけど、あれは」
亜羅揶は身を捩らせて、体を抱き締める。
「最高だった。また会いましょう、シノアさん」
亜羅揶は颯爽と去っていく。シノアは真昼を探して校内を歩いていた。
(昨日のお礼を言いたいのだけれど、見つからないものね)
半分諦めかけたところで、見覚えのある姿をとらえた。桃色の髪にクローバーの髪飾り。見間違いではない。一ノ瀬真昼だ。
「おはようございます、真昼様」
真昼は振り返ると笑顔で近寄ってくる。
「昨日の。柊シノアちゃん、だよね。ごきげんよう」
「ごきげんよう。昨日はありがとうございました」
真昼はシノアの腕に触れる。
「ううん、守れなくてごめんね。腕痛む?」
「いいえ、大丈夫です。それに自分の力不足ですから」
「シノアちゃんは衛士の訓練を受けていないんだよね?」
「はい。家の方は衛士を排出する家系なのですが、事情があって遅れました。高等部からの参入ですが、早く一人前になれるように頑張るつもりです」
「ううん、早く一人前になる必要はないよ。ゆっくり、基礎を固めて訓練をしてベテランの衛士と初陣を乗り越えて経験を積む方が大切だから」
「意外です。衛士は早く一人前になる必要があるものかと」
「そういう人は多いよ、確かにね。でも死んだら全部おしまいなの。取り戻せないの」
腕を掴む真昼の指に力が篭る。
「死なない戦いをする必要があるんだよ、衛士には。私が言えた義理じゃないけどね。シノアちゃんはまだ新米だから、基礎訓練に力を入れてね。基礎は裏切らない。そして折れない心を持って」
「はい! 頑張ります」
「それじゃあ、私はこれで行くね。訓練頑張って」
「ありがとうございます」
真昼と別れて校舎の入り口に行くとクラス分けが張り出されていた。人だかりができている。そんな中に茶髪のリリィがいた。
我妻二水だ。リリィオタクで色々な情報を持っている情報通である。
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう! うわぁ、なんか私、横浜に来たって実感してます! 私我妻二水っていいます。柊シノアさんですよね? 昨日活躍された」
「うん、どうして知ってるの?」
「横浜衛士訓練校新聞に書きましたから!」
「書いた? 読んだんじゃなくて?」
「私のレアスキル、鷹の目は遠くからでも物事を見ることができるんです。それで昨日のことはバッチリと」
「編集長ということね」
「はい! そうだ! 私とシノアさん同じクラスになったんですよ!」
「そうなの、良かったわね」
「因みに、私もですのよ」
風間が優雅に現れた。
「ごきげんよう、お二人とも」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、風間さん。三人揃うのは運がいいわね」
「シノアさんは気難しそうで、ちびっこはオタクが爆発して引かれそうですからね。私が友人としてエスコートして差し上げますわ」
「そういう貴方も高飛車で避けられるのではなくて?」
「あら、私に憧れる子は多いですのよ」
「なら恐れ多くて話しかけられず孤立するのが見えるわね」
「シノアさんは自分から話しかけにいかず、ぽつんと教室の片隅で本を読んでいる姿が目に浮かびますわ」
お互い本気ではない軽口を叩きながら、風間の先導で足湯に赴くことになった。
「良いのかしら、こんな朝から」
「授業は明日からですから」
「理事長の配慮だそうですわ。学院はデストロイヤー迎撃の最前線であるのと同時に衛士取ってのアジールでもあるべきだって」
「アジール?」
「聖域の事ですわ。何人にも支配されることも脅かされることもない常世。まぁ、良い大人が私達のような小娘に頼っている贖罪という面もあるのでしょうが」
「でも不思議ですね。私とシノアさんみたいなド新人から、アインツさんのように実績のある衛士まで経歴も技量もバラバラです」
「あははは、よく調べているわね。私のこと楓って呼んでくださってよろしくてよ」
