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第四章『セントラル・オハコビ・ターミナル』

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「――あのう、みなさーん?」


モニカさんが、やや困ったような顔で子どもたちに声をかけていた。


「あれ、みんなわたしのことすっかり忘れてる。まあ、しょうがないよね。

こんなすごい場所に来るの、みんなはじめてなんだし……はあ」


彼女のさみしそうなため息に気がついて、ハルトははっとふりむいた。


「あ、ごめんなさい!  つい、夢中になって……」


「いいの、いいの。あなたたちは気にしないで。

わたしの説明なんか聞かなくても、

みんなツアーを楽しむうちに、いろいろなことを理解してくると思うから……」


ツアー初参加者たちは、経験者であるケントたち四人組をかこんで、

あれはなに、あそこはなんだ、としきりに質問していた。

ケントたちは、その返答に忙しそうにしている。

ただひとり、スズカはというと、

みんなから離れたところで外の光景をぼんやりとながめていた。


ハルトは言った。「でも、せめてぼくたちには話してよ。

説明すること、あったんでしょ?  

してくれないと、分からないことだってあるはずだしさ」


「……そう?」


モニカさんは、コホン!  とせきばらいをすると、

ハルトのために、用意してきた説明をはじめた。


「このターミナルは、たくさんの『天空島』をつなぐ中継の役割をしているの。

つまりスカイランドはね、

空に浮かぶさまざまな島によって構成されているんだよ。

他の島へと移動したいヒトは、見てもらった通り毎日たくさんいる。

そのための空の便を提供しているのが、わたしたちオハコビ隊なの」


「ここがその本拠地だって、フラップが言ってたけど?」


「その通り!  ターミナルは、オハコビ隊が所有している空港都市。

スカイランドには全部で五つ存在しているけど、

このセントラル・オハコビ・ターミナルは、

オハコビ隊が運営するすべてのターミナル機能がそろった場所なの」


「なんだか……すごすぎだね、オハコビ隊って」


「ふふふ!

オハコビ隊は、実際にヒトを乗せて空を飛ぶオハコビ竜の『フライター』と、

その竜たちの飛行を遠くから支援する、

その他大勢の『サポーター』の二つに分かれているの。

わたしは、クロワキ主任の補佐官だけど、本業はただのサポーター。

わたしといっしょにいた他の引率者のみんなも、

その正体はオハコビ隊のサポーターなんだよ。

ふだんは、ここの最上層にある『サポートタワー』から、

フライターへの遠隔サポートをしてるの」


一度にたくさんの情報をもらったせいで、

ハルトは頭がパンクしかけたものの、ちょっとは理解できた。

オハコビ竜はフライター。それとたくさんのサポーター……。


「ねえねえ、オハコビ隊ってすごいんですか!?」

「タスクくんとトキオくんが話してくれたんですけど!」

「ここみたいなターミナルを、他に四つも持ってるって本当ですかー!?」

「ねえねえモニカさん、教えてよー!」


いつの間にやら、他の参加者たちがモニカさんのまわりをぐるりとかこんでいた。

どうやら、ケントたちの話をにわかには信じ切れず、

モニカさんに証言をもとめているようだ。


ケントたちも、窓のそばからモニカさんに救いをもとめる目をして立っていた。


「おねがーい、モニカさん。あたしたちだけじゃ、ちょっと大変なのー」

と、アカネがどっと疲れた顔で言った。


「うーん、説明してあげたいのもやまやまなんだけどね。

そろそろ到着が近いから、

くわしいことは竜さんに答えてもらってね」


えええー?  参加者たちの残念がる声が見事な和音になった。


リフターは、垂直に伸びるチューブが合流する地点までくると、

一瞬の停止のあとに、上層へむかってみるみる上昇していった。

八、九、十――次々と天井をつらぬき、リフターの階層表示数が上がっていく。

十一、十二、十三、十四……十五!


『――第十五層・一番ポートです』


リフター内にひびく機械音声。

ドアが開き、モニカさんのあとに続いてみんなは外に出る。


その先に見えたのは、天井が何メートルも遠すぎる広大なコンコース。

その亜人でごった返す通り道の前に、

フラップたち十四頭の竜たちが、横一列になって勢ぞろいしていた。


「みなさん、お待ちしていましたよ!」


フラップの元気のいい歓迎の言葉とともに、

他の十一頭もにこにこしながら腕をふった。


彼らの胸には、機械の中に埋めこむように挿入された、

あの橙色や桃色の卵がだかれていた。
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