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第六章『白竜さまの島』

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ハルトたちはそれからあてもなく、

島のめずらしい草花や景色を味わいながら散策を続けていた。

フラップは島の動物や植物のことをいろいろと教えてくれた。

そのおかげで、ハルトたちはおだやかで有意義な散策ができていた。


とある池のほとりで、モモイロガモという水鳥の群れをながめていた時だった。


「――おっと、通信が入った。はい、もしもし」


フラップは、

ゴーグルについた青い丸ボタンを押しながら、だれかと交信をはじめた。


「あ、モニカさん!

はい……ええ、はい、ハルトくんたちと楽しくすごしていますよ」


相手はあのモニカさんのようだ。他の隊員たちをさしおいて、

わざわざフラップに直接通信を入れてきたのはなぜだろう?


「――ハルトくん、スズカさん。今ね、モニカさんから連絡が入ったんです。

白竜さまの湖のほとりに集合だそうです。お昼ごはんの時間だって」


「もうそんな時間かあ。あっという間だなあ」


いつの間にか、さびしい気配のするお腹をさすりながら、ハルトは言った。


「自慢じゃないけど、じつはモニカさん、ぼくの専任サポーターさんなんですよ」


センニンの、サポーター?  ハルトたちは首をかしげた。


「そっか、おふたりにはお話してませんでしたよね。

オハコビ隊員の中にはね――」


『わたしのように、特定の竜さんとタッグを組むサポーターもいるの。

たいていのサポーターは、ひとりで多くの竜さんたちの支援を請け負うけどね』


フラップのほうから、

モニカさんの声が拡声スピーカーから飛びだすような音質で聞こえてきた。


「えっと、今モニター出しますね!」


フラップは腕の端末を操作し、端末の表面をだれもいないほうへスライドさせた。

スライドした方向に、ぱあっと大きな空中モニターが現れ、

そこにモニカさんの顔が映し出された。

彼女は、なかなかいかした白いヘッドセットをつけて、

ゆったりとしたソファらしきものに腰かけている。

でも、なぜだか乗り物用のシートベルトを身につけていた。


『ハルトくん、スズカさん。楽しんでくれているみたいね。

今、ターミナルのサポートタワーから、通信しています。

酸素の補給はちゃんと行ってる?』


「ああ、うん、やってるよ」

「やって、ま、す……」


『ならオーケー。慣れない土地では、油断大敵だよ。


わたしはね、一般的なサポーターの中では、

ちょっとだけ高いランク評価をもらってるんだ。だから、

フラップくんのように、普段大事な業務を行う優秀なフライターについて、

ツーマンセルで仕事をしているの。まあ、ふたりには関係ない話かもね』


「へ、へえ~、そうなんだ」

ハルトは思いがけず、モニカさんの秘密を知ってしまった気分になった。


「モニカさん、優秀だなんてぼく……照れちゃうなあ」


フラップは、嬉しそうに身をひねるしぐさをした。まるで女の人みたいだ。


『ほらほら、浮かれちゃいけないよ。それはそうと、集合時間。

他のみんなは、とっくにほとりに集まってるよ。フラップくんたちも急いでね』


ハルトはひとつ気になった。

フラップが普段行っている業務は、普通の隊員業務とはいくらか違うようだ。

いったいどのような仕事なのだろう?


再びフラップに運ばれて、急ぎ湖のほとりに来てみると、

そこには二十二人のツアーメンバーとそのオハコビ竜たちが、

巨大な青と白のしましまレジャーシートに座って、

すでに昼食の支度らしいことをしている様子だった。

それも、半球形の透明ドームの中で――。


フラップが言うには、オハコビ隊が用意した特殊装置だという。

中は密閉されているが、ちょうどいい酸素と温度が保たれているらしい。


ドームの入り口には、二頭のスーツ姿のオハコビ竜たちが待っていた。

ハルトたちは、彼らの案内をうけ、

大きな二重ドア――酸素をもれにくくするためのようだ――をくぐった。

そして、東京の四人組とようやく合流した。


フリッタとフレッドが、一度スーツを外しなよとすすめたので、

フラップも腕の端末をささっと操作し、フライトスーツを一瞬でぬいだ。

まわりの隊員もみんな、同じようにしていたからだ。


    *


「これうまっ!  あのさ、これなんて料理名?」


ケントが、

黄色い生地に巻かれた白い餅のようなものをしめして、フリッタに聞いた。


「それはねえ、『ポフスト』っていう、魚人族から生まれた料理だよん。

中にツナっぽいのが入ってるでしょ?」


「うーん、あたし、このお花を使った肉料理も好き!

ね、これ前にも食べたよね?」


「そうでしたね。

あの、フレッドさん、この料理はなんて言いましたっけ?」


アカネの食べている小さな赤い花の茎を巻いた肉料理を指さして、

トキオがフレッドにたずねた。


「ああ、それかい?  『白豚肉のアマシバナ巻き』だよ。

アマシバナは、摘みたてで食べてもおいしい。

さっぱりした味わいだから、ネコ族のメスたちの間で人気なんだ」


子どもたちは、何もない静かな湖の景色をながめながら、

竜たちと和やかな昼食を楽しんでいた。


竜たちが班ごとに用意した大きなランチボックスの中には、

見たことのないさまざまな料理が、所狭しと詰まっていた。

食欲をそそる香りに満ちた、スカイランドのご馳走弁当だ。

不思議な酸味があるタレを使った鶏肉や、

とても甘みの強いジャガイモを使ったかわいい渦まき型コロッケ、

雲のようにふわふわでもちもちとした食感がくせになるチーズ料理――

このあたりが、ハルトのお気に入りになった。

他にもいろいろあって、ハルトはどれも少しずつ割りばしで紙皿にとり、

しっかりといただいた。


いっぽうでスズカは、ハルトの後ろに隠れて、

ケントたちの目を忍ぶかのように食べていた。

そのそばにはフラップがついていて、

スズカにお弁当の献立について教えてあげているようだった。


(今のスズカちゃんは、フラップにまかせておこう)


ハルトは、今はとにかくスカイランドの料理や、

ケントたちとの会話に集中したかった。
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