「凄いです、クレストの総帥の御令嬢とお近づきになれるなんて!」
「なんて事ありませんわ、ふふ」
「クレストって確か」
「まさかご存知ないとか!?」
「いえ、知っているけど」
「クレストはフランスに本拠地を置く戦術機開発のトップメーカーの一つなんですよ! シノアさん」
「いいえ、トップでしてよ! 仰ってくれればいつでもキレッキレにチューニングされた最高級戦術機をご用意させて頂きますからお楽しみに!」
「二人とも私を何も知らない人扱いしていないかしら」
足湯から上がった三人はロビーでティータイムを楽しんでいた。
「シノアさん、朝食の後はどこにいたんですか?」
「二年生の校舎に」
「ああ、真昼さんに会いに行ったんですね」
「姉妹誓約の契りを結んで欲しくて」
「あら、それは普通上級生からお声がかかるものですわ」
「風間さんも狙っているのよね」
「ええ、あの愛らしいお姿。ぜひとも私と姉妹の契りを交わして欲しいですわ!」
姉妹誓約の契りというのは横浜衛士訓練校に伝わる上級生と下級生が結ぶ姉妹の契りのことだ。上級生が姉となって下級生の妹を導く。
上級生が姉妹の契りを申し込み、下級生が受けいることで姉妹誓約が成立する。
上級生の姉が守護天使となり、下級生の妹の盾となる乙女の園の麗しい契約だ。
姉妹誓約には数多の愛がある。
だが戦う乙女ゆえに悲哀と離別とも無縁とはいられない。
大切な半身を失い、心が折れたり、復讐に飲まれるのも珍しくない。
「お話はできたんだけど、真昼様のことをあまり知らないのよね」
「臨時遠征衛士として欠員のあるレギオンに臨時で参加して活躍なさってますね。あとは激戦区に身を投じる機会が非常に多く、そこで多くの勝利と生還者を出しています。そのことから幸運のクローバーや桃色の守護女神なんてあだ名がつけられています」
シノアは立ち上がった。
「風間さん、私に戦術機の使い方を教えてくれませんか?」
「ええ、もちろん」
「でも明日から実習も始まり」
「お黙りちびっこ!」
「ちびっこ!?」
「私は早く一人前になりたい。そうすれば真昼様の助けに!」
「お気持ちは分かりますが、焦りは禁物……と普通なら言うところですがここはデストロイヤー迎撃の最前線ですわ。初心者と経験者を混ぜ込みにしているのは衛士同士が技を鍛え合う自主性も期待されているということですわ」
衛士の新兵は時間をかけてじっくり育成して欲しいという想いは、デストロイヤーの来襲頻度と衛士の絶対数という現実が砕いていく。しかしシノアが恵まれているのは横浜衛士訓練校には幼少期より指導を受けた歴戦の猛者が多いことだろう。
ベテランとの共同戦線は新兵の死亡率をグッと下げる。
(ゆっくりと頑張れって言って下さったけど、早く強くなればそれだけ真昼様のお力になれる。私が姉妹誓約になるためにも、頑張らないと)
真昼の想いは届かない。
朝。学院の初めての朝はシノアに取って特別だった。
二段ベットの上から「ごきげんよう、シノアさん」と目をさすりながらルームメイトの伊東閑が声をかけた。ゆっくりとベットから降りてきて一際大きなあくびをする。
彼女は人の上に立つべく育てられた生粋の司令塔だ。
「ごめんなさい。起こしてしまったかしら」
「カーテンを開けてその台詞は勇気があるわね。まぁいいけれど」
制服に着替えた閑は玄関口からシノアに声をかけた。
「じゃあ、私はお先に」
「ああ、行ってらっしゃい」
シノアはまだ準備ができていなかった。制服の着方が分からず半裸姿のまま慌てていた。腕には包帯が巻いてある。それも手伝って制服に着替えるのが時間かかったのだ。閑は夢結の肩に手を置いた。
「手伝うわ。向こう向いて」
「ありがとう」
制服を一通り着せ終えると、閑は包帯が巻いてある部分を痛ましげに見た。
「昨日の傷、痛む?」
瓦礫に押し潰された時の傷だ。骨が露出するほどの大怪我で、もしかしたら衛士生命を絶たれていたかもしれなかった。
そう思うと自然に傷口を押さえていた。
「うん、大丈夫」
「そう。運が良かったのね」
「……」
二人は食堂に向かい朝食を食べた。オムライスだった。その後はシノアはお手洗いで髪を整えていると、背後から声がかけられた。
振り向くと桃色の髪が目に入った。相手は斉藤亜羅揶だった。入学初日に真昼に喧嘩をふっかけていた好戦敵なリリィだ。
「あら、ごきげんよう。シノアさん」
「ごきげんよう、阿羅揶さん」
「覚えていてくれたの?」
「ええ、有名だもの。少し勉強すれば嫌でも入ってくるわ」
「そう。なら」
亜羅揶はシノアを壁際に押しやった。
「本質的な挨拶をしない?」
「本質的?」
「ええ、横浜では珍しくないのよ。女の子同士の恋人いうのは」
「いきなりキスは大胆ね。申し訳ないけど私は心に決めた人がいるから」
亜羅揶の目が細くなる。
「それは真昼様?」
「そうよ。私は真昼様に身も心も捧げるの。そして姉妹誓約を結ぶ」
「それは、どうなのかしらね」
「何が?」
「いいえ? 頑張ってね。応援してるわ。私も真昼様と一緒に戦ったことがあるけど、あれは」
亜羅揶は身を捩らせて、体を抱き締める。
「最高だった。また会いましょう、シノアさん」
亜羅揶は颯爽と去っていく。シノアは真昼を探して校内を歩いていた。
(昨日のお礼を言いたいのだけれど、見つからないものね)
半分諦めかけたところで、見覚えのある姿をとらえた。桃色の髪にクローバーの髪飾り。見間違いではない。一ノ瀬真昼だ。
「おはようございます、真昼様」
真昼は振り返ると笑顔で近寄ってくる。
「昨日の。柊シノアちゃん、だよね。ごきげんよう」
「ごきげんよう。昨日はありがとうございました」
真昼はシノアの腕に触れる。
「ううん、守れなくてごめんね。腕痛む?」
「いいえ、大丈夫です。それに自分の力不足ですから」
「シノアちゃんは衛士の訓練を受けていないんだよね?」
「はい。家の方は衛士を排出する家系なのですが、事情があって遅れました。高等部からの参入ですが、早く一人前になれるように頑張るつもりです」
「ううん、早く一人前になる必要はないよ。ゆっくり、基礎を固めて訓練をしてベテランの衛士と初陣を乗り越えて経験を積む方が大切だから」
「意外です。衛士は早く一人前になる必要があるものかと」
「そういう人は多いよ、確かにね。でも死んだら全部おしまいなの。取り戻せないの」
腕を掴む真昼の指に力が篭る。
「死なない戦いをする必要があるんだよ、衛士には。私が言えた義理じゃないけどね。シノアちゃんはまだ新米だから、基礎訓練に力を入れてね。基礎は裏切らない。そして折れない心を持って」
「はい! 頑張ります」
「それじゃあ、私はこれで行くね。訓練頑張って」
「ありがとうございます」
真昼と別れて校舎の入り口に行くとクラス分けが張り出されていた。人だかりができている。そんな中に茶髪のリリィがいた。
我妻二水だ。リリィオタクで色々な情報を持っている情報通である。
「ごきげんよう」
「ご、ごきげんよう! うわぁ、なんか私、横浜に来たって実感してます! 私我妻二水っていいます。柊シノアさんですよね? 昨日活躍された」
「うん、どうして知ってるの?」
「横浜衛士訓練校新聞に書きましたから!」
「書いた? 読んだんじゃなくて?」
「私のレアスキル、鷹の目は遠くからでも物事を見ることができるんです。それで昨日のことはバッチリと」
「編集長ということね」
「はい! そうだ! 私とシノアさん同じクラスになったんですよ!」
「そうなの、良かったわね」
「因みに、私もですのよ」
風間が優雅に現れた。
「ごきげんよう、お二人とも」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、風間さん。三人揃うのは運がいいわね」
「シノアさんは気難しそうで、ちびっこはオタクが爆発して引かれそうですからね。私が友人としてエスコートして差し上げますわ」
「そういう貴方も高飛車で避けられるのではなくて?」
「あら、私に憧れる子は多いですのよ」
「なら恐れ多くて話しかけられず孤立するのが見えるわね」
「シノアさんは自分から話しかけにいかず、ぽつんと教室の片隅で本を読んでいる姿が目に浮かびますわ」
お互い本気ではない軽口を叩きながら、風間の先導で足湯に赴くことになった。
「良いのかしら、こんな朝から」
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「アジール?」
「聖域の事ですわ。何人にも支配されることも脅かされることもない常世。まぁ、良い大人が私達のような小娘に頼っている贖罪という面もあるのでしょうが」
「でも不思議ですね。私とシノアさんみたいなド新人から、アインツさんのように実績のある衛士まで経歴も技量もバラバラです」
「あははは、よく調べているわね。私のこと楓って呼んでくださってよろしくてよ」
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「なんて事ありませんわ、ふふ」
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「まさかご存知ないとか!?」
「いえ、知っているけど」
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「いいえ、トップでしてよ! 仰ってくれればいつでもキレッキレにチューニングされた最高級戦術機をご用意させて頂きますからお楽しみに!」
「二人とも私を何も知らない人扱いしていないかしら」
足湯から上がった三人はロビーでティータイムを楽しんでいた。
「シノアさん、朝食の後はどこにいたんですか?」
「二年生の校舎に」
「ああ、真昼さんに会いに行ったんですね」
「姉妹誓約の契りを結んで欲しくて」
「あら、それは普通上級生からお声がかかるものですわ」
「風間さんも狙っているのよね」
「ええ、あの愛らしいお姿。ぜひとも私と姉妹の契りを交わして欲しいですわ!」
姉妹誓約の契りというのは横浜衛士訓練校に伝わる上級生と下級生が結ぶ姉妹の契りのことだ。上級生が姉となって下級生の妹を導く。
上級生が姉妹の契りを申し込み、下級生が受けいることで姉妹誓約が成立する。
上級生の姉が守護天使となり、下級生の妹の盾となる乙女の園の麗しい契約だ。
姉妹誓約には数多の愛がある。
だが戦う乙女ゆえに悲哀と離別とも無縁とはいられない。
大切な半身を失い、心が折れたり、復讐に飲まれるのも珍しくない。
「お話はできたんだけど、真昼様のことをあまり知らないのよね」
「臨時遠征衛士として欠員のあるレギオンに臨時で参加して活躍なさってますね。あとは激戦区に身を投じる機会が非常に多く、そこで多くの勝利と生還者を出しています。そのことから幸運のクローバーや桃色の守護女神なんてあだ名がつけられています」
シノアは立ち上がった。
「風間さん、私に戦術機の使い方を教えてくれませんか?」
「ええ、もちろん」
「でも明日から実習も始まり」
「お黙りちびっこ!」
「ちびっこ!?」
「私は早く一人前になりたい。そうすれば真昼様の助けに!」
「お気持ちは分かりますが、焦りは禁物……と普通なら言うところですがここはデストロイヤー迎撃の最前線ですわ。初心者と経験者を混ぜ込みにしているのは衛士同士が技を鍛え合う自主性も期待されているということですわ」
衛士の新兵は時間をかけてじっくり育成して欲しいという想いは、デストロイヤーの来襲頻度と衛士の絶対数という現実が砕いていく。しかしシノアが恵まれているのは横浜衛士訓練校には幼少期より指導を受けた歴戦の猛者が多いことだろう。
ベテランとの共同戦線は新兵の死亡率をグッと下げる。
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